チェンジ・ザ・わーるど | ナノ  段々畑のあぜ道を真っ赤に彩っていた彼岸花が終わりを迎え、黄金に実った稲穂を刈るために、村の人々は忙しくなる。今年は台風が多かったから、何度も頭を抱えたが、無事に稲刈りを迎えられそうだ。自然の脅威に人は勝てないけれど、急斜面に石垣で田んぼを作ったり、乾燥させてから脱穀したり、昔からの知恵と努力はすごい。そうやって、いままでもこれからも、付き合いながら乗り越えて、生きていくのだろう。
 稲刈りの準備に駆り出されている犬夜叉の帰りを待ちながら、かごめは夕飯を作っていた。

「ただいまー」
「あ、おかえりなさい」
 あとは煮込むだけ、といったところで、帰宅を告げる聞き慣れた声がした。

「丁度よかった。ご飯もうすぐできるから」
「おー」
 屋内に入り何気なく返事をする犬夜叉から、淡い金木犀の香りがした。

「あれ?なんか犬夜叉……いい匂い」
「なんだよ?」
 香りに誘われるように火鼠の衣の裾をツンとかごめが引っ張ってみたのと、かごめの声で犬夜叉が振り返ったタイミングが同時で。

「わ!」
「う、おっ!」

ゴチン!!

「いったー!」
「ッー!」
 お互い額を押さえて声を上げる。どちらもぶつかった衝撃でジンジンと痛んだ。

「ごめん、いきなり引っ張ってびっくりしたよ、ね……!?」
「おれも勢いつきすぎ、た……!?」
 どちらも謝りながら、目の前の人物を見返すと。

「私?」
「おれ?」

 鏡の前でもないのに、自分自身の姿がそこにあった。

「……」
「……」
 数秒、二人見つめ合って呆ける。

「何やってんだ七宝!」
「七宝ちゃん?」
 どちらともなく、尻尾がないか確認しようとして、お互いの背後に回り込んだ。同時に動いたので変な位置になったが、触ってみても尻尾はない。

「いきなり七宝になるわけねぇか」
「七宝ちゃんも今日は楓ばあちゃんの所でお手伝いって言ってたし…」
 巫女服を着た女が、腕を組んで考え込む仕草をする。火鼠の衣を着た男が、困惑したように口元に手をあて、小首を傾げる。
 七宝でないならば、この目の前の人物は。

「かごめ?」
「犬夜叉?」
 お互いを凝視しながら問いかけた。それから、首を下に動かして自分を見てみる。手も、足も、着物も、体が……。

「私が犬夜叉になってる!?」
「かごめじゃねぇか」
 かごめの体になってしまった犬夜叉が、自分の両手を両胸に当てながら。

「きゃー!!どこ触ってんのよ!!」
「ば!」
 つい、確認するように手が行ってしまった。そして、目の前の犬夜叉の体になってしまったかごめが、キャーと甲高い悲鳴を上げたことに、驚きと気持ち悪さが込み上げてくる。

「明らかに違う部分だろ?」
「だからって、いきなり触らなくても…!!」
「それよりお前、おれの体と声でキャーとか言うな!」
「犬夜叉だって私の体と声でおれとか言わないでよー!」
「でよー!もなんか気持ち悪ぃ…」
 不快感丸出しの顔で頭をグシャグシャとかこうとすれば。

「ヤダ!髪グシャグシャじゃない。やめてー!」
 と、体が犬夜叉になってしまったかごめが悲鳴を上げる。

 お互いの動作に、違和感だらけである。

「もう!犬夜叉のバカ!!おすわり!!」
「バーカ、おすわりって言ったって意味ね…」
 意味ねぇだろ、と犬夜叉(体かごめ)が言う前に。

「きゃあ!!!」
 ふぎゃっ!っとどこかから聞こえてきそうな勢いで、言霊の念珠が輝き、かごめ(体犬夜叉)の体が首から床に叩き付けられた。

「かごめ!!!」
 犬夜叉(体かごめ)が切羽詰まった声で、床に伏せてしまったかごめに寄り添う。

「わ、悪かった!つい……」
「……いつも犬夜叉はこんな思いをしてるのね」
 少しジンジンする体をさすりつつ、かごめは自力で起き上がる。その背中に、犬夜叉のいつもよりも小さく細い手が添えられた。

