いつか | ナノ
朔の夜。月が出ない暗い空。
啄むような口付けを繰り返す目の前の彼は、常とは違い、そんな夜闇に隠れるような漆黒の髪と瞳を持っている。
「犬夜叉……」
先程、時々自分が「もっと」と発していることを暴露されたかごめは、自分も今まで気付なかった彼の様子を一つでも知りたいと思った。
だから今夜は、溺れてわけが分からなくなってしまう前に、自分が主導権を握りたい。握れるならば。
思い切って、普段彼の牙がある位置に舌を捩じ込んでみる。いつもされていることを真似ればいいのだ。出来るはずだ。
「!?」
「っ…」
一瞬驚いて、彼が動きを止めた。よし。拙い動きでも、お互いの唾液を混ぜ合わせながらでも、かごめにだってキスくらい出来る。
「かご……」
「ん、」
軽く吸い付いた。それを合図と受け取ったのか。
「きゃっぁ!!」
「っ……すんなり入った」
突然腰を掴んで、突き上げてくる。
「っいき、なり……!!」
「欲しかったんじゃねぇのか?」
「ち、!」
「違うのか?」
「……」
違わない。かごめが彼を待っていたのは間違いない。けど、そうじゃない。急かしたわけじゃない。求めていたことに違いはないけれど……。
「ぁ……っ……!」
犬夜叉がゆっくり動き始める。これではいつもとあまり変わらない。このままでは、勢いをつけたり体位を変えたりしながら、かごめはいつものように彼のペースに流されてしまう。
「ま、待って!」
「ん?」
がっちりしがみついて止める。怪訝そうな顔をして犬夜叉は動きを止めた。
「これじゃ、いつもと……おんなじ、だから……」
「……不満か?」
今日は私が、と言う前に問い掛けられた。
かごめの返事を待たず、犬夜叉はかごめを抱えるように向かい合って座り込んだ。
「やぁ…んっ!!」
「っ……!」
重力に逆らえないから、奥深くに当たる。かごめの下腹部が切なく収縮した。呼応するように犬夜叉が息を飲んで眉根を寄せたことに気付く。
「あ、」
「なん、だよ」
「なんか……苦しそうだから……」
何かを堪えるように固くなった彼の表情が不安を誘った。
「……かごめが悪いわけじゃねぇ。お前のせいだけど」
「?」
言っている意味が分からない。
「締めすぎ」
「!?」
「いいか?お前は悪くねぇぞ!むしろ、良すぎて……」
「ぁぁぁ!それ以上言わないで!!」
声にならない声で叫びそうになりながら、犬夜叉の口を両手で抑える。そういうことを言われると、恥ずかしくて死にそうになる。
「むぐむ」
犬夜叉は今度こそいつもの表情で、眉間に皺を寄せている。
「無理!無理だから!」
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、彼の肩に顔を隠す。
「むぐむむぅむ」
「え?ひゃ…ゃあっ!!」
いきなり腰を動かされ、身体の奥から全身へ甘い刺激が響き渡った。
バランスを崩して倒れかけたので、必死に背中にしがみつく。すると、見かけよりも筋肉質な腕にしっかりと抱きしめられた。
「おれがかごめを落とすわけねぇだろ」
例え布団の上にでも。口元を覆っていたかごめの手が取れたので、はっきりとそう告げる。
「……ば、」
「ん?」
「ばか」
小さく呟いたかごめの顔を犬夜叉は覗き込む。かごめは黙ってしがみつき、顔を見られまいと必死に横を向く。
でもきっと気付かれた。彼の言葉、声に反応してキュンと締まったって。それを自覚して顔が真っ赤だって。
「かごめ……」
吐息のように耳元で囁く。
「こっち向けよ」
「……」
かごめばかり動じていて悔しい。なんか無性に悔しい。いつもは犬夜叉があんなに余裕ないのに。
「あんた、今日はホント意地悪」
犬夜叉のエッチ、と心の中で毒付いた。
「……」
犬夜叉が真面目な顔をして考え込む。確かこれは……何か言いたいけど言えない顔だ。
「どうしたの?」
「……かごめが悪い」
「あたし?」
真顔で言われるとムッとする。
「あたしのせい?」
「かごめが悪い」
二度目。しかもこの状況で。お互い裸で。繋がたままで。喧嘩越し?
「何が?どこが?」
「……」
犬夜叉は答えない。
「何よ。言えないの?」
そんなのただの八つ当たりじゃない。かごめも臨戦態勢に入ろうとした時。
「……とにかくお前が悪い!」
「ぁっ……やっ!」
開き直ったようにまた動き出すから、かごめはどうしても声が出る。
「んな声出すだろ」
「だって…犬、夜叉が……」
「途切れ途切れに、名前呼ぶだろ」
甘い嬌声が抑えきれない。話す余裕が無くなっていく。
「ぁ…あっ…」
律動に合わせて声が漏れる。愛される悦びを知った身体が勝手に……。
「腰、動いてる」
「犬、夜叉…!!」
「こっちも立ってる」
「やっ……ぁ!」
揺れる胸の頂きを甘噛みする。
「見たくなる」
「え?」
翻弄されながら、必死で彼の言葉に耳を傾ける。
「かごめだから、見たくなる」
聞き逃したくなかった。
「かごめとだから見たくなる」
滅多に甘い言葉なんて囁いてくれないから。それが甘いかどうかは分からなくても。
「もっと、の先が、」
「さ、…っ…ぁ…!!」
聞き返そうとしたところで、一際深く突き上げられて、限界が近づく。
「い、…ぁあっ!!」
「かごっ……!!」
お互い呼ぼうとした名前は最後まで紡げず、同時に果てた。
***
「先ってなぁに?」
「……先?」
「さっき言ったじゃない」
「あぁ」
心地よい気怠さに微睡んでいた犬夜叉は、月に一度しか見れない彼の耳朶を弄ぶかごめに尋ねられた。
「何?」
「……何でもねぇ」
「気になる」
「……」
かごめは妙に頑固な時がある。これまでだって、かごめの「だってほっとけないじゃない」に何度付き合わされたことか。
「何だと思う?」
「え?」
かごめは驚いた表情を浮かべる。その反応が犬夜叉には驚きだった。
「何だよ」
「だって……珍しい」
「?」
「犬夜叉が自分の思いを当てさせようとするなんて」
そうだろうか。
「えっと……」
かごめは真剣に考え込む。
「先……?未来?」
その様子を窺いながら、そっと彼女の腹部に手を寄せる。
いつか言えるだろうか。
同じ思いだと、笑ってくれるだろうか。
『かごめと、家族が欲しい』
まだはっきり口には出せないけれど。
そう遠くない未来。
*****
戦国時代で(予防もできないのに)ヤってるくせに言えねぇのかよ!!てか言ってないのかよ!!ってツッコミは受け付けてます。あぁ、石を…石を投げないで。ノリだけで書きました。いつもそうです。←
「かごめが可愛いから悪い」って、可愛いからって言えないで苦しむ犬夜叉下さい。
最初はただのラブイチャエロだったんですが、音楽ランダムで聴いてたらV6流れてきて、なんか気付いたら後半犬夜叉視点に……。
いつか、かごめは泣きながら笑うんじゃないかな…待ってるんじゃないかな……って思いました。半妖さんは苦労をされているので自分の子どもに関してはちょっと臆病だったり…なイメージがあります。色々敏い嫁だから、旦那のその点に関しては何となく察していて、彼の思いを尊重するのではないかと。
相変わらずの甘すぎベッタベタ犬かごですみません。書いてて恥ずかしいけど楽しいぃぃぃぃいいい!!!(笑)