エストロゲンとリンパと血流 | ナノ
エストロゲンとリンパと血流
日差しが随分と暖かくなってきた。朝晩はまだ冷え込むが、天気のいい日が続いていて昼間はもう春の陽気だ。
「しばらくぶりですわね」
「本当に。お元気そうで何よりです」
「真尋さんのお着物姿、素敵でしてよ」
ゆやの茶屋で、久しぶりに顔を合わせた阿国と真尋。3年前のくノ一姿の真尋の方が見慣れていたので、新鮮だったようだ。
忙しく働くゆやの様子を横目で見つつ、流行のファッションやここ最近の出来事、思い出話に花を咲かせていた。
「……ゆやさんの胸、この前来た時より成長してますわね」
「え?そうですか?」
「何て話してるんですか!聞こえてますよ!」
先程見送った客の御膳を下げたゆやが、真っ赤になりながら前掛けを外して二人の座っていた座卓に座る。
昼時やお茶時を過ぎた夕方頃、茶屋の仕事が落ち着く。そのひと段落した時間帯に馴染みの仲間がいると、ゆやもゆっくり話をして楽しむ。
今日は女三人。なんだか女子トークになりそうだ。こんな時、亭主元気で留守がいいとはよく言ったものだと思う。
「その…そう見えますか?体重は変わってないんだけど」
自分でも少し気になっていた。B82W59H83+女心の“女心”が必要ないくらいにはなったかもしれない。
「あら?嬉しくないんですの?」
「太っちゃったのかなって」
今まで賞金小町として旅をしていたけれど、茶屋を開いてから運動量は減った気がする。とはいっても、茶屋の仕事を一人で切り盛りするのはなかなか大変で、ジッとしているわけではない。
「色気が出てきたということでは」
まだまだ私には及びませんけど、と悩ましい吐息を添えて阿国は囁く。
「色気?」
なんで?とキョトン顔だ。
「「え?」」
「え?」
「そんなのすぐ分かることじゃないですか」
「すぐ分かる?」
「だってほら、、、狂が……」
「狂さんが揉むからでしょう?」
真尋が恥じらいつつ言い淀んだ先を、阿国は当然のように告げる。
「ちょ!!え?!真尋さんまで……」
「そこから先についてはあえて聞きませんが」
阿国はヤレヤレとでも言いたそうに呟く。
こういう扱いをされると、ゆやにはどうしても気になることがある。不本意(←すごく強調したい)だが、散々仲間達の前で晒されてしまったのだから。
「そもそも、揉まれると胸って大きくなるんですか?」
「あら、やっぱり気になるんですの?」
「素朴な疑問です!」
ずっと、ちょっと、気になっていた。
嘘か本当か知らないし、本当だとしたらどうして?と思ってしまう。
ゆやだって決して小さくはない(と思っていた)のだが、阿国や歳子と比べられると見劣りしてしまう。
狂がいなくてよかった。散歩ばっかでフラついててよかった。絶対聞かれたくない。っていうかあのセクハラアル中のせいで気になっていたことだ。でもそれを知られたくはない。これ以上調子に乗らせてたまるか。
「そうですわね…なかなかただ揉んだだけでは大きくなりません」
ニッコリと笑いながら、阿国はゆやの顔を覗き込む。
「下手だと胸の脂肪が減ってしまう可能性もあって、適度な揉み方や刺激がなければ胸は大きくなりません」
「そうなんですか?」
「大きな胸の大部分は脂肪ですからね」
そう話す彼女の大きな胸元に、やっぱり女子二人は目がいってしまう。
「うふふ、でも、胸の構造や揉み方を理解しているとどんどん大きくなることもあります。特に10代や20代前半の女性なら、成長期なので胸を揉んで大きくすることはかなり期待できましてよ」
ゆやと真尋を交互に見ながら。
「ゆやさんもバッチリ当てはまりますね」
そ・れ・に、と楽しそうに続ける。
「ゆやさんの大胸筋はしっかりしているので、まさに成長過程。伸び代がありますわ」
「大胸筋?」
「大胸筋がしっかりしていないと、胸は大きくなりませんし、大きくなっても形が悪いです」
「形…」
「形は大事ですよね」
