School Life | ナノ




SAMURAI学園GTO
(このお話の鬼眼先生の設定…みたいなものです)






「踏み込みが浅ぇ」

声と同時に、ズシリと竹刀に重みが加わる。

相手をしているのは、学生時代に全国制覇を成し遂げた剣道部の鬼顧問。
今やっているのは、切っ先を下げて竹刀を交えたまま、彼が一瞬隙をつくるのでそれを確実に見極め、一気に面を取る稽古だ。
しかし、気迫に負けて部員はどうしても踏み込みが甘くなる。
怒鳴られながらも場数を踏んで慣れさせるのが、今日の稽古の一番の目的なのかもしれない。

練習開始からきっかり30分が経ち、挨拶を交わして武道場の端に目をやると、何時から待っていたのか、今日の日直が日誌を抱えて立っていた。



【School Life】



「剣道部すごいですね。高校総体も近いから」
感心したように少女は声をかける。
「……」
返事はしないが、眉根を寄せた表情はまだまだと言いたいようだ。

「先生も…流石問題児クラスの担任って感じで」
毎日猛者どもの相手をしているだけある。
まぁ、本人の気質もあるけれど。

「…てめぇもその問題児の一人だろ」
「バイトは生活のためなんです!それに…」
言いかけて止める。
この漢に言ったって仕方のないことだ。

「…教室は?」
「片付けバッチリ!もう鍵も閉めました」
教室の鍵を差し出せば、変わりに漢はポケットから別の鍵を取り出した。

「鍵?」
「家の鍵だ」
「って…先生の!?」
「それ以外何がある」
「鍵って…いいんですか?」
「欲しがってただろ」
「そうですけど…」
言いながら辺りを見回す。
誰かがこのやり取りを見ていたら…考えるだけで恐ろしい。
なんともビクビクしている少女とは対照的に、漢は堂々としている。
誰のせいでこんなに気を使わなきゃならないのか、一言文句を言ってやろうと思った時。

「先生ー!あと一回お願いします!」
「……」
チッと舌打ちをして、漢は竹刀を持ち直した。
防具は…もう着けないようだ。
「八時過ぎには帰る」
一方的に言い終えて稽古に戻る。

「…帰る、ね」
呟いて、ゆやは手にした鍵を握りしめた。





貰ったばかりの合い鍵を使い、狂の部屋に入る。
私立の高校教師はなかなかお給料もいいらしく、少し広めの高層マンションだ。
物に執着心がないようで、黒を基調としたシンプルな部屋だが、ソファーとテーブル付近には来る度にお酒の缶が散らばっている。

「もーまた!」
今日もまた、文句を言いつつ缶を片付け始めた。

いかにも彼女のようだが…ゆやと狂は付き合っていない。

これがゆやが問題児クラスに居る所以たる校長直々に依頼された『バイト』だ。

今年の春休み。スーパーでやっていたバイトが学校側にばれ、保護者である兄が校長室に呼び出された。
その場でゆやは、兄妹二人で暮らしていること、兄は関係なく自分が勝手に家計のためにやっていたことを必死になって伝えた。
校長は、「わかりました」と言ってからしばらく間をおき…このバイトを提案したのだ。

「もうすぐ、問題児クラスに新しい担任が来ます。料理なんてきっと出来ない男の一人暮らしなので、彼に夕飯を作ってくれませんか?バイト代は私が出します」
詳しくは聞かなかったが、校長はその『鬼眼先生』の親的存在らしい。

兄は不安そうだったが、ゆやは二つ返事で承諾した。
一人働いてゆやを養ってくれる兄の手助けが少しでもしたかったから。
内容はあまり気にしていなかった。

「どうして袋に集めるってだけのことが出来ないのかしら!しかもこのお酒の量!高校教師がアル中なんて、保護者にバレたら免職問題よ」
文句を言いつつも、テキパキと片づけを済まし、夕食の準備に取り掛かる。
狂が赴任してきた日から毎日やっているので…台所だってリビングだって、物の在り処は家主よりもゆやの方が詳しいかもしれない。

