プラネタリウム | ナノ
気が付けばもう夕空。月まで顔を出している。
少し前までキャッキャと、近くで遊んでいた子供達の声はもう聞こえない。
辺り一面を紅の世界に変える夕日が好きだった。
何時間でも見ていられそうな気がした。
だが、夕日は一時間もしないうちに沈んでしまう。
そんな儚いところも好きだった…。
でも…
(今夜は綺麗な星空が見れそう…)
そんなことを思い、また夕飯の支度に戻った。
【プラネタリウム】
「遅い…」
なかなか帰らない漢を、冷めていく夕食を見ながら待つ。
(帰ってきても、折角買ったお酒はお預けね…)
先刻、夕飯の材料を買いに行った時、酒が安売りしていたのだ。もちろん、ここぞとばかりにまとめ買いした。
だが、こんなに待たせるのなら今夜は飲ませない。…精一杯の仕返しだ。
「……」
特にやることもなく暇である。
ふと、先程の夕空を思い出し、縁側に出て空を見つめることにした。
「寒っ…!!」
昼間はあまり気にならなかったが、夜になると寒さが身に凍みる。
冬が近いんだな、と改めて感じた。
縁側に座り込むと、数えきれない星空。
自分が凄くちっぽけな存在だと思い知らされる。
そして…
(この星の中に…いるのかしら?)
『今度は…星になって見とくから。ずっと…』
三人で旅をしたり…出来ないの!?と泣きながら詰め寄った少女に、困ったような笑顔でそう返した。
「……」
今でも鮮明に思い出せる。
『ゆやさんの幸せを心から祈ってる』
最後に聞いた言葉。
出逢った頃と同じ、どこか儚い笑顔。
それから彼がどうなったのか…
彼らがどう決着をつけたのかは知らない。
自分から聞いたりもしない。
否、聞けない。
恐くて、ずっと聞けない。
聞いてどうするというのか。
自分は彼に応えられなかったのだから。
それでも…
願うくらいなら…
(いつか…いつか逢えますように…)
きっと…
その時は、三人で…
「…オイ」
部屋の入り口から響いた低い声。
「!?」
回想に耽っていたゆやは一気に現実に引き戻される。
「あ、おかえり…」
言って部屋の中へ戻ろうと、立ち上がった。
だが、漢の方が此方に歩いてきたので、またその場に座り込む。
「……」
漢は、何やってたんだ、と視線で問う。
「星が…綺麗だったから…」
「……」
少女の言葉を聞くと、彼も無言で空を見上げた。
そして…
「…酒」
言って隣に胡坐をかく。
「は?」
「酒」
持って来い、と顎で部屋の方をさす。
「な!?」
自分勝手な態度にカチンときた。
「アンタ何様!?」
少女の問いに漢は自信満々で一言。
「オレ様」
「はぁ!?」
「…つべこべ言ってねぇでさっさと取って来い」
まだ何か言い返そうてする少女に、有無を言わせなかった。
「自己中!アル中!!」
口を尖らせて文句を言いながらも、少女は酒を取りに行く。
彼女の頭の中には、先程の仕返しのコトなど、浮かんでこなかった。
「……」
静かな縁側に残った漢は、何気なく思いを巡らせる。
少女が座って星を見ているのに気付いた時。
…泣いているのかと思った。
だか、彼女は泣いてはいなかった。
何を…
誰のことを考えているのかは思ったとおりだったようだが。
もどかしい思いを打ち消そうと、軽く頭を振る。
だが、そんな行動では何も変わらない。
おそらく…今夜の酒は、不味くなるだろう。
「……」
物音一つ聞こえない空間で、漢は一人星空を睨んだ。
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サイトでやった歌リク。大塚愛のプラネタリウム。
狂ゆや→京とのリクでしたが、ゆやが二股チックなのはイヤだったのでこんな感じに。
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