start in my life | ナノ
全てが終わったら真っ先にすること。
小さくなったその日から決めていたこと。
機械越しじゃなく本当の声で、
オレの本音を…
真っ先に言うんだ。
【start in my life】
「ずっと…好きだった。これは…今までもこれからも…ずっと、死ぬまで変わらない」
眼鏡越しじゃなく、真直ぐ蘭の目を見て。
はっきりと告げた。
好きだ、と。
この一言を言うために一体どれだけの時間を労したのだろう。
蘭の細い手を掴んだ自分の手に少し力が籠もった。
(アレ?コイツの手ってこんな小さかったっけ?)
コナンの時はあんなに大きく感じたのに、と頭の片隅で考える。
目を見開いて新一を見たまま、蘭は一言もしゃべらない。
「……」
何か言わなければと、あ〜でもないこ〜でもないと言葉を探していると。
「…うん」
涙を浮かべ、微笑んで…小さく蘭が呟いた。
同時に、新一が一方的に掴んでいた手を握り返される。
それで…さっきまで引いていた恥ずかしさが舞い戻ってきた。
「返事は…今じゃなくていいから」
気が付いたら、勝手に口が動いていた。
「え?」
「その変わり…土曜日、10時にトロピカルランド入り口な」
涙を堪えて何か言おうとした蘭に、強引に約束を取り付ける。
きっと、
今更ながら返事を聞くのが恐かったんだ。
***
真っ青な空。
白く大きな入道雲。
昨日まで降り続いていた雨は上がり、今日は申し分のない晴天。
気象庁が梅雨入り宣言してからまだ間もないというのに…日差しは強く、暑かった。
(平和だな〜)
天を仰いで、心の底からそう思う。
数ヵ月前まで子供の姿で組織と戦っていたのが嘘のようだ。
「……」
時計を覗くと9:25。
(早く来過ぎたか?)
だが、遅れるわけにはいかない。
ずっと待たせていたのだから…
今日だけは何が何でも蘭より先に待ち合わせ場所に着きたかった。
(だいたいアイツは30分前には着いてそうだし)
いつも遅れてしまうので、蘭がいつ頃来るのかが分からない。
それ以前に…待ち合わせ自体あまりしない。
二人で出掛ける時は、大体蘭が新一の家に迎えに来る。
そうでなければ、新一が決められた時間に探偵事務所の前を通ったり…。
一緒に目的地に行くことが多いのだ。
(自分で言い出しといて、変な感じが…)
待つことに違和感を感じる。
(ハハハ、どうしようもねぇな)
新一は、待たせることが当たり前になっている自分に、自嘲笑いを浮かべた。
その時、
「新一!?もう来てたの!?」
「!?…あ、あぁ」
前方に蘭の姿。
足早にこちらに向かって来ている。
軽く手を振って、もう一度時計を見た。
just 9:30。
***
「まだ開園してねぇのに…何やってんだ」
堪え切れず、苦笑を漏らした。
「ホント!新一が珍しく早く来たりするから」
トロピカルランドの開園時間は10時。
知ってはいたのに…二人とも早く着過ぎたことに笑いあう。
「どっかで時間つぶすか?」
「う〜ん…そんなに長い時間じゃないから…待ってようよ」
「…そっか?」
蘭がそう言うなら…、と待つことに同意する。
「……」
「……」
「…久しぶりだね。こんな風にのんびりするの」
空を見上げて、嬉しそうに呟いた。
「…まぁな」
コナンの時は折角会えても、いつまた小さくなるか分からずハラハラしていた。
「トロピカルランド開園したら…何に乗ろっか?」
「そうだな〜」
「新しく出来たのにも乗りたいね」
「どんどん増えてるよな」