「もう絶対言わねぇ」
「ううん。私も…ごめんね」
 真剣な表情で見つめながら、はっきりと断言する犬夜叉(体はかごめ)に、恥ずかしさとついカッとなってしまった自分を反省する。

「大丈夫か?」
「大丈夫よ。やっぱり犬夜叉の体って強いみたい」
 よれてしまった火鼠の衣を少しはらい伸ばしながら返すと。

「そうか」
 安心したように、そしてどこか嬉しそうに表情を緩める。かごめのよく知っている、犬夜叉の反応、表情だ。

(体が変わっても、犬夜叉は犬夜叉なんだ。)
 自然とお互い見つめ合ってしまって、ふと実感した。

グツグツグツグツ

 夕飯がそろそろ出来上がった音がする。

「とりあえず…ご飯にしようか?」
「お、おう」

 違和感を抱えつつ、食事を済ませることにした。







「どうしよう…。なんとか元に戻れないのかな?」
「楓ばばあか弥勒に聞いてみるか?」
「そっか!あの二人なら何かいいアドバイスをくれるかも!」
 夕飯を食べても、二人の体はそのままだった。
 のんびり寝支度をしながら、話し合う。

「今日はもう日が暮れてるし、二人とも家でゆっくりしてるだろうから…。明日の朝、聞いてみよ」
「そうだな」
 家に帰ってからの出来事だし、二人だけでいる分には今のところなんとか生活は出来ている。だから早めに床について、朝からなんとかしよう。という結論に至った。

「まさか体が入れ替わっちゃうなんて…そんな妖怪いるの?」
「おれもそんな妖怪知らねぇ」
「妖怪のせいじゃないなら、何なんだろう」
「分かんねぇ」

 全く見当がつかない。
 普段と違う感覚が落ち着かなくて、色々考えてしまう。

 例えば、妖怪退治をしている時にこうなってしまったなら。
 楓や弥勒、珊瑚たちがいるところで、こうなってしまったなら。
 
 ふと、手を見てみる。
 骨ばった、爪の長い犬夜叉の手。

 よく知っている。

 数年前、あんなに会いたいと願った半妖の姿。

 その姿に、自分がなってしまった。

 あの3年間の途中で、今の状況になっていたら。

 犬夜叉が何をしているか。
 どこにいるのか。
 誰といるのか。
 実際の、犬夜叉の視点で見ることが出来たなら。

「犬夜叉に会えなかったあの頃に、いきなり入れ替わったりしたらどうなってたかな」

 かごめがふと発した一言に。
 それまであまり気にした様子じゃなかった犬夜叉の表情が変わった。横顔でも分かる。

 顔はかごめの顔だけど。
 違う。 

(私はそんな顔しない。)

 否、できない。

「ご、ごめん!毎日高校に通ったり、電車に乗ったり、勉強したり、犬夜叉は嫌だよね。」
 一瞬の出来事だけど、胸がギュッと締め付けられて、話を変えるためにかごめは早口でそう続けた。

「かごめの世界を知るのは楽しい。」
 後ろ頭で組んだ手を枕代わりに、犬夜叉は仰向けで空中を見つめながら呟いた。

「けど、」
 手を、握られた。ゆっくり、此処にいるのを確かめるように。指を絡める。

「どんなにかごめの世界をみれても、そこにかごめはいないなら…」

 例え自分が、そうであったとしても。

 消え入りそうなその声はいつもと違って高い。かごめ自身の声だから。
 顔だって、鏡や写真で見る自分だ。
 でも、その表情は、間違いなく犬夜叉のもので。
 鏡や写真では見たことのない自分の顔で。

 思わず、動いていた。

「か、かごめ?」
 両腕で引き寄せられて、火鼠の衣にすっぽり収まった女が、驚いた声を上げる。

「いるわ。私は此処にいる。犬夜叉のそばにいる」
 はっきりそう告げる。言葉に感情を込めて。

「……おれのその声で、私とかやめろって」
 フッ、と小さく吐息をこぼしてから、ふて腐れたような苦情が返ってくる。

 例え体が入れ替わっても。
 いつもと違っても。
 そばにいられるから幸せだと思う。

 また手を握るといつもと逆で。
 お互い、普段と感覚が全然違うことに驚く。

「私の手、こんなにひんやりしてるんだね」
「柔らかくて…いい匂いだ」
「な!」
 言われて照れくさくなりながらも、すう、と空気を吸い込んでみれば。クラクラと、なんだか酔っ払ったような気分になってしまって。そんな自分にかごめはカッと体が熱くなるのを感じた。

「何言ってんのよ」
 そう返す間に、犬夜叉の指がかごめの手をなぞるように這い始めて。

「ちょ、ちょっと!犬夜叉…?」
 熱くなる。体中を熱が…あれ?変だ。いつもと違う。熱が、集まっていく感じ。ん?

「かごめ」
「きゃっ!」
 犬夜叉の、手が。違和感の正体部分に触れた。袴の上から。

「やっぱりな」
「な、何を……!!」
 アワアワと、口をパクパクしながらかごめ(体犬夜叉)の顔が真っ赤に染まる。

「期待してんじゃねぇか」
「な、何これ……。」
「何って「ワーーー!!言わなくていいから!!私の口で、声で……言わないで!!」」

 静まれ。静まって。
 お願い。

 は、恥ずかしい…。今は自分の体になってしまったソコが。
 どうにも恥ずかしい。
 見れない。見れるわけがない。

「なぁ、かごめ。どうしたい?」
「え?」
 赤い袴の上から、膨らんだソコに、犬夜叉が手を伸ばす。今のかごめの体に比べて、白くて、細くて、骨張っていない、手を。
 熱くなってしまったそこに、服の上からでも触れた感触が、する。

「おれはかごめとシたくなった」
「シ!したくって……や、やめてよ〜!!」
 自分の顔に、熱を帯びた声で言われたら。
 だんだんと、犬夜叉が身を寄せてくる。近い。なんだか甘い…魅惑の匂いが漂ってる感じだ。

「ずっとこのままだったらどうする?」
「ずっと…?」
 その言葉にハッとする。

 近くにいるのに。
 ずっと、このままだったら。

 触れ合えるのに。
 そばにいるのに。

「かごめ」
 耳元で名前を囁かれたら、降参だ。

「私も…したい」

 目の前の自分の顔が、ニッと笑った。
 悪戯っ子みたいな顔で。いつもなら、八重歯みたいな牙が見える顔で。
 かごめには出来ない、犬夜叉の表情で。

 いつもかごめがするみたいに首に手を回して、でも少し強引な強めの力で引き寄せられて。
 キスをした。

 ふわふわする。

 なんだかふわふわする。

 いつもと違う熱さ。

 頬に触れる手が、大きくない。でも、柔らかくて気持ちいい。

「入れていいか?」
「え?!いきなり?!」
 まさかの申し出に、素っ頓狂な声で聞き返してしまった。

「なら、指で……」
「きゃー!ちょっと待って!!」
 自分が、自分で指を入れているとこを見るなんていやだ。

「かごめがするか?」
「わ、私が?」
「爪、噛み切って」
「え、」
「傷、つけたくねぇだろ。かごめの体に」
「いつも犬夜叉がしてるみたいに?」
「おう」
 言われた通り、爪を噛み切ろうとガジガジ噛んでみるが、うまくいかない。

「牙使えよ」
「こ、こう?」
 ガジッっと牙で強く噛み切る。

 それから、かなりドキドキしながら。指を……。

「んっ」
 相手の口から小さく漏れた声。
 なんか…。

「あ!」
「なんだよ」

(濡れてる…。)

「恥ずかしいね」
「言うな。こっちも恥ずかしくなるだろ」
 顔を赤くした犬夜叉が。自分の顔なはずなのに。

(か、かわいい…。恥ずかしいけど…。犬夜叉の反応かわいい)

「どうしよう、かわいい」
「はぁ?」
「犬夜叉かわいい」
「お、おれじゃねー!!」
 真っ赤になって否定するから、余計にかわいいと思ってしまう。
 その度に、自分の体も…。

「ひゃぁぁ!」
「どうした?」
「あの、えっと……」
 気付くと同時に驚いて声を上げてしまった。

「熱い」
「熱いって」
「だって……!」
 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして犬夜叉の体になってしまったかごめが、犬夜叉…と助けを求めるように名を呼びながら見つめた視線の先は。
 本人が先程からモジモジと股を摺り寄せている、存在が分かりやすくなってしまった…ヤツ。

「かごめ」
「犬夜叉のえっちー!」
「おれじゃねぇだろ!」
「だって…!体がなんか…変」
 はちきれそうにパンパンで…痛いくらい。

 言えない。
 でも、本当は分かってる

 体が叫んでる。

 早く、入りたい。

 入れたい、って。

 分かってしまって、恥ずかしさに耐えられなくなってきて、かごめの目に涙が浮かんできた。

「お、おい!」
 驚いた犬夜叉が、今にも泣きだしそうな自分の顔を見て焦っている。

「早く…」
「え?」
「だって、犬夜叉」
 もう我慢できなくて、でも口では言えなくて、犬夜叉の手を掴んだ。そして、自分より一回り小さな手を、そのかごめが泣きそうになっている原因へと誘導する。

「わ」
 触れた。手が。

「ちょっと、待て」
 犬夜叉も、かごめの体は初めてだからか、少し怯んだみたいだった。

「ごめん…。待てない。」
「へぇ。やらし…かごめ」
 一瞬目を見張ってから、薄く笑う。耳元で名前を囁かないで。そんな挑戦的な、扇情的な上目遣いしないで。

「着物、どうする?」
「着物?」
「脱がせていいか?」
「じ、自分で脱ぐ!」
 犬夜叉の服を脱がす自分の体を想像して、何だか恥ずかしくなって後ろを向いた。

 でも。

「これ、どうなってるの?」
 うまく脱げない。

「上着ててもいいかな?」
「袴だけ脱いだのか?」
「うん」
「なんか…情けねぇ恰好」
「そんなこと…」
 言いながら、少し悪戯心がわいてしまった。
 相手は、自分の体だ。

「ひゃ!」
「ど、どう?」
 胸を触ってみた。
 いつも自分がされているように。先っぽも…少し。

「っ……。」
「声、我慢してる?」
「んな!?してねぇ」
「うそ」

 変な感じだ。
 犬夜叉の体だからだろうか?

 柔らかくて……何より、目の前の人物がかわいくて愛おしい。

「調子乗んなよ」
「え?きゃ…あ…っ…」
 いつもの仕返しのつもりだったのに、熱く硬くなっているものを、キュッと掴まれた。

「っ…あっ……」
「その声抑えろ」
「だ、だって……」
「勘弁してくれ」
 そう言いながらも、ソコを扱く手は止めない。緩急をつけながら、かごめが知らない快楽へと導く。余裕がなくなりながらも、犬夜叉の表情を見れば、顔はかごめなのに、目の奥がやっぱり……犬夜叉だった。

「ケダモノ」
「はぁ?」
「目がやらしい〜」
「かごめの顔だろ」
「違う、わよ。私、そんな目……しないもん」
「もんとかやめろ」
 文句を言いつつ、怒ってはいない。少し、楽しんでる?かごめの反応を楽しんでいる時の犬夜叉は、本人は気付いていないかもしれないが、どこか上機嫌だから、かごめには分かる。

「あっ!」
「イくなよ」
「え?」
 多分、出そうな、感覚の寸前で。止められた。

「もったいねぇから」
 そう言って、自分の体をした男が跨る。

「コッチの方が何倍も、」
 一瞬、息を止めて。

「かごめっ…」
「あ…っ!」



 そんなラブラブ夫婦は、お互いの体を満喫し、朝起きたら、無事元に戻っていました。

 元に戻った体で、朝から二人がどうしたかは、また別のお話。






*****
ごめんなさい。
こないだ稲刈りしたからそんな話書くつもりで始めたらなんてこったい稲刈り関係ないエロでしたって話。
最初は真面目な話っぽいのに全くそんなことないです。

安室ちゃんブームでfour seasonsとI will聴きながら書きました。歌全然関係ない話になってしまった。
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