※帰還後のはなし
四角い、真っ白の、閉じられた場所。 ふと泣き出したくなって、堪えられずに小さな手と重ねていた手に力が籠もってしまう。真正面にあるオレンジの色味が強い瞳が、不思議そうにぱちりと瞬いた。稚く首を傾げた姿に、出来うる限りで柔らかく笑んでみせて――それきりだ。
「ちょっと考え事をしていたであります。」
返ってきた笑顔が眩しくて、目を細める。昔と変わらない、堪らなく愛しい気持ちに、昔とは決定的に違う多量の郷愁が混ぜ込まれていて、我ながら嘆きたくなるのだ。自覚してしまったが故に、殊更もう昔のような純粋な感情は二度と抱けない。 丸い頬を両手で包み込んで、額を合わせる。 そうだ、こうやって、心は酷く穏やかだった――嗚呼と喚きたくなって、どうにもならずに笑うしかできない。
「マッシュに見せたいもの、たくさんあったんでありますが、」 「……?」 「考えるだけ、無駄でありましたなぁ……」
かわいいこの子を郷愁に浸る道具にしているのだ。生き長らえる心地に吐き気がした。 あの頃、自分をあんなにも不安定に揺らしていた全てが、気付けば跡形もない。
31.マイナス 優柔不断じゃない軍曹と隔離マッシュ。もし優柔不断エネルギー切れたら、マッシュ隔離じゃ済まされないだろうけども。
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