「あ、ミステリーコースターも新しくなったらしいよ」
「へぇ…。そういえばアイツら(少年探偵団)が博士に行こうってせびってた」
「……そうなんだ!」
新一の口から探偵団の話題が出てきたことに、一瞬驚いてから…蘭は静かに微笑んだ。
「あんだよ?」
その笑顔が妙に引っ掛かる。
「え?ううん、何でもない!」
何でもないと言いながら、まだ頬が緩んでいる。
「……」
蘭のその表情に、新一が怪訝な顔をしていると…。
「名探偵サンなら分かるでしょ?」
「……」
新一の表情がムスッとした仏頂面に変わった。
(こういうのは、解けねぇって知ってるくせに…)
そう思いながらも、名探偵はう〜ん、と頭を捻る。
結局、開園時間になっても蘭の笑顔の理由は分からないままだった。
***
「すげぇ人込み」
開園直後だというのに、周りを見渡せばカップルや親子連れでかなり賑わっていた。
「土曜日だからね」
蘭は、天気もいいし、と笑顔で付け加える。
確かに…、と新一が心の中で相槌を打っていると。
「行こっ!!」
「お、わっ!」
彼の腕を掴んで、足取り軽く歩き出す。
ちょっと赤くなりながら、蘭の促すままに新一は引っ張られて行った。
***
「で、その時ホームズが…」
色んなアトラクションに乗り、他愛ない話をしながら歩いた。
「へぇ…やっぱり凄いんだ!!」
以前は半分聞き流していた新一のホームズ話も、今なら素直に聞ける。
目を輝かせて話す姿。
小さい頃からずっと変わらない表情。
(ホント…好きよね…)
皮肉でも、呆れているわけでもなく、そこまで夢中になれるものがあることに感心する。
(やっぱりソックリよ。……コナン君に)
新一がいなくなったその日に現れて、ずっとそばにいてくれた、あの眼鏡の少年に。
(それはそうよね。同一人物なんだから)
何度も何度も疑った。
確信していた時期もある。
それでも…誤魔化された。
(別に怒ってるわけじゃないのよ…)
でも…
淋しかった。
確かなものもないのに…信じて待つことしか出来ないのだから。
その分、先日の言葉はすごく嬉しかった。
『ずっと…好きだった。これは…今までもこれからも…ずっと、死ぬまで変わらない』
ずっと待ち望んでいた言葉。
思い出すだけで、頬が熱くなる。
(私も…)
あの時…すぐに伝えようと思ったのに…。
「蘭?どうかしたか?」
「え?な、何?」
一人回想に耽っていた蘭は、新一の呼び掛けでハッと現実に引き戻される。
「大丈夫か?」
少し屈んで、心配そうに顔を覗き込まれた。
顔が…近い。心臓が勝手にドキドキする。
「うん。ちょっとボーっとしてただけだから…」
何を考えていたかなんて教えられないので…これ以上追求されないように必死だ。
(ホントは私もちゃんと伝えなきゃいけないのよね…)
新一が言ってくれたように。
自分の本音を。
(コナン君だったんだから、新一は私の気持ち知ってるんだし…改めて口にするのも何だか恥ずかしいけど…)
『返事は…今じゃなくていいから』
(でも、それってやっぱり返事を待ってるってことよね?それに…あんな、ついうっかり…みたいな告白のままじゃ嫌よ!!)
『わたし新一が、だーい好き!』
でも、これ新一にはナイショだよ、と蘭が続けた時、コナンはどんな顔をしていただろう。
まさか本人だなんてあの時は思っていなかったから、全然思い出せない。
思い出そうとすると、蘭自身が顔から火を噴いて倒れそうだ。
(だからアレはノーカウント!)