校長は最初、週三日程度のバイトと言っていたのだが、狂の生活能力のなさに呆れたゆやが、いつの間にか毎日面倒を見ている。

後は煮込むだけ、というところまできて、時計を見ると七時半だった。
狂の言った時間までまだ少しある。

リビングのテーブルに宿題を広げ、『先生』が帰るまで待つことにした。





予定通り八時を少し過ぎた頃。
自宅のドアを開ければ、しかめっ面をしたゆやが出迎える。
片手には、今日狂が出した宿題のプリント。

「先生…わかりません」
不本意そうに告げるゆやの言葉と表情に、狂は小さく口角を上げた。

「いくつだ?」
「5つ」
「…昨日よりはマシだな」
「こんな難しい問題を日々題(日々の宿題。訳して日々題)に出す先生他に居ませんよ!」
他の教科や先生が担当してないクラスの問題はもう少し簡単なのに…と続ける。
「数学は慣れだ」
「……」
慣れで解ければ、こんなに苦労はしない。
教師なんだからもっと的確なアドバイスが欲しいのだが…面倒くさそうでも、一つ一つの問題を解説する時は分かりやすい。

「…飯の後だな」
「はぁい」
一応返事をして、食卓の準備に取り掛かった。





「aの値を出してからXに代入」
「あ、そっか。bから求めるんじゃないんだ!」
計算は得意だが、どうも数学は苦手だ。
そんなゆやでも狂のヒントは簡潔で分かりやすい。
本当はヒントなしで自分で解答に辿り着かなくてはならないのだが。

「…あとは?」
「これで最後です。今日もありがとうございました」
笑顔で礼を述べれば、フンと無愛想な返事が返ってくる。
そのまま狂はタバコに火をつけかけたが…一度手を止め、立ち上がった。
「?」
ゆやが不思議に思っていると、そのままベランダへ出てタバコを吸い始めた。

『制服がタバコ臭いわねぇ…椎名さん』

昼間、廊下ですれ違った風紀担当の女教師に言われた言葉が頭に浮かぶ。

問題児クラスというだけで、生徒を捕まえてはいちいちケチをつけてくる、言ってはなんだが…殆どの生徒がいい印象は持たないおばさん先生だ。

『椎名さん、まさかタバコを…』
『まさか!』
タバコなんてもちろんゆやは吸わないし、兄だって吸わない。
だが、袖を匂ってみると、確かに少しタバコ臭かった。

『じゃあ家族の方?』
『いえ…』
自分でもタバコの心当たりがない。

『ちょっと詳しく伺いましょうか?』
『そんな…』
彼女は、一度捕まったらなかなか離してくれないことで有名だ。

『コイツに数学準備室の片付けを手伝わせたんで』

『あら!』
『鬼眼先生!』
気がつくと、狂がゆやの頭に手を乗せて立っていた。

『そん時ついたんだろ?』
ゆやに視線を移して、確認する。
『あ、はい。多分…』
確かに数学準備室は、ヘビースモーカーの多い数学科教師の巣窟である。
『数学準備室ですか…』
女教師の顔が、なら無理もないといった表情に変わる。
『仕方ないですが、生徒がタバコの臭いを漂わせているなんてよろしくありません。制服は綺麗に洗っておくように』
『はい…』
ゆやの返事を聞いて女教師は背筋を伸ばし、カツカツとヒールの音を響かせながら去っていった。

『数学準備室片付けたの先週ですよ?週末ちゃんと制服洗いましたよ』
『……』
気にするな、と言うように髪をワシャワシャとかき混ぜられた。


あの時は、狂の行動に感謝したのだが、改めて考えると…タバコの臭いは狂のせいではないか。
ヘビースモーカーの狂の部屋で。毎日、目の前でタバコを吸われれば…臭いがついていてもおかしくない。

気をつけなくては。

タバコで疑われる以前に、毎日ココに来ていることが、誰かにバレたら大変だ。

もうこれなくなる。
狂は学校をクビになってしまうかも知れない。

このバイトをやめさせられるのは、絶対に嫌だ。

「あ…」
ゆやは、文句を言いながらも狂の世話をするこのバイトが、案外気に入っていることに気付いた。

「……もう!」
そんな自分に驚きながらも、寒いベランダに居る狂に、灰皿くらいは持って行ってやろうと立ち上がった。







*****
無駄に長くなってしまいすみません。
『壬生狂先生』が主流のようですが、あえて『鬼眼狂』先生にしてみました。
苗字が鬼眼て無理ありすぎですが(笑)
なぜか全然ラブくならず…すみません!
せっかく先生×生徒なので、くっつく前のちょっと気になる関係…でも特別な関係を目指してみたんですが…撃沈;;
まだゆやが敬語なとこがポイントです。これからだんだん崩れていくんだろうなぁと感じ取れたら嬉しいです。
こんなのですが梨亜さんに捧げます。



ちなみに梨亜さんには、おまけのちょっとだけ鬼眼バージョンも押しつけちゃいました。(笑)






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