つながり | ナノ





思いは伝わる。
カタチを変えて。

師から弟子へ。

弟子から新たな一歩へと。



【つながり】


「あ〜あ。またかよ…」
地面に『正』の字を書きながら、時人は呟いた。

「……」
「……」

彼女の目の前には、二人の漢の姿があった。
一人は傷だらけで倒れ込んでいるが、その表情は明るく、妙に清々しいようだ。

「これで5戦5敗」
ため息をつきそうな時人の声が、死合の結果を告げる。

「まだまだだな。アキラ…」
立っている方の漢…狂は、口角をあげて言った。

「…はい。次は…絶対に負けません」
刀に体重を預け、アキラは立ち上がろうとする。

「っ…!!」
しかし、死合の傷が痛むようでなかなか立ち上がれない。
「…戻ってゆやに手当てして貰おう!」
時人が駆け寄り、アキラにそう投げ掛けた。
「いえ、その必要はありません」
気丈に答え、彼はなんとか立ち上がった。

「…意地っ張りだな」
「あなたに言われたくありません」
フッとバカにしたように彼特有の笑みを浮かべる。
「なんだと〜!!」
「だいたいこんな怪我たいしたことないですし…」
まったくそうは見えないが、アキラは言い張った。
「なら僕と死合えよ!」
いつもの売り言葉に買い言葉。
どうせ返事はいつもと同じ。
「お断りです」
ほらやっぱり。
「なんでだよ!!さては…負けるのが怖いんだろ!?」
時人だって、本当は怪我人と争うつもりなんてまったくない。
「全然違いますが、そう思いたいのならそれでどうぞ」
アキラは時人の言葉をクールに流した。


そんな二人のやりとりを見ていた狂は、軽く口元を緩める。


「そんなに死合たいなら、俺様が死合ってやる」

「!?」
「狂!?」
狂のいきなりの提案に二人は驚きを隠せない。

「俺様じゃ不満か?」
不敵な笑みを浮かべる紅い眼の漢。
爛々と輝く紅い眼は、この者の強さを物語っている。

時人だって知っている。
鬼眼の狂の強さを。

しかも今し方目の前で彼の勝利を見たばかりだ。

そんな強い漢との死合。

誰だって一度は思い描くものだが…。

「……」
思いがけないことに時人は戸惑った。

「狂が手を煩わせる必要はありません」
当の時人を余所に、キッパリと言い切るアキラ。

「時人は私に負けた身。狂風に言うなら私の下僕。狂と死合うにはまだまだ鍛えが足りませんので」
「…そうか」
口角を上げ、狂はあっさりと納得してしまう。

そして。

「うわっ!なんですか狂!?」
いきなり狂に担がれたアキラは驚きの声を上げた。

「怪我人は大人しくしてろ。おら行くぞ」
狂は時人を顎で促し、歩きだす。
時人もすぐに彼の後に続いた。



***


ゆやがアキラの手当をしている間、部屋に残ろうとした時人は「邪魔です」と言われアキラに追い出された。
「なんだよ!!怪我人のくせに」
言い返す時人に、ゆやは、ちょっと待っててねと言い、障子を閉めた。


煙草をふかす狂と時人の二人だけが縁側に残る。


「…僕は…なんでアキラと死合たいんだろう…」
先程狂に死合ってやる、と言われた時に、頭にふと浮かんだ疑問。

「……」
聞こえているだろうが、狂は何も言わなかった。


アキラと死合いたい。
これは紛れもない今の時人の願いだ。

しかし、死合ってどうする?
勝ったらそれからどうする?

もっと強い漢と死合たいのか?

いや違う。

先程の狂の言葉で、ワクワクや胸の高鳴りは感じなかった。


自分は『最強』を目指しているわけではない。

狂やほたる、幸村、梵天丸…そしてアキラも。
漢は皆ほとんどが、自分の信念のもと、最強を目指しているのに。

自分はアキラと死合たい。

ただそれだけだ。

「…一度負けて悔しいからかな?」
確かにこれもあるかもしれない。

けど違う。
最近はもっと違う何かが…。

「…何だぁ〜!!」
頭を抱えて考え込んだ。

「……」
「何か言えよ!!鬼眼の狂!」

「…てめぇで考えろ」
狂は興味がなさそうに言う。

「やな奴だな」
「……」
なんとでも、と言いそうな狂の態度は、アキラにそっくりだ、と思った。

いや、アキラが狂に似たのか。


フーッと狂が輪っかの煙を吐く。

「わ!!」
時人は感嘆の声をあげる。
その目はキラキラと輝いていた。


太陽が穏やかに照る昼下がり。

ドーナツ形の煙草の煙が、いくつもゆっくりと空に舞い上がっていった。



*****
蓮花様に捧げますv
アキ時+狂とのリクで…初アキ時です。
でもアキ時っていうほどラブくないですね;;
狂と時人なかなか面白い組み合わせかも。
初心に返って狂の特技を生かしてもらいました(笑)



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