例えばLとRを1つ間違えただけで、とんでもなく意味を変えてしまう言葉を、そのまま気付かずに使い続けていたようなものだった。
 キーボードの、隣り合わせになっているのを偶然打ち間違えたのでもいい。
 どっちも、これで合っていると思い込んでいるから間違いに気付かない。下手したら何年も思い込んだままかもしれない。気付かれなくても間違いは間違いで、それ以下にはなれどそれ以上になりはしないのだ。俺みたいな生き物は、そういうところをよくよく分かっているものだと思う。
 つまり俺は間違えたわけだ。それをたった今、気付いたことにしようと思っている。
 嘘みたいなことだ、ドラッグしてさっさと捨てるか、編集して上書きすれば、なかったことになるだろう。だって知らなかったのだ。そんな言い訳で、やり直せないこともなかった。
 正しい言葉など最初から知らなかったのだから構わなかった筈なのに、何故だろうか。それでもLとRを間違えたような、隣り合わせのキーを叩いてしまったような、そういう根本的なミスから生じた不可解な感傷を不要だと割り切って、何処かへと送りたくはなかった。衝動に任せて壊したりは出来そうになかった。

(――たとえば正しい言葉、美しい感情、色めき立つ様々な、)

 果たして、とんでもなく悪気のないミスから生じたバグみたいな感情を、俺は手放したくないと思っている、それだけなのだろうか。それこそ嘘のような、何処かイカれたような、下らないことではあるが、




8.クラッシュ
 残念ながらそういうことのようでした。

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