傷付いたふりが上手いと言われたとき、思いの外鮮やかに自分が抉られたことが分かった。そうしてそれは、彼にも良く分かったようだ。まるで、頬でも張られたみたいな顔をする。

「……そういうの、を、言ってるんすよ俺は。」

 彼から零れたのはその言葉と、細くて長い溜め息だった。僕に掠りもしないで真横を通り過ぎてゆく、直線のイメージ。当たり障りのない切り返しに最も驚いたのは、どうやら彼自身だったらしい。全く意図せず落ちたらしい言葉を、他人のものみたいな顔で眺めていた。

「きみは随分と無害になったね。」
「油断させてから落とすのが、嫌な奴の通説ッスよ、先輩。」

 水面下の焦りが透けて見えるようで、僕もさも無害そうに微笑んでみせた。苛立たしげな舌打ち1つ。
 此処で彼は少し丸くなった自分に戸惑って、僕は全ての棘を失ったくせに一部がささくれ立っている。きっと程度は違うけれど、彼も聡明であれと誰かに言われた覚えがあるのだろう。付きまとう不安が、いつも後ろから指先を掴まんとしていた。

「いやになるね、」

 流れるように吐き出した言葉は、寂しい程に重さに欠けたものだった。直線にすらならない。肩を竦めた僕に、彼は何故だか再び、頬を張られたみたいな――泣き出す直前の子供の、心許ない顔をするのだ。
 彼はきっと、いつか訪れる終わりにだって、そんな顔はしないだろう。想像の中でだけ人並みに悲しめる終わりが、擦り切れるほどに再生されて消費されていくのを共有している。


42.レクイエム
 うつくしい歌が歌えない。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -