サンタさんへの願いごと | ナノ




「ただいまー」
「おかえり!」
 玄関の扉を開けると、明るい返事と共に、待ち構えていたようにエプロン姿の織姫が一護の元へとパタパタと歩いてきた。

「あのね。今年のクリスマスなんだけど……」
「そういやもうそんな時期か。俺が買って帰ろうか?」
 織姫の振った話題に、一護は先を予想して答えた。仕事帰りに買って帰るのが一番バレにくい気がする。買って、どこかに隠しておけばいい。サンタの存在を信じている、一勇へのクリスマスプレゼント。

「今年は何が欲しいって?」
 一勇は毎年手紙に書いている。『サンタさんへ』から始まる所々に誤字の入り乱れる文字は、一生懸命さが伝わってきて微笑ましい。

「それがね……」
「ん?」
 織姫が困ったように一勇の手紙を手渡した。

『つのがほしいです(セロがでるやつ)。サンタさんはセロだせますか?サンタさんのトナカイはつのからセロだせますか?』

「は?せろ?」
「虚閃のことだと……思う」
「虚閃って、あの虚閃だよな?何で一勇が……」
「今日浦原商店にグリムジョーが来てて、一勇遊びに行ってたみたい」
「あァ」
 一護の困惑を察したように、織姫は話し始めた。
 そういえば、一勇はなぜかグリムジョーに懐いている。グリムジョー本人は「ガキなんか嫌ぇだ」と言っているが、苺花もなぜかグリムジョーに懐いていて、姿を見つけると二人して追い回している。

「虚閃を見せてもらったらしくて」
「……何やってんだアイツ」
 子どもに懐かれて、グリムジョーも案外満更でもないのかもしれない。

「一勇、羨ましくなってやってみたみたいなんだけど、手から出せなくて。丁度、苺花ちゃんも来てて……あんたのとうさまは角からって聞いたよって言われたらしくて」
「ツノ……」
「おとうさんつのないよ!って言ったら、出せるんじゃない?って言われたって。ぼく知らなかったって。夕方元気ないからおかしいなって思ったの。聞いてみたらそんな話を始めて……。一勇、一護くんが虚閃出せるの知らなかったでしょ?苺花ちゃんの方が知ってたーって。多分、一護くんから聞けなかったことに拗ねちゃって」
 寝てる、と苦笑する。
 だから、普段ならまだ起きている時間なのに、おかえりなさいが聞こえなかったのか、と一護は得心がいった。

「顔見る?」
 靴を脱ぎながら、まず向かおうと思った場所がバレていて。小さく笑いながら無言で頷く。

「手洗いうがいしてからね!」
「りょーかい」
 インフルエンザも流行ってるんだから、と意気込んで言うから、逆らう意志なんてなく洗面所へ向かった。

 冬の寒さ対策にもっこもこの子ども布団に包まった我が子を目にすると、一日の疲れなんて吹き飛んでしまう気がする。勝手に、口の端が緩む。
 隣に座り込むと、織姫も横に並んできた。

「最近なんか他に欲しがってたものあるか?」
「そうだねー」
 んーと人差し指を口元に当てて織姫が考えるから、一護も一緒にここ最近一勇が欲しがっていたものを考える。

「ヒーローもののおもちゃはお義父さんが買ってくれたし、靴が小さくなってきてるみたいだったから、こないだお買い物に行った時に好きなの買ってあげちゃったし……遊子ちゃんがケーキ作って持ってきてくれるって言ってたし、夏梨ちゃんは可愛い雪だるまのぬいぐるみくれたし……あ!たつきちゃんから電話があって、一勇に似合いそうな服買っちゃったから今度持ってきてくれるって!」
「みんなして甘やかし過ぎだろ」
 ありがたいことだが、改めて考えると少し心配になる。みんな一勇が可愛くて仕方がないのだろう。

