きみはやさしすぎるから






「夏目様、夏目様、」

ふわりと小さな風と共に姿を見せたのは、鳥の妖である名前。最近名前を返したんだけど、それから名前はずっとおれの後ろについてくるようになった。害もないし、むしろ物腰が柔らかいし助けてくれる。先生よりも頼りにしてるくらいだ。

「どうしたんだ?名前」
「いえ、夏目様がお帰りになるのを見つけたもので」

ご一緒しても宜しいですか、と訊いてくる名前に勿論と頷く。毎日こうしている訳だし、別に訊かなくてもいいのに。

名前はどこか一歩引いているような気がする。


「なあ、名前」
「はい?」
「…家に来ないか?」
「え……」


いつもおれについてくるくせに、家の中には一度も入ったことがない。なんだかそれが寂しくて、誘ってしまう。
けど、名前は悲しそうな顔をするだけだった。

「夏目様、いけませんよ。私のようなものを家に入れてしまっては」
「名前は害なんてないじゃないか。おれを助けてくれてるし、」
「夏目様は人の子、私は妖。これだけで十分な理由です」

いつもの言葉だった。
おれが家に来るよう言ったのは今回が初めてではない。もう何回もやっていることだ。
でも名前は毎回この言葉を使って断ってしまう。

それがすごく寂しい。

どうして君は距離を置くんだ?






「夏目様」
「名前」
「お帰りなさい。ご一緒しても宜しいですか?」
「ああ。毎日こうしてるんだから、訊かなくてもいいんだけどな」
「それでは夏目様に失礼でございます」

次の日も名前は放課後、北本達と別れてから来てくれた。でもやっぱりどこか遠慮がちで一歩引いている。
決して隣には並ばない影を見て少し胸が苦しくなった。


「名前……」
「はい、何でしょう」
「おれは、名前のこと迷惑にも失礼だと思ったことない。むしろ助けてくれるし毎日会いに来てくれる。だから、もっと名前に近づきたい……」

おれは口下手だから上手く伝わらないかもしれない。だけど名前にはおれの気持ちを知って欲しかった。

「確かに名前は妖だけど、害がない。おれは名前に会えたときすごく嬉しいんだ。でも遠慮がちで隣に並んで歩いてくれないから、その……さみしい」
「……」

言っててだんだん恥ずかしくなるが、本心だから仕方ない。

「夏目様、私は妖です。貴方とは種族も生きる時間も違います。そんな私がいつまでも貴方の傍にいたら、いつか必ず邪魔になる……そう理解しながらも私は貴方に近寄ってしまうんです」

す、と名前は一歩踏み出す。

「……名前、家に来ないか?」
「はい、お邪魔します」


今日初めて隣を歩いて帰って、家に招き入れた。

名前、おれは君を邪魔だなんて今もこれからも思ったりしないよ。

だっておれは、君のことが好きなんだから。








  
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