あの時の堂上さん | ナノ
「郁!郁!!」
反射的に、正面玄関の中へと消える姿に呼びかけた。だが、どうせ聞こえてはいない。
郁の変わりに、周りの防衛員達が目を見開いて堂上に注目した。
名前で呼んだことに驚いたのだと安易に予想できるが…当の本人は視線にすら気付かない。
「誰かタオル寄越せ!」
辺りを見回しながら怒鳴る。
声に弾かれたように、ある防衛員がタオルを渡した。
渡されたタオルを引ったくるように受け取り、そのままの勢いでバケツに突っ込む。
そして、絞らないまま顔を覆い後ろで結んだ。
郁が飛び込んだ時と同じ装備だ。
「アホだアイツっ!」
アホか貴様、と疑問形ならば言い慣れているが…今回はそれ以上。断定形だ。
無我夢中で、突っ走った郁の後を追う。
と、その前に。
「小牧!指揮権…」
「はいはい。よく思い出したね。任せて」
居ても立っても居られないんでしょ。
こんな時でも少し面白そうに笑うその声が、遠のく堂上に聞こえたかどうかはわからない。
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大っ好きな話。
柴崎の報告が好きすぎた。
別冊で一番好きかもです。
でも、こらえる声も切なくて好きなんだ。
雄大君。
今の優先順位はお前だ。とか…たまらん!
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