胸は、大胸筋が支えていて、胸自体は脂肪とクーパー靭帯からできている。そして、重力で下に重さが集中する。胸が垂れ大胸筋がずっと凝っている状態で血行が悪いと、胸の成長には良くない。だから、そういう状況を改善する揉み方をすると、血行が良くなり大胸筋も発達し胸も大きくなる。一応、理論的には。
「胸の周りにはリンパがたくさん流れていて、その部分はとても詰まりやすく、詰まってしまうと胸に栄養が行かなくて悪影響を与えてしまうんです」
だから胸周りのリンパが詰まっている場所を揉みほぐす意味もある。
「胸を揉むから、というか、胸の周りのリンパを揉んでほぐすことに効果があるってことですか?」
「真尋さんも気になるようですわね」
「え?あ、いえ…」
「うふふ、彼も色仕掛けには弱そうですものね。でもありのままの真尋さんで充分セクシーでしてよ?」
「え?彼って誰?誰の話??」
「ゆやさんも本当、鈍感ですわね」
真尋の想い人が見当つかない様子のゆやに、阿国はフゥとまたため息をつく。
「血流やリンパの流れが良くなることで、女性ホルモンの分泌が促進されて乳腺が発達し、乳腺周辺に脂肪がつきやすくなるんですの」
闇雲に揉んでいるだけではダメですのよ、と忘れない。
「そもそも阿国さん、なんでそんなこと知ってるんですか?」
「もちろん見聞屋(じょうほうや)ですから。特別に教えて差し上げてましてよ」
聞いておいてなんだが、見聞屋とはそういう情報も守備範囲なのだろうか。それとも阿国だからなのだろうか。ん?見聞屋だから、ということは。
「お金とるんですか?」
しまった!と内心焦るゆや。お金は大事だ。
「そうですわね……ゆやさんにはお金以上の何か別の見聞を頂くことと致しましょうか」
「え!?何もないですよ!お金以上の見聞なんて」
「あら、残念」
ちっとも残念じゃなさそうに笑っている。
「媚薬は使いまして?」
「つ、使ってないです!!!」
「あら、それも残念」
二人のやりとりは楽しくて真尋はつい笑ってしまう。
「ならやっぱり、この身体で勝負ですわね」
いつの間にか阿国はゆやの真横まで近付いてきていた。あまりに至近距離なのでゆやがびっくりしていると、背中から腕を回して、胸元を抱きしめられた。
「こんな感じです」
「キャ!」
大胸筋のコリをほぐすように、手とは反対側の胸の上の方をぐりぐりと揉む。円を描くように優しく。それから内から外にかけて指でつまむようにギュっと白く細長い手が動いていく。無骨な漢とは違う、阿国の女性らしい手。
そういえば……いつもここら辺まではまだ照れ隠しに文句を言う余裕がある。って何を思い出しているのか。
「ちょっと摘みにくいので力を入れて、リンパを流すように意識しながら」
脇の下から腕にかけて、グッと手でよく揉みほぐすように阿国の手が動く。
「こちらもリンパを外に流すイメージです」
手が、ゆやの脇の下から真横にある部分を揉んでいく。お椀型に持ち上げるように。
「あ、やん!」
「気持ちいい箇所を探しながら入念に揉んでください」
「ちょ、ちょっと!阿国さん……」
気持ちいい箇所を探しながら?だからか?だから、ニヤリと口角を上げて顔を覗き込まれているような。ゆやが溢れ出る声を我慢出来なくなってくるのもこの辺りかも?そしてだんだん…双丘中心の頂に向かって……。っていやいやいやいやいや!だから何を思い出しているのか。
「阿国さん!!!」
咎めるように名前を呼んで、為されるがままになりつつあった身体を捻って彼女の腕から抜け出す。
「うふふ、ゆやさんは分かりやすくってつい」
「ついって何ですか!」
「真っ赤になって、きっとリンパの血流もバッチリですわね」
リンパどころか顔や耳まで熱い。
「大丈夫ですか?ゆやさん」
「大丈夫っていうか大丈夫じゃないっていうか」
完全に面白がられているこの状況が不本意だ。
「ここまでは自分でも出来るんですが、やっぱり“漢の方に”というところにも理由がありまして」
