*小学生編から中学生編へ。


【黒板】


「あー」
「どうしたの、薫ちゃん」
「オヤジ臭い声やな」

 卒業式前日夕方。帰り支度を整えた三人は、黒板の前に立っていた。

「いや、この黒板も今日でお別れかと思うと、さ」
「ああ、そういうこと」

 そう言って黒板をゆっくり手のひらで撫でる薫に、合点が行ったと頷く紫穂。

「なるほどなあ、ウチらの初めての黒板やもん、少し寂しゅう思うわな」

 そして、そういえばあの頃より随分と二人の髪が伸びたと、ふと、思いながら相槌を打つ葵。

「ここに、私達の名前、書かれたんだよなあ」

 肩にかからない位だった薫の髪は、いつの間にか腰に届きそうな程に伸びていた。

「うん、そう。私達が学校に通いだしたことを初めて実感したのって、きっとそれよね」
「そやな」

 紫穂も葵と同様に感慨に耽っているのか、少し遠い目をしている。手のひらから僅かに能力を発動している気配もするから、きっとサイコメトリでより深くそれを感じているのだろうか。

「だからさ、そう思うとちょっと、なんか、ね」

 薫は、ずっと静かに目を伏せていた。

「……大丈夫よ、薫ちゃん」

 彼女の発言で遠くを見るのをやめた紫穂が、薫の肩をポンと叩く。

「へ?」

 薫は、その感触に顔を上げ、二人のいる後ろを振り返った。

「そや、この黒板無くのおっても、ウチらが学校に行くようになったんは、変わらない」
「ええ、そしてこれから中学校に行っても、それは変わらないのよ」

 そこには、笑顔で立っている幼い頃からの親友達が居て。思わず、目がうるむ。

「二人とも……」
「だから、ほら、もう帰りましょ。皆本さんのご飯、冷めちゃう」
「そ、それはあかん! はよテレポートで、」

 あえてなのだろう。二人は努めていつもどおりの会話をし始めた。きっと、薫を安心させようと、そう思って。

「超能力通学、禁止〜」
「ああん、ちょっと位カンニンしてなあ……」
「……うん、ありがとう、かえろっか」

 だから、この黒板ともちゃんとお別れ。少し名残惜しいけれど、彼女たちと行く未来は、きっと今まで以上に素敵なものに違いない。

「歩きで?」
「勿論! だってこの通学路が小学生の私達が歩いた初めての道なんだから!」

 今日は、やっぱり自分はこの仲間達の事が大好きで大好きで、仕方がないのだなと実感した薫達の小学生最後の日だった。





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