「あ!」
「何か思い付いたか?」
 俺は全然浮かばねぇ、と続けながら。

「うん。でも、うーん」
「何だよ。そんな高ぇーもんか?」
 あまり値の張る物なら要相談だ。

「ううん。お金がかかるものじゃなくて……」
 織姫が一拍置いてから、答える。

「尸魂界に行ってみたいって」
「尸魂界に?」
 意外な答えに一護は思わず聞き返した。

「苺花ちゃん達の住んでるところ行きたいって何度か言ってたの」
「言ってたな」
 一護も聞いたことがある。時々苺花が遊びに来ているから、一勇も遊びに行きたくなるのは分からなくもなかった。大体苺花が帰った後などに、僕も行きたいと口でも目でも訴えかけてくる。
 だから尸魂界に行けるなら、確かに喜びそうではある。

「浦原さんに聞いてみるか」
「え?」
「今年はクリスマス2日とも俺休みだし」
「一護くんが一緒なら大丈夫だとは思うけど…」
 大丈夫と言いつつ少し言い淀む。

「サンタさんからのクリスマスプレゼントで、尸魂界にご招待?」
「サンタ要素をどうするかだよなー」
「む、難しいね」
 うーんと二人で考え込む。

「サンタさんから尸魂界への招待状が届く…とか?」
「ルキア達に言って、いけそうだったらあっちでクリスマスパーティーしてもらうか」
「でも尸魂界ってクリスマスあるのかな?」
「キリスト祝うって感じには見えねぇけど…」
 一護が眉間に皺を寄せて、サンタと尸魂界を結びつける策を考えていると。

「ふふふっ」
「どうした?」
「えっと…なんか……幸せだなって。あはははは」
 織姫はツボにハマったらしい。堪え切れないとばかりにお腹を抱えて笑いだす。

「一勇の願いごと、叶えてあげたいね」
 ひとしきり笑ってから。涙を浮かべた目で綺麗に微笑んだ。

 数日後。

「おとーさん!おかーさん!」
 朝起きて一番に、一勇は台所へと走った。

「どうした?」
「何かあったのー?」
 朝のニュースを見ていた一護と朝食の準備をしていた織姫が問いかける。

「サンタさんからおてがみのへんじきた!!」
 一勇は満面の笑みで、朝起きたら枕元に置いてあった手紙を二人に見せる。

『虚閃は出せません。角は無理ですが、一勇くんがいい子にしていたら、苺花ちゃんのお家に招待してあげます。』



***



「おじゃまします!」
「どうぞー!」
 大きな屋敷の玄関で、一勇と苺花が元気にやり取りをする。
 門柱には『阿散井』の表札。ルキアと恋次が結婚した時に白哉が用意した邸宅だ。

「はい。これおみやげ」
「おみやげ?」
「おかあさんとつくったんだ。あとでたべよう」
 出掛ける前に見送る織姫が持たせた。中身は白玉フルーツポンチだ。抹茶白玉に苺やみかんを入れて、クリスマスカラーに仕上がっている。

「ありがと!さぁ、コッチよ!」
 苺花に手を引かれて奥へと進んでいく一勇。

「悪りィな。付き合わせて」
「気にすんな。苺花もスッゲー喜んで楽しみにしてたから」
 そんな二人の後ろを一護と恋次が追って歩く。

 一勇と一護が案内された広い座敷は、和風ではあるが緑と赤を基調としたクリスマスっぽい飾り付けが盛大にしてあった。
 何より目を引くのは、座敷のど真ん中に置かれた大きな松の木。枝と葉の部分には、着物の帯で作ったように見えるリボンやら、丸いオーナメントやらが飾られている。
 はしゃぐ一勇と苺花から少し離れて、一護はそのクリスマスツリーっぽい物を見上げた。

「すげぇ…高そ」
「高いぜ。仕立て屋で一番高い帯の生地を買い占めて隊長が作らせた」
「は?」
「紐飾りだけじゃねぇ。こっちの丸い漆器は特注だ。全部合わせると多分家一軒くらい建つ」
「なん…だと……?」
 呆気にとられて見ていると、恋次が横に来て怖いことを言い出した。

「兄様が『苺花が初めて客を招くのだからこれくらいは当然だ』と言って下さってな」
 いつの間にかルキアが隣に立っていて、両腕を組みどこか誇らしげに告げる。

「クリスマスを取り違えてねーか?」
「細かいことは気にするな」
 要は誰かの誕生日祝いだろう、とルキアが笑う。

「間違っちゃいねーけど」
「おとうさん!ご飯がこんなにたくさん!」
「白哉おじさまがたくさん届けてくれたのよ!」
 机の上には美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。一つ一つが作り込まれていて。子どもが喜びそうな動物や記号の形に細工してある物もある。この人数では確実に食べきれない量だ。織姫も連れてきたら喜んだだろうと一護が思った時。

