恋な人 | ナノ




変わったのは教官?
変わったのはあたし?

もしかして、どっちも?





【恋人】





「今日はまた一段と早かったな」

業務が終わって真っ先に病院に来た。
何か本を開いていた堂上は、郁の来訪に気付くと、静かに閉じて机に置いた。

「はい。日誌とか急いで終わらせてきました」
もう見慣れたベッド脇の椅子に腰掛け、スカートだということを意識して、斜めに足を置く。

『なるべく顔見せろ』

堂上に言われたからではあるが、こんなに毎日通い詰めると迷惑だろうか?

いや、でもやっぱ彼女だし。
一応、彼女だし!

と、先日めでたく獲得したポジションを頭の中で反芻する。
それだけで、まだまだ頬が緩む。

「お前ちゃんと仕事してるのか?」
「してますよ!」
教官がいつ戻ってきても恥ずかしくない働きしてます、と続ける。

「そうか」
一言返してから、頭に手が触れる。

あぁ、もう!!
自分がどんな表情をしているか、わかってるんだろうかこの人は。

「励め」
「…はい」

言ってることとやってることは同じだけど、表情が今まで以上に柔らかくて…直視出来ない。
いやこういう時の表情が柔らかかったのは今までと一緒だ。
正確に表す言葉は……そうだ、『甘い』。
一回目の見舞いに来てから…関係が変わってから、堂上の表情はことごとく甘い。
慣れないその表情に、戸惑いながらも…もっと見たくて、気付くと毎日通っている。

頭ポンポンが好きなの、やっぱりバレてるんだろうな。

考えていることが態度に出やすいのは、郁自身わかっているので、色んな行動を思い出して少し恥ずかしくなった。

突然、頭上の手がワシャワシャと荒く髪をかき乱す。

「?」
不思議に思い顔をあげると、苦笑のような、でも楽しそうな堂上と目が合った。

「考えてることがだだ漏れだ」
「え!?」
無意識に声に発していたのか!?
一瞬で耳まで真っ赤になる。

「これくらいいつでもしてやる」
ポンポン、と宥めるように叩かれた。

「じゃあ、あたしは…何をすればいいですか?」
慰められたり、宥められたり、励まされたり、…怒鳴られたり、されてばかりだ。
恋人状態がまだあまり分からないけれど、郁の性格上受け身ばかりはイヤだ。
自分だって何かしたい。与えたい。

郁の問いかけに、堂上は少し面食らったようだった。

「ドロップキックや投げ飛ばしたりしか、してあげれてないんですが…」
今までの自分の行動に冷や汗が出そうだ。

「カミツレ製品について教えてもらった」
お茶とアロマオイル、と続ける。

製品、って…まぁ製品ですが。

「教えてもらうのも含めたら、それこそあたし教えられてばっかりですよ」
「上官だからな」
立場柄仕方ないと言いたいのだろう。

「何か…」
探りを入れる。

「わざわざ探さなくていい。そういえば、緒方副隊長が来てくれて洋菓子のセットを…」
話題が変わってしまう。
郁としてはまだ不服なのに。

「顔見せて、話して、見舞いの品消費してくれれば充分だ」
不満がバレたのか、片手で両頬を摘まれ、タコみたいな口になる。

「それでも不満なら…」
手が片頬へと移動する。

これは、と思い目を閉じる。
最近やっと先が読めるようになった。

予想通りの、唇にあたたかい感触。

離れた途端に目を開くと、超至近距離の堂上と目が合った。

「これだって一人じゃ出来ない。ちゃんと貰ってる」
言って、もう一度触れる。


そういえば、郁が病室をでる前のキスは、恋人になった日から、もう恒例になっていた。








*****
バカップル初期。
幸せいっぱいベタ甘仕様です。(笑)
茨城県産純粋培養乙女全開です。

恋人期の教官かっこいいですよね。
結婚してからの篤さんは可愛いです。
まだ余裕見せて一歩リードな感じ。
でもホントは…v

お互い、恋する人、恋してる人。
だから恋人。







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