*少々物騒。出だしに1つ、コピペネタ。一騎打ちの台詞ネタ。



【妖怪首押し付け】


「春はあげぽよ……」

 歌仙兼定が、常日頃の様に今日の日柄を歌に詠んでいた所。

「歌仙よ」

 何処からともなく現れた審神者に、邪魔をされた。

「なんだ」

 つい、少々とつっけんどんな返答をする。常は文系だとか風流、雅、目利きなぞ武刀とは思えぬ口上を述べてはいるが、その実、歌仙兼定は短気だ。気性も荒い。そこは元主から受け継いだ気質でもあるのだろう。気分よく歌を詠んでいた所に少し水を差されただけで、すぐに機嫌を損ねる。
 そもそも、勝手に私室へ入られた時点で彼の癇に障った様だ。まずは声をかけるなり、戸を叩くなりすればいい。審神者の住む時空では『ノックする』なぞいう文化もあるのだから、その位やってくれたって良いだろうに。そんな彼の不満を、寄せられた眉が明細に物語っていた。

「その首おくれよ」

 そして、そこまで彼の気分を盛り下げてまで伝えに来た言葉が、これだ。

「断る」

 首を寄越せ。何という願い事だ。誰が、命じられたという訳でも無いというのに喜び勇んで首を渡すものか。幾ら手入れが十分で生存が最大値であろうとしても、首なんざ切って渡せば流石に重傷どころか即、刀身破壊である。
 まあ、戰場で毎日のように「首を差し出せ」なぞ敵兵に叫ぶ彼の言えた台詞では無いのだが。歌仙兼定の中では命令口調と依頼口調の差は大きいらしい。

「ではこの首受けよ」
「要らぬ」

 しかもその代案も実に気に食わぬ。審神者の首。敵の首は刀の誉れ、そちらは欲しいには欲しいが、審神者の物は仮に大金を積まれたとしてでも触れようとすら思わない。無用の長物。邪魔なだけだ。

「つまらん」

 それに主が死ねば、当たり前だがその持ち物である刀共は露頭に迷う事となる。彼にとってそれは些か困る事だ。この身散る最期まで戦い続けるのが、刀の本道。こんな所で主不在にして滅するのは彼のその意志に反する。

「知らん」

 そしてそんな事よりも何よりも、歌仙兼定がその主の首を嫌がる最も大きな理由が、1つあった。有り体に言ってしまえば、不潔感だ。
 首。そう、それは汚い。汚いのだ。人は血を流す。流れ出る血の臭み、しかも時を置いて腐った肉の放つ悪臭と言ったら、もう、堪らない。
 そもそも刀は血や脂を刀身に触れさせれば触れさせるほど鈍くなる。不必要な殺生をすればするほど、不都合ばかりが増えるのだ。

「……歌仙兼定はケチじゃ」

 審神者が、例えば天下五剣の名刀と数えられる一振り、三日月宗近の様に瞳に月なんぞを遊ばせていたならば、まだ考えたのかもしれない。彼は美しいもの、雅を感じさせるものを大層好む。
 しかし、当たり前ながらそんな事は無い。審神者の瞳はそこらのわっぱらのそれと同じ物。だから、歌仙兼定にその主を殺害する理由はまだ無い。理由がないならばやはりその首は要らぬし、勿論自分の首を渡すつもりもない。

「当然だ」

 ただ、それはいつか理由ができた時はその限りでは無い、と言う事でもあるのだが。

「ぬう……」

 歌仙兼定は、気付かない。





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