少佐、と声を掛けると、全てにとは言わないが返ってくる声に、覚えるのは確かな歓喜だった。もしくは、少なくともそれと似通った高揚である。

 幼さの残る面立ちには不機嫌そうな色が乗せられているのだろう、振り返りもせず、低くされた声が発せられる。

「何か用かよ。」
「いいえ、貴方が逐一返答して下さることに、一部下として感動を隠しきれなかっただけです。」
「一部下は、上司が仕事中に気安く話し掛けてこねーんじゃねーの。」

 確かに、と首肯した私を、キーボードを叩く指を止めた少佐が振り返って見る。平常と同じ、何処か不機嫌そうな顔だが、それがかなりの不愉快と不可解を加味したものだとすぐさま諒解出来た。

 ――私の一挙一動で齎される、貴方の反応の全てに、私の感情は高揚するのだ。

 我ながら救いようがない。
 そうして聡明な眼前の子供は、私のそういった救いようのない機敏さえも理解した上で、酷く気味の悪いものを見るような目で私を見ることも知っている。何でもいい。この人が私にくれるものならば、何であろうと、歓喜の念が湧き上がる。
 軽蔑、嫌悪、侮蔑。
 それらの、拭いようもなく深く根付く類の感情を、真っ直ぐに視線に込めながら、少佐は言い放つ。


「てめぇみたいな奴には死んでもなりたくねぇ。」


 ……ああ。とても子供らしくて、今の台詞、素敵ですね。



 36.ヤング・アダルト

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