辿り着くにはもう少し
昨日、名字君の事を調べるとシズちゃんと中学校が一緒だった事が分かった。しかも三年間同じクラス。だからシズちゃんと知り合いだったんだと納得。それと同時に何故か悔しくなった。
三年間という時間は結構大きい。
俺の知らない名字君をシズちゃんは知っている。
…シズちゃんは名字君の顔を見た事あるのかな。
「俺、何してるんだろ…」
朝からパソコンの前でうなだれる。結局深夜から名字君の情報を調べたり色々考えたりして寝ていない。はあ、と溜め息を吐いてからキッチンへ向かう。
昨日お礼と称して弁当を作る約束をしたからね。
「イザ兄料理するのー?」
「…兄…食……(兄さんが作ったの食べたい)」
「お前らのじゃないから」
絡んでくる妹達を払いのけて献立を考えながら調理にかかる。何故かその時の気分は良かった。
「はいっ名字君!」
「……」
昼休み。
名字君に朝作った弁当を差し出す。それを無言で見つめてから受け取る。名字君の鞄を見ると昨日見えたコンビニの袋はない。それに少しだけ嬉しくなった。
「ほら、一緒に屋上行こ!」
「は?」
「いいから!」
珍しく表情を変えた名字君の腕を引っ張り、新羅を呼んで屋上へ向かう。たどり着くとドタチンとシズちゃんがいた。
「ノミ蟲…」
「さ、名字君座って!」
シズちゃんの威嚇を無視して隣に座るよう促す。不満そうな顔をしながらも無言で座った。そんな彼に気付いたシズちゃんはびっくりしたように声を上げた。
「名字…何で…」
「連れてこられた」
「珍しいな。誰かといるなんてよ…ノミ蟲はやめとけ」
「何でシズちゃんにそんな事言われないといけないのかなあ」
シズちゃんのさも昔を知ってますとでも言うような発言にイラッとする。
「そういえば、名字君のお弁当は臨也が作ってきたんでしょ?」
「まあね」
「何っ!?」
「へえ」
各々が色んな反応を示す中、弁当を渡された張本人はそれらを無視するように包みと弁当箱を開けた。朝妹達に絡まれながら一生懸命作ったおかず達が詰まってる。
「いただきます」
「どーぞ」
おかずを口に運んでいく姿を自分の分を食べるのも忘れてドキドキしながら見つめる。まずは定番の卵焼きからだった。
「名字…手前!ノミ蟲が作ったもんなんて食うな!ほら吐け!」
「ちょっ…シズちゃん失礼じゃない!?」
「うるせえ!名字に変なもん食わせやがって…」
シズちゃんが弁当箱を取り上げようとすると、目の前に制止するかのように手を差し出した。
「……」
「…名字?」
シズちゃんを制止ながら箸を進める名字君。何ともシュールな光景だ。新羅とドタチンもぱちくりと瞬きをした。
もぐもぐと動かしていた口の中の物をごくんと飲み込んでから、ぽつりと呟いた。
「うまい」
「っあははははは!」
「ぶはっ」
新羅とドタチンが爆笑し、シズちゃんは呆然としている。
それさえも無視して食べ続ける名字君の隣で、俺は顔が熱くなるのを感じた。
(う、うまいって…!うまいって言ってくれた…!)
この熱さの理由は、もうすぐ分かるはず。