*R-15位の猟奇的描写。審神者の首が飛ぶ。
【彼岸の縁側】
「……歌仙?」
歌仙とは、縁側で偶に日向ぼっこをする事がある。
「なんだい、主よ」
まあ、共に日向ぼっこと言っても、ただ私が縁側で歌を詠む歌仙の膝へ一方的に座りに行くだけなのだが。
「何故、私の目を覆うのだ」
それが、今日は違った。歌仙兼定はいつもと違って私を待っていたかの様に、ただそこへ座っており。
「なんでだろうねえ」
いつもの様に私がその膝に座ってすぐ、後ろからその成人男性ほどの大きさながらも女性のそれの様に何処か気品を感じさせる手に、顔を覆われた。体勢から言えば後ろから抱きしめられている様に見えなくも無いが、辺りに漂うのはその様子から連想されるであろう穏やかな春の陽気とは違って、割れる氷の様にただただ静かな、まだ冷たいそよ風だけだった。
「……歌仙」
「なんだい」
そして極め付けに、これ。
「この、首に当てて居る物はなんだ」
聞かなくともわかる。私とて審神者だ。この鋭利な冷たさ、間違う物か。
「そりゃあ、僕の腕さ」
「神体の、か」
彼の、刃だ。
「そうなるね」
「……私を殺す気か、歌仙兼定」
「…………」
さて、これは参った。私は審神者。そのまま字の通り、ただの審神者なのだ。
「これは、謀反と取るべきなのか」
こんな上からに物を言いつつも、神を降ろす者はそれに逆らう事は出来ない。神と人なのだ。天上に住まう物と地を歩む者。どうして逆らえると言えようか。
そして私は神を降ろし、使役する事以外に出来るものは何一つとて無い。私の身を守るは刀剣男子。今私の身を殺めようとしているのも、その刀剣男子。常は私を上の物と、私に自らは敵わぬのだと思わせては、居るのだが。
「…………」
「応えよ、歌仙兼定!!」
しかして、気づかれたが最後。神とは残酷な物なのだ。その上に居るに値しない者など即座に切り捨てて、おしまいだ。
まあ、やはり常ならばそうなる前に刀解して時空の流れに神を還すのだが、今この完全に命を握られた状況でそれが出来るとも思えない。
抜かったな。神を使役する冒涜者の最後なぞ、こんな物か。それもまた、致し方ないのだろう。審神者なる人となった時点でいつかはこうなるとは分かっていた。
「……大丈夫だよ、主」
さて。そんな、まるで走馬灯の如く考えを巡らせていた私の耳に届いた言の葉。それは、まるで泣く幼子をあやす母の如くに穏やかで。
「何……?」
私の首へと浅くめり込ませた鋭い刃を、今にも引かんとする彼のこの時にはあまりにも似合わなかった。
「大丈夫、大丈夫。一瞬だから。すぐ終わるから。酷く痛くも無いから。ちょっとチクリとするだけだから。だから、大丈夫だ、すぐ、後から僕も行くから、大丈夫、大丈夫」
だから、油断した。私は最期まで間の抜けた審神者であった。
「力を抜いて、安心して僕へ身を任せるがいい」
その言葉を聞いた刹那、彼の膝へと落ち、目隠しの取れた私の首が見た物は、今にも泣き出しそうな顔で笑いながら私の血に濡れた自らの刃を折らんと庭石へ叩きつけようとする彼の姿だった。
「さようなら、審神者」
何故、彼がこの様な凶行へ走ったのか。この審神者だけでなく、わざわざ自らまでをも死へと至らしめたのか。事切れた私には、考える時間なぞもう幾ばくも存在し得なかった。ただ、穏やかな晴天の陽光に瞳を曇らせ続けるだけ。
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