*撃たれて少ししてからのこと。



【夏の苦味】


 人間というのは随分と簡単に消えてしまうものなのです。さながら崩れる夏の氷菓子のように。

 そういえば隊長は昔、何度か僕を甘味処へ連れて行ってくれましたね。任務が一息ついた時、そこでちょっとした『でぇと』をよくしました。
 随分と懐かしい思い出です。隊長とそういう名目で出かけたことなんて、任務も増えたここ数年はあまりなかったですから。
 僕はいつもかき氷を食べていましたね。冷たい氷の破片が火照った脳みそを甘く、さくさくと引き締める感触がどうにもたまらないものだったのです。
 隊長は白玉ぜんざいにお抹茶を嗜まれていたのが常だったと記憶しています。ふにふにと丸い白玉の甘味を少し渋めの茶で流し込むのがお好きとのことでした。よく、覚えています。

 いまでもよく覚えています。朝、毎日「おはよう」を交わしあったこと。部隊の皆で笑って過ごした、昼時の食事。そして、夜。あの夜。初めて隊長の寝所に入った、あの晩。二人で未来の部隊について語らった、あの晩の日。忘れるものですか。忘れられる、ものでしょうか。

 隊長。隊長。今からでも全ては悪い冗談だったと言ってさえくだされば。さすれば僕は、なんだ、ひどい冗談ですね、なんて笑って全てをなかったことにできるというのに。
 でも隊長はもう、物言わぬただの死骸なわけでして。しかして僕ももう、戻れる予感の欠片すら、ないわけでして。

 夏の氷菓子。溶けて消えて水になった、壊れたかき氷。どうか教えておくれ。これは悪い夢なのだと、教えておくれ。自分でどれほど頬をつねっても、舌を濡らすのはこの目の淵から落っこちた、しょっぱい檸檬味の汁だけなのだ。鼻をきん、と通るいたずらに澄んだ甘味は、いつまで経っても頭の片隅で凍りついているというのに。





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