戯れに触れたら、当たり前のように柔くて、多分俺は驚いたのだろうと思う。瞳は何の感情の色も見受けられなくて、凪いだ無感動を宿しているというのに、上っ面を覆う皮膚はありふれた生き物のそれだった。生きているのだから当たり前だが、どうしてかとても想定外の出来事のように思えたのだ。

「……小さっ。」

 結局口から零れたのは、そんな当たり障りのないことだったけれど。呆けたように俺を見る瞳の不可思議な色味を、まじまじと見つめ返す。
 生きて、動いているのを、ここまで直視する機会なんて殆どない。とても貴重なことだ。例え出来損ないでもこれは――

「こら、うちのマッシュに何してるでありますかー!」

 ――後ろからの声は、あまりに明るいふざけたものだった。朗らかさばかりで緊張感なんて微塵もない、いつものやつだ。
 固まっていると思った表情が、俺の後ろへと視線を投げた途端にゆるりと綻ぶのを見る。その瞬間、僅かに芽生えていた考えは急速に萎えてしまった。考えるだけ無意味だ。これはそういうモノではない。少なくとも、我らが隊長サマの中では。
 訳もなく笑えてきた自分に、短く嘆息する。

「べっつに? 何もしてねェよ?」
「全くもー、さっき散々我輩に冷たいこと言ったくせに……勝手なヤツでありますなぁ、マッシュー?」

 膝をついて。目線を合わせて。両肩に触れて。覗き込むように首を傾けて。甘ったるい声を上げて。
 そんな一連の動作を、どんな風に解したというのか。

 ――キルルはまるで、ほんものの幼い子供のように、愛情を抱えきれないほど手渡された顔で、笑ってみせたのだ。



15.ソリッド・ステート
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