「一護。此処に織姫への土産がある。忘れずに持ち帰れよ」
「あ、あァ。ありがとな」
 ルキアの示した先には、大きな風呂敷に包まれた重箱があった。準備のいいことである。

「にしても……いいのか?こんなに派手に」
「いいんだよ。隊長、苺花を可愛がるのが生きがいなんだ」
「どこも変わんねーな」
「あ?」
「いや、なんでもねぇ」
 一勇の周りが彼に甘いように、苺花の周りも彼女を相当甘やかしているようだ。そんなもんか、と妙に納得してしまった。

「『くりすます』がよく分かんねーから、とりあえず宴の準備はしといた。一応『さんた』も登場予定だ」
「サンタ?」
「あァ」
「サンタ役誰がすんだ?」
 隣の恋次に、一勇達には聞こえないように小声で聞けば。

「まぁ見てろって」
 ニヤリと笑って流された。

 ワイワイと賑やかに準備された食事を楽しむ。苺花は一勇に、尸魂界や死神についてたくさん話をした。一勇も興味津々で苺花の話を聞く。そして、クリスマスなど、一勇は苺花に現世のことをたくさん話した。
 みんながお腹一杯になり、一息ついた頃。
 シャンシャンシャン、と神社の鈴のような音が何処からか聞こえてきた。
 そして。

「めりーくりすます!!」
「「「!?!?」」」
 いきなり窓から侵入してきた、イノシシの引くソリに乗ったサンタの格好をした男。

「わー!サンタさん!!」
「サンタさん!!??」
 サンタの定番の赤い服に反応する一勇と、これが…!と好奇に満ちた目で見つめる苺花。

「岩鷲!?」
 一護の呼びかけに下手くそなウインクを返すのは、サンタ帽子と口髭で顔が半分ほど隠れてはいるが、間違いなく志波岩鷲だった。

「『となかい』に似た動物を飼っていたのでな。入手した写真の『さんた』と体型も似ていたので、話を持ち掛けると快く協力してくれた」
「ほとんど色だけじゃねーか…トナカイとイノシシ」
 ルキアの言葉に何からツッコめばいいのか分からない。

「服とかどうしたんだ?」
「松本副隊長がこないだ現世に行った時、ド○キで買ったって」
「何やってんだ乱菊さん」
「任務で現世に行くと、時々寄るらしい」
「細かいことは気にするなと言っただろう」
 ルキアの一言で全て片付けられた。
 実は、松本乱菊はド○キホーテで、岩鷲が着るサンタ服以外にも女性向けの可愛らしいものやセクシーなものも買っていた。そして、それがあのお土産の重箱と一緒に『こっちは一護が食べる用』と書いたメモと共に風呂敷の中に入っていることを、一護はまだ知らない。

「サインください!」
「え?え??じゃあ、あたしはプレゼント!!」
 一勇と苺花が現れたサンタ岩鷲に銘々話しかける。

「プレゼントは明日の朝の約束だぜ?」
「えー!」
「サンタさん今日は一年で一番忙しい日だからサインもできねーんだ」
「そっか〜」
「かわりに窓の外見てみろ」
「「窓の外?」」
 手製のソリから降りず、岩鷲は少し声をしゃがれさせて、本人なりのサンタになりきって答えた。一勇と苺花が窓の方へと走り、外を覗くと。

 ドーン!!

 音と同時に、赤、黄、緑、青、黒、白など様々な色の煙が、空中に枝垂れ柳を描くように落ちる。明るい空に上がる、昼花火。

 ドドーン!!!

