バァン、



 ――時折、そうしたくなります。
 男が笑う。人差し指と親指で作られた銃が、真っ直ぐ俺の脳天に向けられていた。

「……何のつもりだよ。」
「銃の真似事です。」
「見りゃ分かるが、俺みてーな子供相手に、何のつもりだよってことだ。意味分かんねェぜ?」

 子供を自覚している子供ほど、空恐ろしいものはないとは、いつかのコイツの台詞だったと思う。脆弱を振りかざしでもされているような気分です、と。分かりづらくも遠回しな、低い声音であった。
 喉の奥をくつくつと慣らすような、押し殺した笑い方を男はする。その鮮やかでありながら後ろ向きで鋭利な色を、俺は最も苦手としていると言っても過言ではないのだ。
 その金色の向こうで瞬く瞳は、さながら、捕食者じみた光を宿している。断じて捕食される側ではない俺でも、じわじわと毒されているような心地になるのだから、堪ったものではない。
 ぴんと伸ばされた人差し指は、未だ俺のこめかみから微動だにしていない。撃ち抜かれるわけでもあるまいに、肝が冷える気がした。

「……やはり理由は必要ですか?」

 静かな声だ。そうして何処か、息苦しくなるような粘着質な響きを持っている。
 理由はない。けれど、なるべく声を抑えて口を開いた。

「ああそうだな、俺は理由を求める生き物だ。」

 バァン。撃ち抜かれる音を真似たらしい、間抜けな声を男は上げる。表情は、この上なく満ち足りたものであるように見えた。

「私は貴方を、どうしようもなく傷付けたいのかもしれない。突発的で偶発的な、何の切っ掛けもない感情の爆発のような衝動ではありますが、」

 理由を付けるのが、酷く躊躇われる甘ったるい衝動ですよ、と信じられない程に柔らかな声音で囁かれる。まるで狂気のようだ、なんて、我ながら陳腐な表現だ。
 何処か生温く、纏わりつくような不快感。
 俺は知っている。――男は、俺に、嘘を吐かない。




 3.ウイルス
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