良くも悪くも愛まみれ
「ファウスト様」
「何ですか。今は忙しいのですが」
私が頭を下げながら呼びかけると、ファウスト様はゲーム機を手にさらりと言いのけました。悪趣味なピンク色のゲーム機で遊ぶ事が忙しいなどとよく言いやがりますね。
そんな事は無視して自分の用件を伝えるべく頭を上げた。
「先日お取り寄せした新作ゲームが届きました」
「ほお!さすがアマ●ン!配達が早い!」
「此方です」
何故通販したゲームをこうしてわざわざ私が届けなければならないのか…。そもそもファウスト様が配達が来たら持ってきて下さい、なんて面倒な事を仰るからいけないのです。配達なんて腐る程来るのですよ。こんな事をしている暇があればもっと仕事を片付けたいですよ。今持っている届いたばかりの新作ゲームを真っ二つに割ってやりたい気分です。
「そんな事をしたら直接同じ物を買いに行って貰いますからね」
「すみません、私とした事が…口に出ていましたか」
「……さっきから思い切り喋ってますよ」
「そうですか」
まぁ悪いのは全面的にファウスト様ですし別にいいでしょう。ゲームを渡して退室しようとすると、ファウスト様に呼び止められてしまいました。しょうがないので、退室を諦めます。
「…何でしょうか、ファウスト様」
「私は今おやつが食べたいです」
「そうですか、でしたら召し上がられてはどうでしょうか」
私がそう言うと、ファウスト様は拗ねてしまいました。全く、面倒なお方ですね。
「…だから、さっきから口に出てるんですよ!」
「すみません」
「……名前はそうやって、いつも私を面倒だと言うんですね」
ファウスト様は私に背を向けてゲーム機を握る手に力を込める。そのお姿がどうしても拗ねているようにしか見えないのは私だけでしょうか。
「…分かっていますよ」
「え?」
「ファウスト様が何故こうしていちいち私を使うのか」
私は知っています。
大きめの机に片手をついて背を向けていた椅子を此方に向かせる。近距離でのファウスト様は微かに目を見開いた。あは、間抜け面ですね。
「ファウスト様は私に会いたいから、どれだけ小さな用件でもこうして呼び出すのですよね」
「な、…!?っちが、」
「知っていましたよ、ぜぇんぶ」
「ぁ…う、」
「そんな所が面倒で、」
下を向いて俯いてしまったファウスト様。ああ、本当に、
「可愛いですね」
これだから止められないんですよ。
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止められないのは毒舌です。
このやり取りは初めてではなかったり。