初恋にさよなら | ナノ

 初恋は実らないもの、なんて誰が言ったか知らないけど。
 オレの初恋も気付いた時にはそうだった。

【初恋にさよなら】

「いらっしゃい。サスケ君」
 笑顔で出迎えてくれた彼女は、もうあの頃みたいな少女ではなかった。
 当たり前だ。あの頃から5年の月日が流れているのだから。
「久しぶり。ゆやねぇちゃん」
 ねぇちゃん、と呼ぶ自分の声だって、あの頃よりも少し低い。5年の月日は声変わり以外にも、サスケを大人に変えている。
「ホント久しぶりね」
「鬼眼の狂は?」
「さぁ?さっきまでは居たんだけど…」
 言って、ゆやは漢の名前を呼ぶ。返事は返ってこなかった。
「まだ放浪してんの?」
「ううん。最近は随分減ったのよ」
 言いながら、彼女は自分の腹に手を触れる。
 この時のサスケには、その行動の意味は分からなかった。
「へぇ。どういう風の吹き回し?」
「ふふふ。ホント」
 意味ありげに笑いながら相槌を打つ。その笑顔は、零れ落ちそうなくらい倖せそうだった。
「今日はサスケ君一人?」
「いや、幸村も居たんだけど…着く直前ではぐれた」
 先に行ってて、と聞こえたと思ったらいきなり居なくなっていた。幸村のことだから、気になる何かを見つけたのだろう。
 しかし、主(あるじ)のこういう自由気ままな行動は、いつまで経っても悩みの種だ。
「とりあえず上がって。お茶でも飲んで待っとこっか」
 促しに応じ、お邪魔しますと言ってから、狂とゆやの家に上がった。

 真田の話をしている間に、テンションMAXな幸村が飛ぶように転がり込んできた。
「ゆやさんゆやさん!おめでとう!!」
 そのままの勢いでゆやの横に座り、本当に嬉しそうに告げる。
「幸村さん!なんで…えっと…ありがとうございます」
 頬を染めながらゆやは礼を言う。サスケには、何がなんだか理解出来なかった。
「幸村、来い」
 幸村の後ろから現れた狂が、仏頂面で彼を呼ぶ。
「あ、ごめんね狂さん。どうしてもゆやさんにも言いたくて」
 全く悪びれた様子はなく幸村が謝った。
「もう言ったの?」
 意外そうな声でゆやは狂に尋ねる。
「…勝手に悟った」
 眉間に皺を寄せて返す狂に、ゆやは吹き出した。その反応に狂は余計顔をしかめ、幸村を連れて部屋を出ていった。
 小さな嵐が去ったような部屋で、サスケ一人だけが事の顛末が理解出来ない。
「なんか鬼眼の狂すごい不機嫌そうだったけど…」
 自分の眉間を指しながら、できる限りの皺を寄せて真似る。
「違うの。あれは多分照れてるの」
 また吹き出すのを堪えながら、ゆやは彼の表情の解釈をする。
「照れ?」
 サスケにとって予想外すぎる答えに、思わず問い返した。
「うん。あのね、サスケ君」
 少し恥ずかしそうに口元に手を沿え、ゆやはサスケを呼び寄せる仕草をした。
「何?」
 ゆやの仕草に応じて、彼女の手元に耳を寄せる。丁度、内緒話をする感じだ。
「赤ちゃんが出来たの」
 小声で呟くゆやの声に、一瞬固まった。それは、驚き以外の何物でもない。
「すげぇじゃん!おめでとう」
 そうか、そうだよな。
 鬼眼の狂が帰ってきてから二年も経つしな、と冷静に分析しながら、祝福の言葉を告げる。
「ありがとう」
 はにかみながらそう返すゆやは、本当に…本当に倖せそうだ。
 その笑顔を見ても、あの頃のような狂を羨む感情は沸いてこない。
 ただ嬉しかった。ゆやが倖せだと嬉しかった。
『…言わなくていい本当もあるんだよ。
そういうやさしさも…
そして月日がその本当の気持ちを変えていくことも…』
 いつだったか幸村が言っていた言葉。
 今なら心の底から理解出来る。
 あの時、オレだってそのくらい分かるぞと言ったけれど、本当は何となくしか理解していなかったのだ。
 そして、きちんと理解するまでにこんなに月日が必要だったのだ。
 サスケは、はっきり理解出来たことと自分の変化が嬉しかった。声や身長だけでなく、中身も成長していくのを実感した。
「強いんだろうなぁ」
「え?」
「ねぇちゃんと鬼眼の子だろ?絶対強いよ」
 戦闘能力的にも精神的にも。
「そうかな?男の子か女の子かもまだ分かんないよ」
 お腹に触れながら話す表情は、優しさに満ちていた。
「どっちでもみんなに可愛がられて大変だろうな」
 それぞれにちょっかいを出す仲間の姿が目に浮かぶ。
「サスケ君もよろしくね」
「あぁ」
 もちろん、と心の中で返した。
「ねぇねぇ、サスケは男の子だと思う?女の子だと思う?」
 タイミングよく襖が開き、まだまだハイテンションな幸村が部屋へ入ってくる。
 幸村の後ろに狂の姿があったが、付き合いきれないといった表情で、そのまま何処かへ行ってしまった。
 サスケがゆやに視線をやると、少し笑って立ち上がり、部屋を出て行く。
「愛だね」
 幸村の楽しそうな声が響く。
「あんまりからかいすぎると可哀想だぜ」
「…サスケも大人になったね」
「フォロー入れるねぇちゃんの身にもなれよ」
「こんなにおめでたいことは精一杯祝わなきゃね!」
 気持ちは分からなくもないが、どうせこれから四聖天やら殿様やら、壬生の人達にも同じように祝われるのだ。
 その時の狂の居た堪れなさは、サスケにも分かる気がした。





*****
裏の『命』の数日後で『年下の男の子』の数年後です。
久々にサス→ゆやが書きたくなりまして。
こんなものに。

私が子どもネタを書くなんて…それこそ月日の流れを感じます。
最初は書けなかった。何となく書きたくなかった。

KYOの連載が終わってもう四年ですね。
まだ書いてることにビックリです。
ペースは遅くても、あと5年くらいは余裕で続けてそう。
読んで下さる方がまだいらっしゃることを願います。



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