思えば彼の瞳を見たことがない。
 いつも分厚いレンズ越しに、どうして視線がかち合っていると手放しに信じることが出来ていたのだろうか? 一度気付いてしまえば、今まで考えたこともなかった自分の愚かさに羞恥さえ覚える。色も形も知らないものを、今まで見ているつもりでいたのだ。知ってどうなることもないし、知ることもないのだと、分からないほど愚鈍な頭はしていなかった。


 結局それを見ることはなく、その事実が時折こうして思い出されるほどの過去となった今に、今更あの感情に名前を付けたがるのは愚かなことであった。手に入らないものにばかり考えを巡らせることの無益さは、よくよく理解しているのだ。


16.ターゲット
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