☆ Sweet Christmas ☆ | ナノ





「何処行ったんだろ…?」
先程から姿の見えなくなってしまった彼を探すゆや。

人込みをあまり好まない人なので、いなくなってしまった理由は分かる。

此処は人が多すぎるのだ。

皆着飾ってわいわいと騒いでいる。

学校行事の一環なので、仕方なく出てきたようだが…。(校長に無理矢理…)
少し目を離した隙に何処かへ消えてしまった。

校内を一通り探したのだが、見当たらない。
一人で探しているうちにだんだん惨めになってきた。

クリスマス用に彩られた飾り付け。
外庭の木々には綺麗なイルミネーション。
昇降口でクリスマスツリーを見た時には、何で私は一人でこんなことしてるの!?と呟いてしまった。


それでも、やっぱり探すのは…。


「あ、屋上!!」
探し忘れていた。
この寒さなので、まさか居ないと思ったが…残るはそこしかない。
屋上に続く階段を、少し駆け足で上った。



***



満天の星空を見上げながら煙草を吹かす。

元々お祭り騒ぎの好きな連中だから、下では、生徒も教師も関係なく、年に一度のイベントを満喫している。
私立の学校なので、こういうイベント事には毎回学校をあげて凄い盛り上がりを見せるのだ。

そんなことを改めて思った。

別にその盛り上がりが嫌いなわけではない。

…嫌いなわけではないのだが、キリストだか何だか…会ったこともない奴の誕生日を何でこんなに盛大に祝わなくてはならないのか、と思った。


「……」
冬の屋上は寒さが厳しい。
煙草を吸わなくとも、吐く息は白い。

下の様子はどうなっているだろうか?

そう思って、そろそろ戻ろうかと煙草を踏み消した時だった。

「狂!!」
聞き慣れた高い声に名を呼ばれ、振り向く。

「もぉ…探したじゃない」
言って、彼女はつかつかと隣に歩んでくる。

「……」

「また煙草吸ってたの?先生にバレたら怒られるわよ…」
此処学校なんだからねっ、と続けた。

「…此処まで来ねぇだろ」
静かに反論する。

「まぁね。先生達も皆楽しんでるもんね…」
目線を合わせず、夜空を見上げながら少女は応えた。


***

「やっぱり…ホワイトクリスマスは無理…ね…」
突然、残念そうに呟く。

晴れ渡った空。輝く星達。
この調子では…雪なんて絶対に期待出来ない。

「……」
やたら空を気にするな、と思えば、そんなことを考えていたのか。

「結構楽しみだったのに…」
言って星空から目をそらした。

「…くだらねぇ」
嘲笑うように言う。

「悪かったわね。くだらなくて!!」
いつもの膨れっ面。


何故そんなに雪が楽しみなのか分からなかった。
冬は空気が澄み切っている。
他の季節よりもはっきりと星が見える。
だが、雪が降れば、空は雲で覆われてしまう。
クリスマスに星を見るのもいいじゃないか。

「星じゃ不満かよ」
「そいいうわけじゃないけど…」
校庭の木々にも光るイルミネーション。
それを見つめながら少女は応える。
「折角イルミネーションもあるんだし…」
空を見てばかりでは勿体ない。
自分の周りに…すぐ傍に、輝くモノはあるのだ。
雪が降ったらソレに気付いてくれるような気がした。
気付いて一緒に見てくれたら…。

そう思ったから、だ。

だが、言いたいことが上手く言葉に出来ない。



上手い言葉を探しながら、凍てついた両手を自分の口元に寄せる。
「寒っ…」
一言呟いてハァ、と息を吹き掛けた。

漢はその時初めて気付く。

彼女はかなりの薄着だ。
クリスマスだがら粧しこむのは分かるが…この格好でこんな所に来たら寒いとかいう問題ではない。

何やってるんだ、と思いながら…。
「オイ」
「え?」
突然両腕を掴まれ、驚きの声を上げる。
そのまま少女は彼の胸へ。
「…!?」
青白くなりかけていた頬が、ほんのり紅に染まる。
「な、何…?」
「寒ぃんだろ?」
漢は少女の手を掴んだまま自分の口元に持っていく。
「…っ」
かじかんだ白い手に艶っぽく口付けた。
少女の顔は茹でダコのように真っ赤。
その反応が面白くて、口角を吊り上げる。
「ちょっと…」
少女は漢を上目遣いで睨んだ。
「あぁ?」
「放してよ…」
躊躇いがちに訴える。
だが、
「嬉しいくせに」
返ってくるのは余裕の笑み。
「う、自惚れるな!」
「…自惚れるな?」
「……」
少女は口を引き結ぶ。
「じゃあ、何しに此処に来たんだ?」
「……」
彼女は質問に答えず、黙ってしまった。

少女が何故此処に来たか…
本当は予想はついている。

「オレに言いたいことがあるんだろ」
「……」
少女の表情がピクリ、と動く。

楽しくてしょうがない。

ついからかいたくなる。

漢は相手にバレないように喉奥で笑いを堪えた。


「バカ…」
強がりから出た罵りの一言。
漢は何食わぬ顔。
言いたいことが分かってるくせに、聞いてくる。

悔しい。

でも…

年に一度のこの日くらい…

世界中の恋人達が祝うこの日くらい…

素直に…

「…き…」
「あ?」
聞き取れないほど小さな声。
「…好き!!」
言って彼の首に手を回し、勢い良く抱きつく。
言うまでもなく照れ隠しだ。
一瞬よろめきはしたが、漢が倒れる事はない。
満足気に笑い、少女の細腰に手を添える。

「オレも…」
金糸のような髪に触れ、耳元で低い声が囁く。


自分のすぐ傍で輝くモノにはとっくに気付いている。

何よりも…誰よりも大事な者だ。


***

「では、いきますよ〜」
グラウンドに集まり、校舎のライトアップを今か今かと待ち構える生徒達。
彼らを静める校長の声が明るく響く。

学園のクリスマスイベントの締め括り。

「メリークリスマス!!」

校長の声と同時に、校舎の壁に張り巡らした大きなツリー型のイルミネーションが照らしだされた。


…その天辺で、キスする男女がいたとかいなかったとか…。





*****
校舎に大きなツリーのイルミネーション…ってネタが使いたくて書き出したクリスマス小説。何故かこんなものに…orz
私が季節ネタとか書くとどうしても乙女ゆや子のバカップル少女漫画にナッテシマウ…涙
そういえば、以前相模サンに言われました。私の書く小説は空気が甘い、って。そうかも…汗。アハハ。




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