 今度はパステルカラーでふわっとした、わたあめのような煙が集まってたくさん上がる。まるで大きな金平糖のようだ。

「すごい!!」
「きれい!!」
 窓から顔を出しながら、二人は大興奮だった。

「サンタさんありがとう」
 一勇が振り返ってお礼を言うと。

「サンタさん?」
「え?サンタさん…帰っちゃった!」
 そこにはもうサンタの姿はなかった。

「今日は忙しいんだとさ」
「少しでも会えてよかったじゃねーか」
 残念そうにサンタを探す二人の頭を、父親二人がワシャワシャと優しく撫でた。



***



 サンタの花火プレゼントの後も、一勇と苺花は阿散井邸内を所狭しと遊び回った。夕方になり、日が傾き出した頃、名残惜しさを残しながらも「おかあさんがまってるから」と一勇と一護は帰路につく。二人は「またねー!」と手を振り合って別れた。
 穿界門を抜け、浦原商店の地下へと帰ってきた所で。

「すっごく楽しかった!」
「良かったな」
「ねぇ。おとうさん」
「ん?」
 一勇が嬉しそうにそう話しかけるので、何かと思えば。

「おとうさんのせろが見たい」
「虚閃?」
「うん」
 一護は予想外の頼みに面喰った。苺花と楽しそうに遊んでいたので、てっきり虚閃のことは忘れていると思っていた。でも違った。一勇はやたら虚閃に拘る。

「こないだここで苺花ちゃんといっしょにグリムジョーにセロみせてもらった。ぼくサンタさんにセロできるようになりたいっておねがいしたんだ」
「……なんで虚閃なんだ?」
 願ったことは知っている。ただ、なぜ虚閃に拘るのかが疑問だった。

「おとうさんのみたことないから」
「一勇」
 一勇と向き合って、語りかけようとしたその時。

「黒崎じゃねーか」
 背後から特徴的な低い声が呼び掛ける。

「「グリムジョー」」
「何だ。黒崎のガキも一緒か」
「一勇だよ。グリムジョー」
「呼び捨てすんな、ガキ」
 全く物怖じしない一勇に、グリムジョーは不機嫌な声で返す。

「こんなとこで何やってんだ。オマエ」
「何だっていいだろ。丁度いい。勝負しやがれ」
「は?待て!オイ」
「待てと言われて待つ奴がいるかよ」
「!!」
 話の途中で斬りかかってきたグリムジョーの刀を避けて、一護は一勇を片腕に抱える。そのまま少し離れた岩場へと飛んだ。

「おとうさん」
「ここから動くなよ」
「うん」
 岩場に一勇を下ろしてそう言えば、一勇は眉間に皺を寄せて返事をする。その眉間に一護はトンと右手で触れてから、一度深く息を吐いて、斬月を手に持つ。

「さっさと終わらせるぞ」
「舐めたこと言ってんじゃねーよ」
「 卍 解 !」
「軋れ。豹王!!!」
「月牙天衝!!!」
 一護が繰り出した真っ黒い斬撃を、グリムジョーは軽々と避ける。そのまま一護のすぐ目の前に現れて、鋭く伸びた黒い爪で引き裂かんと腕が迫る。斬月を構えてそれを止め、力を込めて弾き返した。

「さっさと済ませてーなら、斬撃なんかよりいいのがあるんじゃねーか?」
「いいの?」
 体術と虚閃を組み合わせながら、次々と迫ってくるグリムジョーが、イラついた調子で問いかけてくる。

「虚閃見たがってたんだろ?もったいぶらねーで見せてやれ」
「……もったいぶってねーよ」
「そうやって余裕ぶっこいてるとケガするぜ」
 そう言って、グリムジョーは腕を上げ、肘を曲げる。ドッと繰り出したのは、豹駒。

「!!!」
 大きな爆撃を起こす駒が一つ、一勇の方に向かって―――。

「!?」
 一勇は避けようとした。グリムジョーの虚閃を見た時に、一度見ている技だ。苺花のすぐ側に向かってきたから、一勇が思わず前に飛び出した技だ。結局一勇と苺花からギリギリ軌道が逸れて、当たることはなかった。その時よりも、一勇との間に距離がある。だから避けられる。そう確信した。
 でも、一勇が動く前に。

「……!!」
 ドーンと耳を劈くような大きな音が響き、周りの岩々が破片になって飛び散る。

「出せんじゃねーか」
 グリムジョーが嬉しそうに目を細める。
 一護が豹駒に向かって放った、巨大な白い斬撃。月牙天衝と融合した王虚の閃光。
 巨大な虚閃が豹駒を飲み込み軌道を変え、グリムジョーのすぐ脇で爆発した。