真っ赤な唇の前に人差し指を寄せて妖艶に囁く。
「女性ホルモンの分泌、エストロゲンの働きですわね」
「エストロゲン?」
「女性らしさをつくる、言わば美のホルモンですわ」
女性らしい丸みのある体形をつくったり、肌を美しくしたりする作用があるホルモン。エストロゲンの分泌量が多いと髪の毛や肌もきれいになる。
「よく『恋をすると女性はきれいになる』と言いますが、同じ理論ですわね。ドキドキすることでエストロゲンの分泌量が増えるからだそう。他にも、彼と一緒にいて倖せを感じることでもエストロゲンは分泌されます」
「ドキドキと倖せ?」
「狂さんは、ドキドキ、胸の高揚感の権化ですわ」
阿国の表情がアハンウフンなものになってくる。
「確かに色んな意味で心臓がもたないかも」
「危ないってことじゃないですか!」
ハラハラも含まれるのだろうか。
「周りも癖が強すぎるくらいドキドキですからね」
しょっちゅう死合たがる連中だ。ヒヤヒヤさせられて振り回されることも多い。
「あとはやっぱり、愛する方に愛されてこそエストロゲンの分泌量は増えます。一番大切なのは、」
大切なのは、とゆやと真尋はごくりと息を呑んで阿国の言葉を待つ。
「女性が倖せを感じられるように揉む、ってことですね」
女性が「私は愛されている」と実感できることが大切。強引に触ったり強く揉んだりして、女性が嫌がる行為はよくない。嫌がっている時点で倖せではないので、エストロゲンの分泌は半減する。
「ダメじゃないですか!!」
人前で嫌がっているゆやを強引に揉んでいる。これはダメな例だ。
「実際二人きりの時どうかについてはゆやさんのみぞ知る、ですわ」
カアァァァとゆやの顔が赤くなる。
「その倖せを感じられるかの延長ですが、褒めながらっていうのも大事でしてよ」
胸は女性らしさの象徴であるが故に、コンプレックスにもなりやすい。「きれいだよ」「ずっと触っていたい」など褒め言葉を最大限に駆使されると、胸について自信を持ててエストロゲンの分泌量も増える。
「いや全然褒めないですから!」
「大きくなったなら大きくなったとは言いそうですけど」
「オレ様のおかげで、とか自分のことで全然私のこと褒めないですよ」
「褒めて欲しいんですね」
「うっ」
ウフフ、と笑われてしまうと何を言っても墓穴を掘りそうだ。恥ずかしい。見聞屋とくノ一相手に元賞金小町だと、この手の話は分が悪い気がする。
「ゆやさん達の事情は置いておいても、好きな殿方とイチャイチャすると女性ホルモンの分泌が増えるので、胸が大きくなりやすいという見聞ですわ」
阿国はまとめに入っている。丁度、それぞれ飲んでいたお茶の湯呑みも空になっていた。
「身体の内側から綺麗にしようとする女性ホルモンの力は偉大ですのよ」
「ひ、紅虎さまのお側で、素敵な着物や小間物や着飾った人に囲まれていると、それももちろんキラキラしてるんですが……やっぱり中も外もって憧れちゃいますね」
「身も心も内面から美しくなっていきたいですね」
阿国の言葉に真尋も頷く。ゆやももちろん同意だ。
ただ。
「本当に揉んだら大きくなるんですね…」
でも狂はなんでそんなこと知ってるの?揉み方についてまで?
口には出せない疑問がゆやの頭に浮かんでしまったが、阿国には聞けない秘密である。
***
本能?知ってんのかな?
胸の理論については友達に聞いた話やネットや雑誌で見かけた情報を総まとめにしてます。
笑って頂ければ(笑)
なんかそんなムードになっていい感じの最中に
「狂ってそんなに私の胸が大きくなってほしいの?」
って言われて「……」ってなる鬼眼下さい。
「……」ってなるかな?いやならないか!ならないね!狂さん最強だからな!ビシッと返事してくれますよね!?狂!!!(なんかちょっとアキラ入ってる)
散々セクハラして自業自得な状況になって欲しいなぁって気持ちがずっと妄想に影響与えてます。