たまには、こんな | ナノ




「ちゃんと肩まで浸かって100数えろよー」
「はーい!」
 元気よく返事をして、プウと頬っぺたを膨らませてから、ジャポンと頭から湯に浸かる一勇。大きく息を吸い込んで水中に消えた息子に、一護は慌てた。

「バカ!肩までだ!肩まで!」
「ぷはー!」
 一勇の両脇を掴んで湯船から持ち上げる。当の本人はいきなり持ち上げられたことを楽しんでいる様子だ。

「僕、50くらいならできる気がする」
「しなくていい」
 キラキラした目で言うから、やるならプールでな、とビショビショの頭を撫でてやる。

「昨日はお母さんと入ったんだろ?怒られなかったのか?」
「おかあさんと入る時はドレミの歌を考えるの!」
 昨日は仕事が遅くなって、一護が帰ってきた時には二人は入浴を済ませていた。

「ど〜は、どきど◯キャ〜ンプ〜のど〜。れ〜は、レ○ンティーのれ〜」
「誰だ?そいつ」
「あべちゃんせんせい!」
「……テレビか?」
 うん!と大きく頷く。
 撮り溜めたお笑い番組を、織姫と二人でころころけらけら笑いながら見ている様子が頭に浮かんだ。最近は一護よりも一勇の方がお笑い芸人に詳しい。
 昨日二人で考えた歌を披露して、上機嫌なまま今度はちゃんと肩まで浸かって数を数える。
 湯船から上がってもホカホカと全身少し赤くなった一勇を、タオルでザッと拭いてやった。

「織姫ー」
「はーい」
 脱衣所へのドアを開けて呼べば、バスタオルを広げた織姫がやってくる。
 一勇は織姫の持ったバスタオルにクルンと包まった。

「ちゃんと温もった?」
「うん!」
 笑顔で二人がやり取りする。

「逆にのぼせてねぇか心配なくらいだ。潜り込んでたからな」
「またやったの?」
 ダメでしょ、と一勇の体を拭きながら嗜めた。
 一勇はあまり懲りていない様子で、えへへと笑って部屋の方へと駆け出す。

「あ、待って!すっぽんぽん!」
 織姫が追いかけるのを横目に、一護はもう一度ゆっくり浸かるかと湯船へ戻った。



「かずくん、髪乾かさないと風邪ひいちゃう」
「ブォーってワーワーいう」
「一番小さいのにするから」
「やだ」
「か〜ず〜い〜」
 濡れた髪の毛をタオルでワシャワシャと拭きながら部屋に戻ってくると、二人のそんな攻防戦が繰り広げられていた。パジャマは着ているけれど、濡れた髪はそのままで駆け回る一勇とドライヤー片手に困った表情を浮かべる織姫。

「あんまお母さん困らせんなよ」
 丁度一護の足下へと向かってきた息子を、ヒョイと抱え上げる。

「おとーさん!」
 捕まってしまったことと、抱え上げられたことに対する悔しさ半分嬉しさ半分な声を上げる一勇を、問答無用で座っている織姫の膝に下ろした。
 一度、ギュッと織姫に抱きしめられて。それで一勇は逃げられないと察したらしい。大人しくなった。

「すぐ終わる?」
「ジッとしてたらすぐだよ」
「ど〜はどきど○キャンプのど〜!」
 一勇はドライヤーの音を掻き消すような大きな声で歌を歌い始めた。
 歌い終わる頃には、一勇の短くて柔らかい髪は乾いてしまう。

「はい!すぐだった」
 織姫がポンと一勇の肩を叩くと、一勇は嬉しそうに笑った。
 それから一護の髪にジッと目をやる。

「おとうさんは?」
「え?」
 自分に振られるとは思っていなかった。

「お父さんは短いから、」
 首にかけていたタオルでもう一度無造作に髪を拭く。

「はい、おとうさんの番」
 トントン、と織姫の膝を叩く。

「はぁ?」
 思いがけない一勇の行動に、素っ頓狂な声を上げる。

「ブォーっていうからこわい?」
 一勇は確認するように問い掛けた。
 織姫に助けを求めるつもりで視線をやれば、愉快そうに吹き出すのを堪えていた。

「風邪ひいちゃうよ?」
 急かすように、一護の右手を引っ張って、ドライヤーを持った織姫の前へと連れて来る。そのまま両手を引っ張って、座るように促した。
 拒否もできなくて、一護は織姫に背を向けて胡座をかく。
 膝の上には一勇が同じように背を向けて座ってきた。

「自分でやる」
 座ったはいいけれど何だか気恥ずかしくて、振り返って織姫からドライヤーを受け取ろうとする。

「おかあさんの手、やさしいよ」
 一勇が笑ったかと思えば、音はヤだけど、とすこーし眉間に皺を寄せて振り返る。
 息子のその眉間を、トンと人差し指で押した。

「知ってる」
 結局、一勇の言葉で抵抗するのをやめた。

「じゃあ……頼む」
 少し俯いて頭を預ける。目の前の一勇の髪を手櫛で梳いた。フワフワしていて気持ちいい。

「お疲れ様です」
 観念したような仕草の一護に、膝立ちになった織姫は楽しそうに笑って、ドライヤーをオンにした。
 弱風でゆっくり織姫の手が髪を梳く。
 あたたかくて、心地いい。

 きっとすぐに乾いてしまうけれど。
 妙なくすぐったさは消えない。

 結婚前に、一度胡桃色の長い髪を乾かしたら、喜んでいたのを思い出した。
 『嫌じゃねぇのか?』と聞いたら『人それぞれだろうけど……あたしは嬉しいよ。黒崎くんにしてもらうの』とふんわり笑った。
 不器用なりに精一杯丁寧に扱うのが、新鮮だったのかもしれない。
 織姫が風呂から上がったら、彼女の長い髪もゆっくり乾かしてやろうかと、そんなことを思った。





*****
黒崎家の普通な日常を捏造妄想です。短いです。
零番隊のリーゼントさんと一護の温泉でのやりとりが好きで(笑)
うちは30までだったんですが100までが定番ですか?

一勇くんの呼び方が分からないので、無難におとうさん、おかあさんにしてみました。
なんか違和感とかあったらすみません。

こんな妄想ばっかしてます。
一護は織姫と一勇くんに振り回されつつ、それが幸せだったらいいなって思います。








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