「……!!!」
 一勇は声も出さず、目を見開いてその光景を見ていた。

「ケガするだと?」
 仮面なしの半分虚化した姿で、一護は静かに口を開く。

「こっちのセリフだ」
 眉間に皺を寄せて、左右色の違う目がグリムジョーを睨む。

「これ以上は……ケガするのはそっちだぜ」
 グリムジョー、と低い声が硬く響く。
 言外に、一勇に手を出すなと言っているのは明らかだった。

「変わんねぇな」
 フッと口の端だけ上げて、グリムジョーが笑ったその時。

「あら。こんなとこで遊んでたんスね。黒崎サンにグリムジョーさん」
「浦原さん!?」
 場にそぐわない、のんびりとした声が響く。地下の『勉強部屋』の出口。地上と通じる梯子の下に帽子の男が立っていた。

「……厄介なのが出てきやがった」
「グリムジョーさん。忙しいんスから途中でいなくなったりしないで下さいよ」
 グリムジョーは心底嫌そうに、恨めしそうに浦原を見つめる。

「さあ戻りますよ。黒崎サンもどうしたんスかその恰好。クリスマスイブだからッスか?」
「あ、いや…」
「角なんかしまってしまってー。帰りますよー。奥サンがお待ちですよー。一勇クン、尸魂界楽しかったッスか?」
「うん!」
「それは良かった。お母さんが待ってますから帰りましょうね」
 門は片付けちゃいますねーと飄々と告げる。

「一勇、お礼。浦原さんが尸魂界行くの手伝ってくれたから」
「ありがとうございます!」
 一勇のお礼に浦原は、いいえーと笑った。

 梯子を上って、四人で浦原商店に辿り着く。外は日が暮れて、もう薄暗くなっていた。あまり遅くなると織姫が心配する。

「黒崎!続きは次に会った時だ」
「オマエもあきねーな」
「またね!グリムジョー!」
「呼び捨てすんな。黒崎のガキ」
「一勇だよ」
 会った時と同じやり取りをグリムジョーと一勇がしてから、みんなそれぞれ別れた。



***



「おとうさんのセロすごかったね。やっぱりおとうさん強いね!」
「一勇」
 二人で黒崎家へと歩きながら。興奮した様子でそう話す一勇の名を、一護は立ち止まって静かに呼んだ。

「虚閃はやたらに使うもんじゃねーんだ」
「うん」
「だからサンタさん、他のにしてくれって」
「わかった」
 しゃがみこんで、一勇と目線を合わせて。真摯に伝えれば、一勇は素直に頷く。

「ぼく強くなりたい」
 そのまま一護の瞳を真っ直ぐ見つめて、はっきり口にする。

「なんで強くなりたいんだ?」 
「えっと……まけないために?」
「何で負けたくねぇんだ?」
 続けて尋ねられて、一勇は困ったように眉をへの字にした。

「うーん」
「難しいか?」
 考え込む仕草をする一勇に、この話は終わらせようかと一護が思った時。

「だいじだから」
「だいじ?」
 思いがけない返事が返ってきて。聞き返す。

「ぼくだいじなひとがたくさんいて」
 おかあさんもおじいちゃんもゆずおねぇちゃんもかりんおねぇちゃんもチャドくんも石田くんもけーごもみずいろくんもたつきちゃんも、もちろんおとうさんも。

「みんなだいじだから」
 苺花ちゃんもルキアおばちゃんも恋次おじちゃんも白夜おじちゃんも浦原おじちゃんも夜一さんも、ほかにもたくさんみんな。

「みんななくしたくないから」
 一人一人の名前を順番に上げながら、一生懸命言いたいことをまとめようとしているのが伝わる。

「グリムジョーが、オセロをおしえてくれた。しろとくろでたたかうやつ。それで……くわれたらおしまいだっていってた。まけたらくわれる。そういうもんだって」
「……」
「はさまれたら、いろをかえられちゃうんだ。でも、またはさんだらとりかえせる」
 くるっ、と言いながら石をひっくり返す仕草をする一勇。