とにかく今日中に絶対伝えよう、そう決意して顔を上げると、今だに眉を顰めて蘭の様子を伺う新一と目が合った。
「ホントに大丈夫か…?」
俯き気味に蘭の顔を覗き込む新一が、何かあると必ず心配そうに見上げてきたコナンと被る。
(そういうところは全然変わらないのね)
新一は昔からそうだ。
それはコナンでいた時も。
過去も、今も、そして…きっとこれからも。
「…ありがとう」
「へ?」
蘭の小さな呟きに、キョトンとする。
「新一は新一だよね」
何があっても、それは絶対に変わらない。
「…オメェ、何言ってんだ?」
やっぱどっか可笑しいんじゃ…、と訝しがる彼に、そっと一言。
「大好きよ」
「……!?」
「…もうとっくに知ってるだろうけど!!」
照れ隠しのつもりで、そう続けた。
「……」
「……」
「あのさ…蘭」
「何よ?」
「こないだのアレ…訂正させて欲しいんだ」
「え?」
『こないだのアレ』で思い当たるのは一つしかない。
そう思った途端、嫌な考えが蘭の胸を過る。
「蘭が不安になるようなことじゃねぇよ」
彼女の表情の変化を読み取ったのか、新一はニッと笑顔を浮かべて言い切った。
そして、片方だけ口角を吊り上げて…。
「死ぬまで、っつったけど…死んでも、の間違いだな、って…」
言って、すぐに顔を背ける。
「……」
理由は、蘭にだって安易に予想が付いた。
…照れてるから。
「…キザね」
満面の笑みで言ってやる。
「言わせてんのは、誰だよ?」
開き直ったように返ってくる声が…愛しくて仕方ない。
そんな気持ちが溢れるままに、蘭は新一に微笑んだ。
**
(やべっ…)
きっと今、自分はどうしようもなくだらしない顔をしている。
とっさに、口元を手で覆ったのだが…そっから先が問題だ。
(口元…元に戻らねぇ…)
情けなく緩んだまま。
「…新一?」
先程のやり取りに蘭も照れているのか、訝しげに名前を呼ぶ声が少し上ずっている…気がする。
それがまた、名探偵の口元の緩みを持続させた。
「これから…何に乗る?」
絞り出した声は以外と普通で。ホッと胸を撫で下ろす。
「えっと…」
辺りを見回して考え込む蘭の姿に、目を細めて。
自分も、『これから』について想いを巡らせた。
目の前の彼女が考えているであろう『これから』よりも…
もっと先の『これから(未来)』を。
先程の出来事から…
変わった何か、と変わらない何か。
それを『これから』…
二人で見つけていこう。
…大丈夫。
以前のような淋しい想いは…もう絶対にさせない。
見計らったかのような梅雨晴れの
穏やかな空気に包まれて、
新しい二人が、今始まる。
ーendー
*****
新蘭です。携帯サイト整理してたら出てきたものです。
確か銀翼の奇術師見て興奮しまくって書いたものなので、10年以上前です。
お話書き始めてすぐもすぐなので、話もキャラも文章も今以上にへたっぴです。でもすごく楽しく書いた記憶だけは鮮明です。
新蘭好きで好きで仕方なすぎて自分の文章で新蘭書くと不満で創作長続きしませんでした。(笑)それくらい新蘭には思い入れ強いです。大好き。
その分新蘭創作メチャクチャ拝見してます。この場を借りて、描き手(書き手)の方々には、厚く御礼申し上げます。それはそれは長〜〜〜いことお世話になっております。ありがとうございます。
新一の告白と蘭のお返事話です。ロンドン編の前に書いたので原作とは違うんですが、10年経ったら時効かなって思って恥ずかしいけど載せちゃいます。修学旅行編が最高すぎて最高すぎて何かしたくて(笑)
ロンドン行くまでは、てっきり組織壊滅させて帰ってきてから告白すると思ってたのでこんな感じの妄想をそれはもう十通りも何十通りもしてました。(きっとそんな新蘭ファンは多いはず…!)
でも、これは何年経ってもなんですが、どんなに妄想しても原作がそれを超える最高の展開をみせてくれるから青山GOD昌先生には頭が上がりません。足向けて寝れません。
だーいすきだー!間違いなく私のNLヲタの原点です。好き!!!
新蘭結婚するまでまだまだこれからも追いかけ続けるよー!!!!!
長々と気持ち悪くすみません。
最後にこれだけ言わせて下さい。
新蘭ありがとう!!!おめでとう!!!!!
アニメ化が今から楽しみ過ぎて脳内毎日お祭りです。
「コナンファンは卒業しない」って以前仕事の休憩中にYA○OO!ニュースで拝見したんですが、全力で頷きました。
私のことですね。(ゲンドウポーズならぬホームズの思考ポーズ)
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