sweet bath time | ナノ


「広いねー!」
「お〜」
「二人で入ってもこーんなに余裕があるね!」
「だな〜」
 黒崎くんは浴槽のふちに両手を乗せて、ぐで〜っと気持ちよさそうに浸かってる。
 あたしは黒崎くんの反対側に座って、浴室内を見回した。昨日よりもゆっくり眺めてみると、やっぱり広くてスイートって感じのバスルームだった。
 二人で入っても、全然余裕がある広いバスタブ。当たり前だけど、マンションやアパートのとは全然違う。床に使用されてるのは大理石?天然もの?見てるだけで高級気分が味わえる。上を裸足でぺたぺた歩くのが、なんだか申し訳ない。洗面所との仕切りがガラス張りだから、ガラスの向こうに鏡が見えた。全身鏡。
 目に入った途端、昨日のことを思い出して。顔がボッと熱くなる。全身の血が沸騰しそう。

「どうした?」
「な、何でもないよ!!」
 赤い顔を見られないように、あたしは黒崎くんの前に行って後ろを向く。自然と手がお腹に回ってきたから、身を預けるみたいに背凭れた。

「そういえば一緒に温泉とか行ったことないね」
「そうだな」
 学生時代はお勉強とかバイトとか実習とか、黒崎くんは死神代行もだからとっても忙しそうだった。社会人になってからもお仕事で忙しくて、なかなか旅行とか行けてない。今度の新婚旅行が初めてだから、やっぱりすごく楽しみです。

「温泉自体、数えるほどしか入ったことねーからな」
「温泉好きじゃない?」
「そんなことねーよ。疲れとれるし」
 特殊な温泉ばっか入ってたけど、って。

「特殊?」
「俺、尸魂界で入ったのが温泉初めてだった」
「尸魂界で?」
 黒崎くんは、あァって頷く。どんな温泉だったんだろう。尸魂界の温泉…いつ入ったのかな?あたしは入ったことがない。

「特殊って、薬湯とかハーブとかお花とかワインとか…?」
「そんないいもんじゃねーよ。いや効能は異常にいいんだけど」
「あたしも入りたかったな〜」
 想像して呟くと、やめとけって返ってきた。

「白骨地獄とか血の池地獄とか書いてあったし…グツグツいってたし」
「なんか黒崎くん…色んな経験してるね〜」
 しみじみ返すと、ハハって黒崎くんが苦笑する声がする。黒崎くんの話す温泉にすごく興味が湧いた。

「地獄温泉ってあるよね!あと炭酸のラムネ温泉とか聞いたことある!」
 へ〜って返事をしながら、あたしの肩に顎を乗せてくる。

「ラムネ温泉はお肌にプツプツって泡がついたりして面白いらしいよ」
 何かの雑誌で読んだ気がする。弱酸性でお肌すべすべになるって。

「行くならどこがいい?」
「温泉?」
「うん。温泉観光地!」
 そうだな〜って声が耳元で響く。眉間に皺を寄せて考えている顔が頭に浮かぶ。見えなくても。

「海の近くとかよく聞くよね」
「温泉多いのか?」
「詳しくないけど……美味しい海の幸が食べれそう!」
 そっちか、って笑う声がする。

「海鮮丼に熱々のチーズとバター乗っけたら美味しいんじゃないかな?考えただけで頬っぺた落っこちそうだね」
「俺は食わねーからな」
 うへぇって、勘弁してくれって言いそうな声がして。あたしが黒崎くんに手作り熱々海鮮丼を披露する機会はお蔵入りになった。

「水族館とかあるかな?クジラとかイルカとか見てみたいな」
「温泉あるとこにクジラとかイルカはいねーだろ」
「そうかな?やっぱ見れないのかな〜?」
 少し残念に思いながら、水面で両手をパシャパシャさせていると、ちょっと悪戯を思い付いた。

「ぶくぶくぶくぶく〜……とりゃ!クジラ!」
「うぉ!?」
 湯船の中で両手を組んでから、いきなり水面に出して背後の黒崎くんに水鉄砲をした。初めて一緒にお風呂に入った時に、黒崎くんに教えてもらった両手でできる水鉄砲。あたしはなかなか狙い通りに水が飛ばないけど、黒崎くんは上手。
 黒崎くんの顔にお湯が直撃したみたいで、片手で顔の水を掃う気配がする。

「さすが黒崎くん!魚にかけた『うお』ですか?」
「違う。つーか、クジラは魚類じゃなくて哺乳類だろ」
「ツッコミがそのまんますぎて芸がないですな!」
「悪かったな!」
 手厳しいぞってぶっきらぼうに呟く。

「芸がないのが黒崎くんの売りですから!」
「オマエ元気そうだな!」
「きゃ〜!」
 調子に乗っていたら、肩を掴まれてクルッと回された。正面から一度ギュッと抱きしめられて。少し力を抜いてから、顔を覗きこまれる。