「グリムジョーつよかった」
「手加減なし、か?」
 苺花とグリムジョーと三人でオセロをする様子を思い浮かべると少し笑える。

「ぼく、もっかいっていったけど、かちたいのはてめーだけじゃねぇんだって。いのちのやりとりはほんらいいっかいだ。まけたらおわりだって」
「……」
「おわりなんていやだよ。だから、」
一度、言葉を区切って。

「ぼくがまもりたい」
 はっきりとそう話す目は、前を見据えていた。

「そうか」
 一護が気付かない所で、一勇は色んな人と会い、色んな経験をして、吸収したり考えたりしているのだと実感する。一勇なりに。一勇の考え方で。そうやって、自分の力で歩み、進んでいくのだと。

「わ!」
 一護は一勇をひょいと抱え上げて、肩に乗せた。最近していなかった肩車。当たり前だが、去年よりも重くなっている。まだ肩車が出来る重さだけれど、すぐに大きくなってしまうのかもしれない。そんなことを思いながら、ゆっくり家へと歩き出す。

「オセロ、かどっことったらいいっておかあさんがおしえてくれた。おかあさんのおにいちゃんにならったって」
「織姫強そうだな」
「うん!おかあさんグリムジョーにかった!」
 一勇は自分のことのように自慢気に、嬉しそうに声のトーンを上げる。

「いしだくんは、かどっことらないってさいしょにやくそくしてもつよいよ」
「石田ともやったのか?」
「うん!」
 最初に白を選び、ボード上の石がほぼ白に染まった向かい側で、石田が眼鏡の真ん中を上げる仕草が一護の頭に浮かんだ。

「どうしたの?」
「石田は得意そうだ」
「おとうさんもしよ!」
「帰って、飯食ってからな」
 一護が言うと同時に、一勇のお腹がきゅるるる〜と鳴る。

「おかあさんおいしいごはんつくってまってるかな?」
「あァ。早く帰んねーとなんかよく分かんねぇもんかけたり混ぜたりするかも」
「ふつうがいちばん!」
「そ。普通が一番」
 黒崎家の料理の合言葉である。

「かくしあじに、あいじょうがいっぱいはいってるからって、ゆずおねぇちゃんがいってた」
「そうだな」
 遊子と夏梨は、おばちゃん呼びに抵抗があったらしく、一勇が喋り始めた頃からお姉ちゃん呼びをさせている。

「サンタさんはしゅんぽできるかな」
「サンタは死神じゃねーぞ。ソリに乗ってただろ?」
「トナカイさんがつかれちゃったらこまるね」
 正確にはあれはトナカイでなくイノシシなのだが。

「クリスマス前に飯いっぱい食ってんじゃねーか?」
 トナカイの心配を始めた一勇の発想を微笑ましく思いながら、クリスマスソングの流れる町を歩く。

「あ!」
「どうした?」
「ゆき!」
 丁度一勇の目の前。一護の髪の上に、真っ白い雪がちらちらと舞い落ちてきた。

「おとうさんのかみについた」
「結構降り出したな」
 一勇の声を皮切りに、辺りに雪が舞い始める。周りの人々も、掌に乗せたり、空を見上げたり、コートのポケットに手を入れて身を縮めたり。雪の存在に気付いたようだった。

「つもる〜?」
「朝まで降ったら積もるかもなー」
「そしたら、ゆきだるまつくってゆきがっせんだね。おかあさんとぼくたいおとうさん!」
「そこは固定なのか」
 一勇のチーム分けだと必ず織姫が一勇側につくので、一護はつい笑ってしまった。

 また目の前にひらひらと舞い落ちてきた雪を、一勇は両手で掬うように受け止める。
 小さな小さな雪の結晶が、一勇の手のあたたかさでゆっくりじんわりと溶けていった。






*****
一勇くんの願いごとを叶えるために奮闘するサンタさん達です。
思い付いたままに色々好き勝手書いてます。本当自由です。すみません。一勇くんとか苺花ちゃんとか阿散井家とかグリムジョーとか一織とか好き放題書いてます。クリスマスなのに結構戦いとかまでしてます。好きな要素詰め込んだので、書いててメチャクチャ楽しかったです。
グリムジョー戦が、もう何度読み直したか分からないくらい好きです。
とにかくみんなが楽しくクリスマスを過ごしてればなって思います!
メリークリスマス〜!!







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