また愛から生まれる | ナノ  二人目だし、と今回はつわりが軽く安定期に入ると体調もよかったので、マリューは産前休暇に入るギリギリまで仕事をしていた。
 一人目は予定日後に産まれたので、今回も会えるのはまだもうちょっと先だと楽しみに待っているところだったのだが。

「どうかしましたか?」
 ヤマト隊とマリューが打ち合わせをした後、なかなか席を立たないマリューにキラが声をかける。
 彼女は来週から産休に入る予定なので、お腹もだいぶ大きくなってキツいのかもしれない。ならば手をかそうと思った。

「お腹が結構張ってて」
 マリューは大きくなったお腹を撫でながらキラの問いに答える。

「「「はる?」」」
 近くに居たシンとルナマリア、アグネスが聞き慣れない言葉に聞き返した。

「痛いってことですか?」
「張るだけだと思ってたんだけど……腰にかけてちょっと痛くなってきちゃって」
 マリューが苦笑いを浮かべつつ、自分の腰に手を当てる。

「え?」
「陣痛がくるかも」
「「「陣痛!?」」」
 言葉は知っている。マリュー以外のこの場にいる皆が経験したことはないが。

「大丈夫ですか!?」
「陣痛って、うま、産まれる……!?」
 ルナマリアとシンが焦り出す。

「大丈夫よ」
 マリューは微笑むが、笑顔が痛みからか引きつっている。

「僕は医務室に行ってお医者さんを呼んでくる。シンはムウさんに知らせて。ルナマリアとアグネスはマリューさんのそばについてて」
 キラも焦っているようだが、冷静に指示を出す。

「はい!」
 キラの指示に従いすぐに駆け出すシン。
 部屋を出ると「おっさーん!!おっさん!産まれる!産まれる!!」と叫びながらムウを探して彷徨う声が、だんだんと遠ざかっていく。

「隊長」
「じゃ、頼むね」
「キラくん、大丈夫よ。自分で行くわ。陣痛って始まってからが長いし……」
 部屋から出ていこうとするキラをマリューが呼び止めた。

「でもマリューさんにも赤ちゃんにも、何かあったらムウさんになんて報告すればいいんですか」
 それだけ言って、キラも駆け出した。

「……頼もしくなっちゃって」
 キラの背中を見送るマリューの目元が、優しく緩んだ。

「陣痛って長いんですか?」
 腰を摩り続けるマリューに、ルナマリアが訊ねる。

「長いのよ」
 この感じはそのうちおさまるわ、と経産婦は語る。

「こういう時って、多分男性の方が落ち着かないんだと思う」
「摩りましょうか」
「ありがとう」
 力一杯押してもらっていいから、とルナマリアの申し出に甘える。

「何か欲しいものとかありますか?」
「今はないわ。ありがとう」
 アグネスも落ち着かない。

「シン、大丈夫かなぁ?」
 落ち着いているマリューにとりあえず安心しつつ、ルナマリアは真っ先に駆け出した恋人が少し心配になった。







「おっさんは?!」
「なんだぁ?血相変えてどうした」
 格納庫に駆け込んできたシンに、マードックが驚いて声を掛ける。

「おっさんって大佐か?」
「艦長に陣痛が来て!」
「はぁ?!」
「だからおっさん……!」
「大佐はここにはいねーよ」
「艦橋かな!?」
 言いながらシンはもう走り出していた。







「フゥー」
「大丈夫ですか?」
 腰を擦っていたルナマリアが、落ち着いた表情で長く息を吐くマリューに声をかけた。

「いったんおさまったから大丈夫。自分で歩いて医務室まで行くわ」
「自分で歩いて?!」
 アグネスが驚いたのか素っ頓狂な声を上げている。

「陣痛の間隔が短くなってきたらそうも言ってられないけど……まだ大丈夫そう」
「肩かします。お腹、重いですよね」
 ルナマリアが立ち上がるマリューを支えつつ、当たり前のことだが聞いてしまう。

「そうなの。だから早く出たがってるのかも」
「赤ちゃん大丈夫ですか?」
「元気に動いてるから大丈夫」
 お腹を撫でながら、マリューは笑った。






「おっさん!!おっさーん!!」
「わ、びっくりした。どうした?」
 駆け込んできたシンにチャンドラが驚きながら訊ねる。

「産まれるって!!」
「えー!!!」
 アーサー・トラインが驚いて声を上げる。他の面々も目を見開いていた。

「艦長が陣痛きて」
「大佐は今日はここには来ていない」
 ノイマンが冷静に答える。

「ムラサメ隊は今頃外の演習場じゃなかったかな?」
 コノエ艦長の助言にシンは「ありがとうございます!」と言って走り去った。







 マリュー達が歩いて医務室に向かっていると、医師を連れて折り返してきたキラと会った。

「歩いて大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ」
 心配そうなキラにマリューは笑顔を返す。

「赤ちゃんは?」
「イタタ、ほら元気に蹴ってるでしょ」
「すごい!足形が分かりそう!」
 触れると服の上からでも動いているのが分かって、アグネスが面白がっている。

「陣痛、いったんおさまりましたか。今のうちに病院へ行く車を待機させましょう」
 年配の医師が、和かに告げた。







 結局、外の演習場でシンはムウを見つけた。

「おっさん!!」
「シン? そんな急いでどうした?」
 自分に子どもが生まれた辺りからおっさんじゃない、とは言わなくなっていた。そのかわり(?)、まだうまくサ行が発音できないその子に、シンとディアッカは「おっしゃん!」と呼ばれている。

「何のんびりしてんすか!こんな時に!!」
 その子に妹か弟ができるのかと思うと、親ではないシンですら感慨深い。シンは出産や陣痛については分からないが、兄妹がいることがどれだけ幸せなのかは知っている。

「こんな……?」
「艦長が、陣痛きて、産まれる!」
 走り回って息が上がってしまったのを整えつつ、伝えたかったことを伝える。

「うま……今!?」
「艦長室!」
 二人して駆け出した。







「シン!ムウさん!」
 探しに来たキラと廊下で遭遇した。

「マリューさん医務室で病院行くの待ってます」
「医務室!」
「病院!?」
 駆けてきた二人の表情に一気に不安が広がる。
 今度は医務室に駆け出した。





「シン大丈夫かな?」
「大佐見つかったかしら?」
「二人目だし、そんなすぐには産まれないの分かってるはずよ」
 陣痛が一旦おさまったマリューは、リラックスするように笑う。医師もまだ30分間隔なら大丈夫でしょう、と言っていた。

「マリュー!?」
「産まれた!?」
 ムウとシンが二人して医務室に駆け込んでくる。少し遅れてキラも。

「まだまだよ。これから病院行くから……」
「あ、そう」
「まだ産まれないんっすね」
 マリューの落ち着いた声にホッと拍子抜けする二人。
 のほほんとルナマリアとアグネスにお腹を触られている。先程から、痛んだりおさまったりを長い感覚で繰り返していたので、おさまっている時は女性陣がお腹に触れながら赤ちゃんに声を掛けて楽しんでいた。

「あなた二人目でしょ」
「そうは言われてもそりゃ動揺するだろ」
 予定日より早いし。

「さぁ!これから頑張らなきゃ」
 マリューは気合いを入れている。

「ファイトです!」
「元気な赤ちゃん産んでくださいね!」

 ヤマト隊に見送られて病院へ行き、その日の夜に元気な赤ちゃんが産まれました。





おしまい。








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