「1から0なら、0だな。」
その言葉は、モニターによって青白く照らされる室内に、やけに嵌まるものだった。あの画面の中にあるものなんて、1と0でしかないのに、あまりにも沢山のことが出来てしまう。こいつはきっと、その沢山を、更に多く出来る奴なのだろうと、俺は目を細める。あの青褪めたような印象の指先に、出来ないことはないように思われた。
「どういう意味、だ。」
椅子を回し、俺を見上げたその顔には、普段より幾分情けなくも見えるような、僅かにぎこちない表情があった。戸惑いの、色だろうか。
「アンタは選ばない筈だったのにって話だぜ、せんぱい。」
お前が俺を選ばない話だったのか、俺がお前を選ばない話だったのか。 どちらかも分からない俺は、その間延びした声にただ相槌を打った。ああそうか、そうだったか、と。それだけの言葉にも「先輩のそういうトコが、面白ェよ。」だとか笑うものだから、相も変わらず中身のない相槌を放るのだ。ほんの一瞬過る、年相応にさえ見える、不安定さに。 そうして俺は、空洞のような此処に、積もりもしない0を見る。満足したように笑う、鮮やかさを、
22.ニヒル それをひとはさみしいとよぶのだ。
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