鬼の霍乱 | ナノ








「風邪とかひくんだね。狂でも…」
「まさに、鬼の霍乱…ですか?」
「なるほど。その通りじゃねーか」
言って漢はガハハと豪快に笑った。



【鬼の霍乱】



狂が風邪をひいた。

聞いた時は、マジでビビったぜ。
まさか狂が風邪ひくなんて…考えたこともなかった。
今まで一緒にいてもそんなモンひいてる様子はなかったしな。

ちなみにオレ様が風邪をひいたのはかれこれ…
あぁ?
そんな話どうでもいいって?
なんだよ。折角風邪の話から、オレ様の武勇伝もしてやろうと思ったのによ。

狂は大丈夫かって?
アイツを誰だと思ってんだ?
オレ達四聖天を束ねる狂だぜ?
風邪なんかでクタバルわけねーだろ。

それに…
ちゃんとゆやちゃんが看病してるからな。



「もう!!ちゃんと大人しく寝てなさいってば!!」
座って酒を飲もうとしている狂に対する、今日三度目のゆやちゃんの発言。

「うるせぇ。…ほっときゃ治る」
鋭さの少し鈍った眼で言われても…ゆやちゃんは怯まねぇ。

「そうやってほっとくから、いつまで経っても熱がひかないんでしょ!?」
「……」
狂は煩わしそうに、ゆやちゃんから目を逸らした。

「もっとひどくなっちゃうわよ?」
逸らされた瞳を追い、ゆやちゃんは上目遣いで詰め寄る。
…こりゃ勝負あったな。

「お願いだから…ちゃんと寝ててよ…」
抵抗虚しく、狂は大人しく寝ることになった。


***


不本意にも、珍しく布団で寝ることになってしまった。
隣でゆやは寝ろ、寝ろ、と言うのだが…
例え頭がボーっとしていて眠くて眠くてしょうがなくても、襖の向こうに感じる馬鹿共の気配で、寝る気にはなれなかった。

(いい加減失せろ)

殺気を放って追い払おうと思っても…そんな気力が出ない。

「寝なきゃ良くならないわよ」
氷枕を手に、ゆやはこっちを見張っている。

心配そうに覗き込む表情は、さらに少しだけ体温を上げた。

「……」
このまま腕を伸ばし、組み敷いてしまいたい。
そして…。

「きゃぁー!!!」

熱に侵された頭で、あらぬ妄想をする漢であった。


***


「ゆやちゃん。かえの氷持ってきたぜ」

気を利かせて、看病の手伝いをしに来た優し〜いオレ様を待っていたのは…。

「ぼ、梵天丸さん…!!」
布団に引きずり込まれ、組み敷かれた状態のゆやちゃんと覆い被さる狂の姿だった。

「…こりゃ、失礼したな」
「ち、違います!!待って下さい…梵天丸さん!!」
風邪がうつっても知らねぇぜ、と言い残して襖を閉めようとしたオレ様を、ゆやちゃんの必死な声が引き止めた。

「…出られなくて」
よく見ると、顔を真っ赤にして少し涙目なゆやちゃんと…組み敷いた体勢で意識を手放している狂の姿だった。

「狂がいきなり…寝ちゃったみたいで…」
結構重い漢の身体に、ゆやちゃんは本当に困った顔をしていた。

「…ガハハ!!」
ようやく状況を察知したオレ様は、しばらく笑いが止まらなかった。



当の本人は、本当に気持ちよさそうに寝ている。

オレ様にとっちゃ、狂を退かすくらい容易いことだが…。

「いいじゃねぇか。そのまま添い寝してやんな、ゆやちゃん」
「えぇ!?」
「そうすりゃ狂も大人しくしてるだろ?」
…起きたらどうなるかは知らねぇが。

ニヤニヤと悪い笑みが浮かんできた。

「梵天丸さん…!!」
ゆやちゃんの窘めるような縋るような声。

「ゆやちゃんがついてれば、狂がぐっすり寝れるのは確かだぜ」
「……」
「風邪だってバカにしちゃあいけねぇ」
こんな時こそ養生が大事だ。

「それはそうですけど…」
半ば諦めたのか、狂の髪に触れながら、ゆやちゃんは頷いた。

「頼んだぜぃ」
大人しくなったゆやちゃんを置いて、部屋を出る。


ゆやちゃんをからかう時の、あの心底楽しそうな狂の気持ちが、少しわかるような気がした。

オレ様にとっちゃ、そんな時の狂の姿も何より面白れぇんだけどな。


…なぁ、村正。

鬼の霍乱どころか、鬼は錯乱しちまってるぜ。

いい傾向、って…お前なら迷わず言いそうだな。







*****
【鬼の霍乱(おにのかくらん)】
普段非常に丈夫な人が、珍しく(思いがけなく)病気にかかること。

視点が定まらなくてすみません;;
梵ちゃん視点にしてみたかったのですが…。
こんなのですが、優羽様に捧げます。

文章って難しい。
狂ゆやを見守る、梵ちゃんと村正が好きです。


優羽様宅にちょっとした続きが置いてあります。
興味のある方はlinkから風の棲み処様へ。









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