涙の訳は | ナノ 涙の訳は
 



 艦長室に入ると、またキスされた。
 今度は先程の艦橋でのものよりも深く、深く。
「せ、」
 セクハラですよ、と訴える合間もない。
「同意があれば問題ないでしょ」
「同意……」
「さっきので他の連中にもバレちゃったわけだし」
 そう言いながら、制服の裾から手が忍び込んでくる。
「っ…!少佐!」
「大人だし」
 にっこりと笑う顔がやけにかっこよく見える。
 マリューの心臓はさっきからドキドキしっぱなしだ。
「大人……」
 その大人が子ども達を巻き込んで、迷って、悩みながらも自分の意思で進んでいる。
 混迷した世界で、辿り着く先も分からないまま。
 分からないからこそ、一人ではなく、求めてしまっていたのかもしれない。本当はずっとこの逞しい腕に縋りたかったのかもしれない。
「んっ……」
 舌が入ってきて、ゆっくりと確認するように歯列をなぞる。そのまま甘く絡めとられてだんだんと回らなくなる頭で、空気を求めて必死に息をする。
 大きな手が胸を包んだ。いつの間にかブラのホックが外されている。左手はずっとマリューの後頭部を掴んでいて、口内を味わわれていたのに。
 下の方から持ち上げるように何度か感触を堪能されてから、彼の指が胸の頂きに触れた。
「っ!ダメっ、です」
「なんで? 撫でてるだけなのに?」
 触れるか触れないかの手つきで撫でてから、ころっとした所を摘まれる。
「ぁ…!」
「ここ弱いんだ」
 マリューの反応を見ながら、愉しそうにイジってくる。
「や…ぁ」
「いいじゃん。いっぱい教えてよ」
 他にも、と耳元で熱い声が囁いた。
「ひゃ!……そこは……」
 スカートを押し上げて、マリューの内股をタイツの上から撫でてから、上に上ってきてその手がタイツを下ろす。
 熱くなった股に触れられて、羞恥で悲鳴のような声が出る。
「ちゃんと濡れてる」
 熱っぽく言いながら、マリューの中に指が入ってきた。指の入った所の少し上も、親指の腹でグリッと押される。
 もう声が抑えられなくなってきて、自分の手で口元を覆った。すると、その手を掴まれて彼の首に回されそうになったが、立ったままだと身長差があることに気付いたのか、彼の腰らへんに導かれる。
「手こっち。何してもいいからどっか掴んでて。声、聞かせて」
 ズボンのベルト付近をマリューの手が彷徨う。
 その間に彼の指は1本から2本になった。探るようにマリューの反応を見ながら。
 一人だけ翻弄されているのが悔しくなってきた。だから、マリューの下腹部付近にさっきから当たっているズボンの膨らみに、そっとおずおずと触れてみた。
「っ!」
 熱い。彼が小さく息を呑んだので、自分だけが熱くなっているわけじゃないと理解する。そのままゴクリと喉仏が動くのを見てしまった。
「マリューさん、結構大胆」
「い、嫌でしたか?」
 恥ずかしい。結局悩みながら、マリューの手は彼の制服の胸らへんを掴んだ。皺になったって知らない。
「最高」
 低い声が耳に届く度に背筋がゾクゾクする。
 中の指がマリューの弱いところをもう覚えたのか、ピンポイントに狙ってくる。指に合わせて嬌声が出る。
「すごい気持ち良さそう」
 目を細めて囁く。
「よく、見て、らっしゃるんですね。私のこと」
 自分の意思に反して口から溢れ出る鼻にかかった声を必死に抑えながら、最後の理性で言い返す。
「そういやそうかも」
 いつからだろう。聞いてみたいけれど彼の指とキスに翻弄されて、その些細な疑問はすぐにマリューの頭の中から流れ去ってしまった。
「ぁ…ふ…ぅ…」
「わざわざマリューさんの方から聞いてくれたこのタイミングは、逃せないなって」
 少し照れたように笑う。その間もやっていることは慣れているのか大胆で、そのギャップにマリューの脳は麻痺したのか、彼の言う通りキモチイイ。
 何でも見透かされているような気がしていたが、あの自然な動作で腰を抱いた瞬間、彼も少しは緊張したのだろうか。マリューがどんな反応を示すか。拒絶するか、しないか。小さな勇気を振り絞ったのだろうか。
 そう思うと、その照れたような笑顔が愛しい。
 マリューは両手を彼の頬に添えて、自分から乞うように口付けた。

