左手の小指と小指を繋ぐ赤い糸の話を聞いたとき、確かボクは、狡いと言った。


「そうしたら軍曹さんは、ただ小さく笑っただけで、ボクは多分そういうのを狡いって言ったんですよ、」

 黙って、自分の組んだ指を見ていた兵長さんは、ただただ柔らかで無害な声で相槌を打った。その、吐息混じりの慈しみに溢れたものの喋り方が、ボクの気に障るのだ。
 決して言葉にはしない。それでもいつも、目を伏せるようにしながら、思っている。

「狡いとはまた、幼い言い分でござるな。」
「……そういう言い方、嫌味ですかぁ?」

 くすくすと笑って、そんなつもりはと当たり障りなく答える。ぞわぞわと、背筋が粟立つ感じ。何となく、嫌だ。

「分かっていても諦めないのは、とても労力が必要で、だけど素敵なことだと思うよ。」

 その声音。その動作。その表情。
 すべてが鋭く尖って、心の端をつつきにくるように思える。
 何もかも諦めたような顔で、それでいて素知らぬ顔で真っ直ぐな感情を向ける姿勢が理解しがたかった。ボクには、何もかもが諦められない。ただ傍にだなんて、殊勝なことなど考えもしない。大人の理屈に納得などしない。

 それでも、理解はしているのだ。


「でも、たとえ、あの指に赤い色が纏わりついていたって――」


 理解しているからこそ、続く言葉に耳を塞いでしまいたかった。
 僕は狡いと言ったのだ。理解出来ても納得の出来ない、そのすべてを。なのにこの人はそれを肯定する。柔らかで、無害で、上滑りのする、うつくしい抑揚で。


 ――誰も、選ばれないのにね、と。
 そんな、嘘みたいにさみしいことを、当たり前のように、



14.セオリー
 言葉も上滑りする感じに。うつくしくはないけども。


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