世界にたったふたり






ああ忙しい。
臨也は酷使して痛む目を押さえながら心の中で嘆いた。
最近は依頼が増え、仕事量も半端じゃなくなっている。秘書の波江のおかげでまだ助かってはいるが、それでも忙しい事には変わりない。

(目薬…いや、先にこの件を済ませてからにしよう)

目薬を差す時間さえ惜しまなければならない状況に、臨也は溜め息を吐く。その数は数える事さえ嫌になるくらいだった。

(はあ…名前に会いたい…)

頭に愛しい恋人を思い浮かばせながらひたすらパソコンと向き合った。





「こら」
「いたっ」

それからあまり時間が経たない内に臨也の額に衝撃が走った。見上げると先程まで頭を占めていた恋人の姿があった。思わず手を握って存在を確かめる。

「…名前…?」
「ん?」
「ほんとに名前…?」
「今お前の目の前にいるだろ」

くす、と笑みを零したのを見ると臨也は仕事が忙しかったのも忘れて勢いよく名前に抱きついた。さっきまで頭を占めていた恋人の服越しの体温に、無理やり感じないようにしていた眠気が急に襲ってくる気がした。

「でも何で…」
「恋人の家に無意味に来たら駄目なのか?」
「ううん…嬉しい…」

名前はいつもそうだ。
心の中で願った事をタイミング良くしてくれる。今だって会いたいと願うと来てくれた。ただそれが凄く嬉しい。

「臨也、休んでこい」
「でも仕事が…」
「俺がやっとく。臨也は無理しすぎ。お前の手伝いはもう慣れたし…もうすぐ波江さんも来てくれるしな」

だから、休んでいいよ。
まるで小さな子供に言い聞かせるように名前は言った。それならばその言葉に甘えさせてもらおう。名前の手を引いて寝室まで向かう。

「臨也、俺は手伝いを」
「しなくていい。しなくていいから、一緒にいてほしいんだ」

ベッドに引きずり込んで再び抱きつく。これなら安心して良く眠れそうだと思った。
そんな臨也に一瞬呆けていた名前も、仕方ないなと笑って抱き寄せる。そして耳元で囁いた。

「起きたら誕生日祝ってやるから、今はゆっくりおやすみ」

そうか、今日は誕生日かと臨也は微睡みながら思い出す。誕生日を恋人とゆっくり過ごせるなんて、何て幸せなんだろう。俺には似合わないくらいだ、と頬を緩ませながら意識を暗闇に沈めた。

「誕生日おめでとう、臨也…。愛してる」

そう呟いてから名前は小さな箱をベッドの脇に置いてからあどけない表情をした臨也を抱きしめ、眠りについた。





─────
めっちゃ甘くしてみた。
臨也誕生日おめでとう!


  
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