*フェザー時空の未来の話なのでどういう失恋かはお察し下さい。



【別れの間際に】


「……行くのね」

 あの子を撃ちに。スーツの内っかわを確かめる様にまさぐる彼の胸元には、きっと冷たい熱光線銃。

「……うん」
「他に、手立てはもう無いの?」

 無いことを知っていて尋ねるのだから、私も酷い女だ。夕刻の、薄紫に閉じる光の中で白い蛍光灯がその顔を浮き上がらせる。窓ガラスに映り込んだ薄青を帯びた頬は、少し痩けていつもよりちょびっと不細工だった。

「……うん」

 どうしてこうなってしまったのかしら。考えても考えても私のちっぽけな脳みそでは何もわかりやしない。

「あの子を撃って、そして貴方はどうするの」

 でも、それもそうでしょう。だって彼の恐ろしく突飛抜けた素晴らしきこの頭脳でも、答えは結局出ずまいだったのだから。

「…………」

 私の問いに彼は、静かに顔を伏せて少し長めの睫毛をふるりと揺らして。

「その時には、僕も、共に」

 きっぱりと、言い放った。

「そう、なのね」

 曲がったことの嫌いな貴方だったから。そうと答えることはこの何の役にも立つ事の出来なかった愚かすぎる私にですら、わかっていた。

「うん」

 そんな彼の意志と同様に、その瞳も真っ直ぐ夕日色に光っていて。

「そう……」
「……では、さようなら」

 その視線に晒された眩しさに思わず目蓋を閉じて、ああ、私はこの人を好いていたのだと、初めて気がついた。

「ええ……さようなら」

 彼が最後に私に届けたのは鉄製のドアの閉まる冷たい音だった。さようなら、私の静かな恋心。水音立てて、青空遠く飛んでゆけ。あの人の奏でる鈍たらしい銃声に、仄かに飛び乗って。





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