 足の力が抜けてしまった。くたりと彼に体重ごと身体を預ける。
 一度指でイかされてしまったので、とろとろなのが自分でも分かる。
「歩ける?」
「ちょっと、ま……きゃっ!」
 待って頂けたら、と続ける前に、軽々とマリューは横抱きにされてしまった。
 普段寝ている艦長室のベッドに寝かされた。もう乱れてしまっている制服を一つ一つ脱がされる。
 ポーッとした頭で為されるがままになっていたら、すぐに腰から上は全部露わになってしまった。
 覆い被さった彼が、マリューを組み敷いたまま、一度上半身を起こし、「邪魔」と呟いて自分の制服を脱ぐ。
 ぐしゃっと腕まくりしたままの制服が一瞬腕のところで突っかかるが、全く気にする様子もなく強引に上半身全て脱いでしまった。
「皺に……」
「そんなんいいから」
 体格通りの身体をマジマジと見てしまうのが恥ずかしくて、投げやられた彼の制服を目で追って皺の心配をする。
「もう待てない」
 マリューのスカートも脱がされる。タイツはもうぐしゃぐしゃだ。下着も。
「とっていい?」
「あ、自分で」
 しますから、と言う前に剥ぎ取られた。
「いい?」
 ズボンのベルトに手をかけて、マリューにまた覆い被さりながら。最終確認なのか、瞳を真っ直ぐ見つめて訊ねる。
 マリューはこくりと頷いた。
「いくよ」
 声と同時に、熱いものが入り口に触れたのが分かった。
「アッ……」
 そのままグッと入ってくる。マリューの息が一気に上がった。何故だか分からないが涙が出そうだ。
「痛い?」
「だい、じょうぶ、です」
 痛くはない。寧ろなんだか切ないくらいで。
「マリュー」
 耳元で初めて聞く声がした。
「あっ…」
 心臓が一瞬締まるのと同時に、無意識に力がこもって固くなっていたマリューの身体が、ゆっくりと緩んで馴染んでいく感じがする。
 彼の吐息も熱くて、呼吸が乱れているのが直に伝わって、それが自分の影響だと思うと、身体の中がギューっと締まる。
「ぅ…わっ……」
「な、んですか……」
「堪んないなって」
 少し顔を顰めて、でも決して嫌なわけではなさそうな熱く濡れた声が響く。
 そこに異性ならではの欲情を感じて、マリューは泣きたくなった。嬉しい。恥ずかしい。そして気付かされる、自分自身も抱いていた欲情。
「マリュー」
 また呼ばれる。
「しょ、少佐、」
 涙が滲む目で睨んだ。もたらされる熱が、気持ちいい。
「俺も呼んで」
 頼み事のように囁かれて。
「ムウ」
 小さく囁くと嬉しそうに笑う。あんまり嬉しそうだから恥ずかしさが増してしまう。
 火照る自分の頬に手をやると、また目頭が熱くなった。涙腺がどうかしてしまったのだろうか。
「そんなに泣かれると悪いことしてる気になるな」
「ちがっ……違うんです」
 気遣うようにマリューの顔を覗き込みながら、少し後ろめたそうに呟く。
「急かしすぎた?」
 その問いに、ブンブンと首を振る。
 嫌な訳じゃない。寧ろ逆だ。
「幸せすぎて……」
 いつの間にかこんなに感情を持っていかれていたなんて。
「まさか好きな人とこういうことできるって……思ってなくて……」
 亡くしてから、好きな人ができると思っていなかった。
 なのに。
 こんな時なのに。
 こんな時だからこそ。
『それであなたまで戻って来なかったら私は……』
 あの時、半分は気付いていた。でも仕舞い込んだ。
 私は、
「本当はずっとこうなりたかったの」
 抑えきれずに言葉にしてしまうと、とどまることを知らない思いと同じくまた涙が溢れ出す。
 自分の手で拭おうとしたら、もっと温かい手が伸びてきて指先で目尻を掬われる。
「俺も」
 額と額をくっつけて、くしゃっと笑う。
「……あっ!」
 マリューの中で動く。
「やっぱ我慢できない」
 優しくするはずだったのに、と溢しているが、その優しさは充分伝わってきた。それでもだんだん早く、勢いを増して齎される快楽に、マリューは溺れていく。
 熱い。頭の芯まで溶けてしまいそうだ。
 何にも考えられなくなって、声も抑えられなくて、ただひたすら彼に縋って彼を感じていた。
 何度か頭が真っ白になった後、身体の奥で何かが弾けるような感覚がして、そのまま果てた。



「落ち着いた?」
「はい」
 心配そうにかけらた声に、マリューは返事を返した。一度溢れ出すと涙が止まらなくなって、泣きじゃくっていたマリューはやっと嗚咽も引っ込んだ。
「ごめんなさい」
「いや、全然謝んなくていいんだけどさ」
 嫌だったとかじゃないんなら、と続けるから、マリューはぎゅっと彼の腕にしがみついて頷いた。
 その仕草に安心したのか、しがみついたマリューを肩幅の広い胸に押し付けて、反対の腕を回して抱き締める。
「でも、きみがこんなに泣くとは思わなかった」
「私もです」
 マリュー自身が一番驚いている。こんなに泣き虫だっただろうか。少なくとも人前でそんなに涙を見せるタイプではなかったはずだ。
「泣いていいんだよ」
「え?」
 包み込むような優しい声に、思わず聞き返す。
「泣いていい。泣き顔も好きだし」
 じーっと見つめながらそんなことを言われたら。
「あんまり甘やかさないでください」
 また溢れ出す。
 感情がぐちゃぐちゃだ。
「いいじゃん。ずっと頑張ってんだから」
 太陽みたいにカラっと笑った。

 本当はずっと泣きたかった。
 どうしようもないことばかりで。責任という重い言葉がずっと肩にのしかかっている。だから我慢していた。
 結局、泣いてしまった。
 縋って、泣いたら、抱えていた一つはスッキリしてしまった。
 踏み出さなければ、泣かなかったかもしれない。でももういっそ泣きたかった。

 その涙を、困ったように、でも愛おしそうに受け止めてくれる人がいる。
 それが幸せで、一気に決壊してしまった。

 踏み出したその責任も大事に抱えたい。

(これで本当に、この人まで戻ってこなかったら私は……)

 それでも。

 今の自分は幸せだ。
 涙が出るくらい幸せだ。

 あのキスで導かれた答えに後悔はない。
 何があっても、こうなったことは後悔しない。

 マリューが望んでいたことだから。

 だから。

 今この瞬間は、抱かれたこの腕を永遠に感じていたい。





*****
鷹艦長ブリッジキスの後。
3万回くらい妄想したやつ。お恥ずかしい。

付き合って一般的に一番甘い時期の恋人に、間に合わないかと思ったって口から出ちゃうの切ないですよね。
てか見送りたくないよな。いつまで経っても。







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