「……のぼせちゃうよ?」
「……うん」
 茶色の瞳と至近距離で見つめ合うと、やっぱりドキドキする。心臓が、早くなる。
 あのね。ホントはもちろん気付いてた。黒崎くんの手が話してる途中からお腹じゃなくて上にきてたこと。ふにふにって、ずっとちょっとアヤシイ動きしてたこと。
 でもね。話したいこともたくさんあって、気付かないフリをしてた。もちろんイヤなわけじゃないよ。あたしは頭の中ふにゃんとなってきてて。でもね。そういう流れになったら、途中で話中断しちゃうし……もったいない気もして。でも結局、顔を見たら、やっぱり話すのは後でいっかって思っちゃう。これからも、時間はたくさんあるんだから。
 目を瞑ったら、キスされた。
 お湯の蒸気であたたかい浴室内。
 ぽーっとする。
 空気を求めて口を開いたら、見逃さないみたいに舌が入ってきた。焦らすようにあたしの舌先に触れたり、ゆっくり歯列をなぞったり。
 
「ふ…ぁ…んっ……」
 翻弄される。
 ちょっとだけ目を開いたら、あたしの顔を見つめるブラウンの瞳と目が合った。心臓が跳ねる。いつまで経っても、真っ直ぐ目が合うとドキドキする。
 いつになったら慣れるのかな?一生慣れなかったりして。そんなことないかな?平気になるかな?自信ないな〜。おじいちゃんとおばあちゃんになってたりして。
 オレンジの髪が白く染まるか、髪がちょっと少なくなるか……両方の黒崎くんを想像して、あたしはちょっと吹き出しそうになった。

「何笑ってんだ」
 必死に堪えたけど、堪え切れてなかったんだと思う。話すと息が触れ合う距離で、黒崎くんがちょっと不機嫌そうな顔して聞いてくる。

「あのね」
 あたしは黒崎くんの頬に両手で触れた。

「黒崎くんはどんなおじいちゃんになるのかなって」
「いきなりジジイかよ」
「ちょっと想像しちゃって」
「ハゲるかもな」
 最近ヒゲ親父が頭皮気にしてるからな、って前髪の生え際と旋毛を触りながら心配そうに言う。
 ハゲちゃった黒崎くんを想像してみると面白い。でも、それでもやっぱりかっこいいんだろうなって思った。絶対。へへへ。

「楽しそうだな」
「うん」
 ニヤニヤしちゃうあたしに黒崎くんは不満顔で。

「そん時はオマエも歳とってんだぞ」
「うん」
 言い返すみたいな黒崎くんに、緩んだ顔で返事する。黒崎くんは小さく溜息をついて、あたしの顔を見つめてきた。

「井上は歳とってもあんま変わらなさそうだな」
「え!?それはどういう……」
「今みたいに色々考えて笑ってそう」
 あ、もうこれが癖になってるってバレちゃってる?そうです。あたしはずっと、黒崎くんのことを考えちゃってます。
 そう思いながら、髪の毛の薄くなった黒崎くんの隣で、おばあちゃんになったあたしが笑ってるところを思い浮かべてしまった。

「……」
「どうした?」
 黙り込んでいたら、不思議そうな黒崎くんの声。

「……幸せだな〜って」
「オマエまた…」
 昨日も何度も口にしてたから、呆れ顔で笑われた。でもね、その呆れ顔の目が穏やかで優しいから。ついつい何度も繰り返してしまう。

「ずっと幸せでいたいな」
 そして。
 やっぱり一番は、黒崎くん……一護くんに幸せになってほしい。

「あたし一生懸けて、一護くんを幸せにするからね!」
 全力で頑張るよ!

「それ俺の台詞だろ!」
 居た堪れないみたいに眉間に皺を寄せて、ちょっと赤くなりながら。
 煙水晶みたいな茶色の瞳が、甘やかに揺れる。

 ちょっとはげちゃったり、皺ができちゃったり、人並みに歳を重ねても。
 きっとその宝石みたいな瞳は変わらないんだろうなって思った。
 年々深みを増すその瞳に、あたしはどんな風に映るんだろう。
 いつかおばあちゃんになったあたしも、映してくれる?

 今の瞳に映るあたしは、幸せそうに笑ってる。

 きっと一護くんの隣なら、おばあちゃんのあたしも同じように笑う。

 だから同じように、優しくその瞳に映してね。






*****
「Life of〜」シリーズの翌朝です。
一護sideとか結構シリアス気味になってしまったので、甘くて幸せなのを書きたくなって書いちゃいました。
蕁麻疹出そうなくらい甘いの大好きですv笑
調子に乗って、これ、これから一護さん支払い多分ローンで大変なんじゃ……って部屋にしてみました。考えるだけならタダだから!笑

こないだ宝石の本を読む機会があって、勝手に、一護の瞳は煙水晶から歳と共にトルマリンになっていくイメージを持ちました。勝手にですが。笑
ドラバイトトルマリンの色で。もちろん琥珀も一護っぽいなって思います。
因みに織姫の瞳はヘマタイトやラブラドライトのイメージです。

すみません。記憶あやふやですが、一応石言葉が、

煙水晶(スモーキークォーツ)…不屈の精神・責任感
トルマリン…健やかな愛・落ち着き・開眼
ヘマタイト…身代わり・生命力・秘めた思い
ラブラドライト…思慕・調和・記憶

のイメージです。
違ったらごめんなさい!





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