そんなことが有り得る筈がなかった。

 例えば百歩譲って、クルルがこの天候管理さえ出来ない非効率的極まりない科学の遅れた、ちっぽけな青い星に、手放しがたい同調ないしは執着を覚えていたとして、それは彼の根本的なつくりに影響を及ぼすようなものではない筈だった。自分はひとなど好きにならないだろうと、昔々、尻尾のあるような頃からそうやって自分を評価してきていた。
 例えば更に百歩譲って、長く緩やかで怠惰な日々を重ねるうちに、周りに愛着に似たものが芽生えているとしたって、そんなものは取るに足らないものである。切り捨てられるものである。少なくともクルルは、そう信じている。だから。もし個人に言いようのない感傷を抱いて、もしそれが恋だとか愛だとかそういうものであったとして、それでもそれは、クルルのものではなかった筈だった。

 それなのに。――それなのに!

「クルル、」

 例えばひとりが容易く呼ぶたった3文字、クルルを見て華やぐみたいな顔のこと、すべては彼の知ったことではなかった。すきだなんてたった3文字を、生真面目になぞった唇、慈しむみたいな声が、耳障りだった。特別なんかではなく、ただ単純にその大仰な反応から愉快だけをもたらす存在でしかないのだ。
 すきだなんてたった3文字、どうしてすぐに、笑い飛ばせなかったのだろう。




25.ノイズ
 「くだらないと〜」の黄←赤書く過程でできたやつなので、似たような感じ。
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