(片思いと片思い)





「だからガキは嫌いなんだ。」
「……いきなりヒドいですぅ。」

 不機嫌全てを表情に出して、苛立たしげに机を爪で叩き鳴らす姿は、なかなか見られたものじゃなかった。ボクはただ軍曹さんと話していただけなのに、その中の何か――あるいは全てが、曹長さんの機嫌を損ねたらしい。酷い話だ。ここ最近、急降下を続ける不安定な機嫌でもっての、ただの八つ当たりでしかない。

「お前、……お前さァ、そういう風で、恥ずかしくねェの?」
「そういう風って、どういう風ですか。」
「隊長のこと好きで好きで堪んないみたいな、」

 珍しく嫌みでも何でもなく正しい言葉が見付からないらしい彼は、結局そこで言葉を止めた。ボクは振り向いたままの体勢で、頬杖をついたまま何処かを見ているその顔を見ていたのだけれど、ふと何も言い返していないことに気付いた。どうにも返答を求めていない疑問形だったものだから、ボクは戸惑ってしまう。

「だって、好きで好きで堪んないですし。」
「見てて恥ずかしいぜェ?」
「自分が出来ないからって、あたりが強くないですかぁ?」

 そこでふと黙って息を吐いた彼が、どうやら脳の6割は違うことを考えているのではと漸く気付く。惰性のままに苛立ちを口をしているのだろうか。本当に良い迷惑だ。上の空のまま、視線が宙を泳いで、ふと諦めたように頬杖を崩してテーブルに突っ伏した。

「……隊長を好きになると、諦めが一周回って悟ったみたいになんのって何なんだよ。」

 言葉は、明らかにボクだけを指しているものではなかった。そのためじゃないような体で、しかし、確かにボクをささくれ立たせるために紡がれた言葉だった。
 それで漸く分かる。苛立ちの理由は多分、ボクじゃない方の人なのだろう。叶わない恋に理想を描いて理解を求める、あの美徳とやらが理解出来ない。

「恋とか愛とか、そりゃあもう錯視的なものに、夢なんか見なきゃいいんだけどなァ?」
「叶わない同士の、理解を共有するのが嫌なんですね、曹長さんは。」
「当たり前だろ?」
「なら、上の空で他人と会話なんてしない方がいいですよ。」

 喉で一度詰まる、短い笑い声。
 寂しい馴れ合いが嫌いなくせに、理解ばかり出来る頭が上手く咀嚼出来ない事柄は、もう溢れんばかりに降り積もっているに違いない。巡らせる考えは、一体何処に帰結するのだろう。
 その全てを飛び越えて、ただ子供のように、ただひとりの口からたったひとつの言葉が落とされることだけを願っているのだ。つまりはそういう恋をしているに違いない。他人事みたいに思っている。



32.ミーイズム
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