この想いを肯定できない。 | ナノ
「狂!見てコレ!!」
嬉しそうに駆けてくる少女は、茶色の物体を持っていた。
「……?」
「これはね…チョコレートっていうお菓子で…」
カリッと音をたてて、ゆやがその物体をかじる。
固そうな食べ物なのだが…。
「すごく甘くて、口の中でとろけるの!!」
言葉だけでなく、目を輝かせた彼女の表情からも、その菓子の味が伝わってきた。
「……」
「はい!狂にもあげる!!」
自分のチョコレートを半分に割って、少女は差し出してくる。
しかし、彼にはチョコレートよりも味わいたいものがあった。
「な、何よ…」
ゆやの首筋を這う狂の骨ばった手。
無言で見つめる熱い視線に射抜かれたようで、深紅の眼から目をそらせない。
あぁ、また。
視線で彼に囚われてしまった。
「んっ…」
いつものように、首筋から生き血を啜られる。
「オレにはこっちの方が甘ぇ」
この行為、彼にはとろけるような極上の甘さ。
ゆやには、甘い痛みをもたらす。
「チンクシャ…お前糖分とりすぎなんじゃねぇか?」
ククッと喉を鳴らす。
「な!?」
「こんなもんあまり食うと味が悪くなる」
「はぁ!?」
「今が丁度いい」
唇についた残り血を舌先でペロッと舐めた。
その仕草を見て、少女は頬を朱に染める。
「なんなのよ…」
結局、彼は自分の『血』が好きなのだ。
『私自身は…』
そんなこと、考えてはならないのだろうか。
まだ気づかないようにしている胸の甘酸っぱさ。
だんだん隠せなくなっていく…。
残ったチョコレートをかじると、先程よりもほろ苦く感じた。
*****
・この想いを肯定できない。
(ただ、認めるのが怖いだけ)
吸血鬼設定。
吸血鬼話もいつか完結させて載せたい。