ふたりで閉じた宝石箱
※暗い。学パロ。
知らない訳じゃなかったんだ。
ただ、その場を実際に見た事がなかったし、そんな素振りも仕草も見せなくて、ずっと笑っていて楽しそうで、ただの噂だろうと思ってた。普通に体育の時だって着替えてたし夏服も着ていた。だから信じていなかった。
ある日、深夜にコンビニまで行った帰りだった。
通りかかった公園のベンチに黒い影がある。この公園は小さな子供以外寄りつかず、この時間帯になれば人気は皆無。
だから少しだけ気になった。
近寄って見ると、クラスメイトの名前君だった。
「……名前君?」
声をかけるとベンチに横になっていた彼はゆっくりと体を起こした。
「…折原?」
「こんな所で何してるの?」
「別に、何でもないよ」
何でもない訳ない。彼の表情は明らかに疲れきったもので、衣服も乱れている。
それにこんな時間に人気のない公園のベンチに横たわっているなんて、何か無いとおかしい。
「本当にどうしたの」
「だから何でもないってば…」
いくら追求しようにも、当の本人が口を割らない限り知りたい事は知れない。
俺はコンビニで買ってきたジュースと肉まんを一つずつ名前君に渡した。
「…これ折原が買ってきたやつだろ?お前の分が、」
「それ妹達にせがまれたやつだからいいよ。あいつらも寝ちゃったし」
残りの分を口にする。少しだけ俺の顔を見ていた名前君だったけど、小さくお礼を言って食べ始めた。
「折原って妹いるんだ」
「年の離れた双子の妹がね。鬱陶しいよ」
「はは、双子かあ」
俺達は雑談をしながら深夜の公園で時間を潰した。クラスでもあまり喋った事がなかったけど、話題は尽きなかった。
「そろそろ帰らないと」
「そうか…悪いな、長く引き止めて」
「俺が名前君といたかったんだよ」
そう言うと名前君は嬉しそうに笑う。綺麗だな、と思った。
「じゃあね」
「ああ…じゃあ、」
結局彼が此処にいた理由は分からなかったけど、不満なんてなかった。
「……え?」
次の日、朝のホームルームで担任は泣きながらこう言った。
「苗字が…自宅で亡くなっていたようだ…っ」
それを聞いたクラスメイト達は一気に泣き出したり呆然としている。
見つけたのは警察。深夜に怒号と物音が絶えず、近所の人が通報し警察が乗り込んだら父親らしき人物と傷だらけで横たわっている名前君を発見したそうだ。
ああ、あの噂は本当だったんだ。
名前君は、父親から虐待されていた。
昨日会った時、彼はもう───。
そこまで考えて頭を左右に振る。
まさか。でも、だとしたら…最期に会ったのが俺で良かったのかな。
決して返ってこない問いかけ。
何で気付かなかったんだろう。何で無理やりにでも訊かなかったんだろう。何かある筈だと分かっておきながら、噂を知っておきながら。
ただ無性に悔しかった。
今日の放課後に、もう一度あの公園に行ってみよう。
そしたら、また彼が綺麗に笑っているかもしれない。
目が熱くて熱くて仕方なかった。