神様を撃ち墜とせたら
ゆらゆらと揺れるそれはまるであの人の様だと思った。
掴めずにすっと溶けてやがて消えてしまう。
此方なんて気にも留めずに、ゆっくりと消えてしまうのだ。
ねえ、僕は貴方の視界に映っていますか
「メフィスト様」
ぽつりと呟いたのは個人名であり、僕の世界でもある。
僕はこの世界でないと生きていけない。飼われて二百年経ってもそれは変わらない。
「何だ?」
「今日はお出掛けしないのですか」
「出て行ってほしいのか?」
「違います。今日はずっと一緒に居てくださるのか問いかけています」
じゃら、と重たい鎖を鳴らして首輪を触る。これは僕がメフィスト様の物だという証。生きていても良いという証。
「そうだな、今日は出掛けん」
「……そうですか」
じゃあずっとメフィスト様の傍に居られるのか。
(嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい)
表情に出すことは出来ないけど、メフィスト様が一日此処に居てくださるなんて本当に珍しい。凄く、嬉しい。
そういえば、アマイモン様はそんな僕にお情けをかけてくださったのか、毎日遊んでくれたなあ。
「メフィスト様、今日はアマイモン様は来られないのでしょうか」
僕が訪ねると、メフィスト様の肩がぴくりと跳ねた。
「……何故アマイモンなんだ?」
「アマイモン様は毎日僕に会いに来てくださいます。僕はそれがとても待ち遠しいです」
今度は口元がひくついている。何でだろう……。
メフィスト様は大きな椅子から立ち上がり、ソファに座る僕の目の前に来た。元々身長がお高いのもあり、僕は座っているので思い切り見上げる。
「……アマイモンが好きなのか」
「はい、好きです」
「なっ…!」
「アマイモン様はいらっしゃらないのですか」
再度問うと鎖が引っ張られメフィスト様との距離が縮まり顔が近くなる。
至近距離で見るメフィスト様の表情は、怒ったような悲しそうな、よく分からない顔だ。
「メフィ」
「お前の飼い主は私だ」
この人は何を言っているのだろう。
……そんな、分かりきった事を。
「はい」
「アマイモンではない。私だ、お前を飼っているのは私だ」
「はい」
「……好きだ」
「はい、僕もメフィスト様が好きです」
ぎゅうっと強く抱きしめられ、少し息が苦しくなったけどそんなことどうでもいい。
僕は貴方の視界に映れてたんですね。
「メフィスト様」
噛みつくように口内を貪る。
飼い主に牙を立てるような行為は普通許されないだろう。
だけど、メフィスト様はこうされるのが好きだと前に仰ってくれたから僕は喜んで牙を立てる。
「ふ、…っんぅ、く…」
「は…メフィスト様…」
「はふ…ぁ、…もっ、と……」
「……はい」
僕の飼い主はとても可愛らしい方だ。
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そしてこの後アマイモンが来て騒動に。
『背後の月と影の矛盾』様へ提出。