ずっと好きだった | ナノ
「相変わらず綺麗だな」
口をついて出たのは、そんな言葉だった。
目の前の彼女はまぁ、と少し驚いた顔をして、それから「鋼牙くんも相変わらずね」とその綺麗な表情を愛らしく崩した。
「近い。寄るな」
「テメーも相変わらず余裕ねぇのな」
一瞬でおれとかごめの間に入り込んできた野郎。もう殆ど条件反射だ。巫女装束の彼女を自分の背で隠す。おれの視界にも入れたくねぇってか。どんだけ独占欲強いんだ、おい。
「犬夜叉」
嗜めるような口調だが、どこか声が弾んでいることにおれは気付いている。当たり前だ。ずっと好きだった女だ。
「かごめ。会えてよかった」
今日此処に来たのは偶々だ。偶々通りかかって、偶々忘れられない懐かしい匂いがした。だから、自然と足が彼女に向かった。
「手を握るな!」
こいつの匂いにも勿論気付いていた。
「てめぇもよかったな」
「え?」
犬夜叉が間抜けな声を上げる。
「じゃあな、かごめ!」
一度かごめの顔を目に焼き付けてから、おれは背を向けて走り出した。
「鋼牙くん!ありがとう!私も会えてよかったよ!」
背中から聞こえた声におれは少し頬を緩めた。さて、白角と銀太の匂いは……。
「待てよ、鋼牙」
不意に聞こえた声。走って追いかけてくる。欠片がなくなったから足の早さは同じくらいか。
「何だ犬っころ!かごめを置いてきたのか!?」
「かごめにはちゃんと声掛けた」
「何だよ。てめぇに着いてこられても気持ち悪いだけじゃねぇか」
おれはわざと足を速める。
「い、言い残したことがあっただけだ!」
少し息を上げつつ、犬夜叉は食い下がってきた。
「はぁ?」
いきなり足を止めれば、後ろの奴は「ガッ」と声を上げて側の木にぶつかる。へっ。鈍くせぇ。
「何だよ」
おれは奴が振り替えるのを待った。
「……今ならお前の気持ちも分かる気がする」
おれと向き合ってから、鼻の頭を赤くして告げる。
おれがさっきから胸に抱いている思い。否、ずっと、三年前から変わらない思い。
『かごめが幸せならそれでいい』
お前も、なのか?
「鋼牙、お前の気持ちは無駄にはしねぇ」
それは前にも聞いた。
「……」
無言のおれを窺いつつ、意を決したように口を開く。
「かごめはおれの女だ」
はっきり言えるお前が羨ましかった、と小さく続けた。あーこいつ浮かれてんな。かごめを嫁にして浮かれてる。
「言ってんじゃねーか」
お前時々妙に素直だな、と思ったが言わねぇ。
こいつにかごめが必要なように、かごめにはこいつが必要なんだろ?
「おれはかごめをずっと好きだった!」
大声で言い切る。
「おれも……ずっとかごめが好きだ」
噛み締めるように言い切った奴の顔を、おれはずっと忘れない。
*****
結帆ちゃんリクエストの『ずっと好きだった』。
斉藤和義の『ずっと好きだったんだぜ〜相変わらず綺麗だな〜』が頭から離れなくてこうなりました(笑)
よく分からないのになっちゃって…ごめんね!m(__)m
「かごめはここにいろ」
「え?うん」
ってやり取りも入れたかったけど鋼牙視点じゃ無理なんだよね。