ぱぴこ | ナノ




「なんだ。いねーのか」
 二階の窓が開いていたので、軽い足取りでかごめの部屋へと飛びこんだ。けれど、期待していた本人の姿はない。
 スーっと深呼吸してから、別の部屋に居るかもしれないと思って廊下に出た。
 かごめの実家は至る所に彼女の匂いが漂っていて、いつもより居場所が特定しにくい。

「あ、犬の兄ちゃん来てたんだ。姉ちゃんまだ学校だよ」
「わ!」
 かごめの弟、草太がいきなり横のドアを開けたので、犬夜叉は軽く狼狽した。

「一緒に居間で待ってる?」
 嬉しそうに犬夜叉の衣の裾を引く。肉づきの面の一件があってから、どうやら彼に懐かれているようだ。

「しょうがねぇな」
 あんまり遅くなるようなら迎えに行ってやる、と頭の中で決めた。



「ただいま。アイス買ってきたわよ」
「わーい!おかえりー」
 買い物に行っていたかごめの母が、両手に荷物をぶら下げて帰ってきた。

「はい。犬夜叉くんと半分こしてね」
「はーい!」
 冷気を放つ袋を草太に手渡す。彼は慣れた手つきで袋を開き、出てきた怪しい物体をポキッと半分に折った。そして、犬夜叉に差し出す。

「はい。犬の兄ちゃん。冷たくて美味しいよ」
「なんだー?これは」
 始めてみる茶色の縦長い物体。眉間に皺を寄せて睨んだ。

「パピコ。こうやって食べるの」
 上の方をクイッと千切って口に咥える。そして美味しそうに笑った。

「やってみて」
「……」
 ん、と渡された『ぱぴこ』を凝視する。手に持つと氷のように冷たかった。
 目の前で草太が美味しそうに食べているので、犬夜叉も思い切って上の方を引っ張ってみる。ブチッと音を立てて、草太よりかなり大きめの明け口が出来た。

「兄ちゃんちょっと力強すぎ」
 草太が楽しそうに笑う。

「うるせー」
「吸ったら食べれるから……」
 見よう見まねで、犬夜叉は未知の『ぱぴこ』に挑むこととなった。



 テスト3日前から現代に帰ってちゃんと勉強していたので、今回はなんとか補習の呼び出しもなかった。だから今すごくホッとしている。

(犬夜叉、怒ってるかなー?)
 普通に帰ると言っても、全く聞き耳を持たなかったので、おすわり攻撃で強引に帰ってきた。
 補習の心配がなくなると、私の都合でちょっと可愛そうだったかな?とも思える。少し。

(早めに向こうに戻らなきゃね!)
 そんなことを考えながら、玄関の引き戸を開けた。

「ただいまー」
「あ、姉ちゃんおかえり」
「んぐむ」
 居間に入ったかごめを待ち受けていたのは、予想外な状況だった。犬夜叉は多分かごめ、と呼んだのだろうが言えてない。何より違和感を感じたのは。

「……犬夜叉、何やってんの?」
 彼がパピコを咥えていたことだ。

「一緒に食べようと思ったんだけど……犬の兄ちゃん食べ方下手なの。このままじゃ溶けちゃうよ」
「……なんだよ?」
 草太の説明を聞くかごめを、犬夜叉は気不味い感じで睨んだ。ビニール製のパックに包まれた初めての食べ方に、苦戦しているようだ。

「アンタねぇ……。こうやって底からクルクル畳んでいくと食べやすいでしょ」
 かごめは犬夜叉の咥えるパピコの底を少し強めに押した。

「う"っ…」
 冷たい物体が勢いよく口の中に入ってくる。犬夜叉は一瞬身を引いた。冷たさで頭がキーンとする。

「あ、ごめん。でも美味しいでしょ?」
 最初は吃驚したが、ヒヤッとした甘い氷が徐々に溶けていって……確かに美味しい。
 犬夜叉が小さく感動していると、いつの間にか草太はどこかへ行って、かごめが白いパピコを咥えていた。

「ほら、ね」
目が合った途端、かごめはあたたかい笑顔を浮かべる。

「……」
その顔が妙に眩しくて、犬夜叉は無言で残りのパピコを食べた。
 最近こういうことが多い。かごめの笑顔がしばらく頭から離れない。

「かごめのは色が違うな」
 何故だか緩む思考を元に戻そうと、話題を変えてみる。

「これはホワイトサワー味。犬夜叉のはチョコレートコーヒー味」
 食べてみる?とかごめは自分のパピコをにこやかに差し出した。

(待て。それは今までお前が口に……)
 犬夜叉の顔がカッっと熱くなる。
 動揺を悟られたくなかったのだが、返事を言い淀んでいるうちにかごめが何か察したようだ。

「あ!別に!間接キスとか……!そんなつもりはなかったの!」
「関節きすー?」
 かごめは真っ赤になりながら犬夜叉にはよく分からない言葉を話す。

「ほ、他にも期間限定で抹茶味とかあるのよ!」
 あといちごスムージーとか、りんごヨーグルトとか、など早口で話しているが、犬夜叉の耳にはチンプンカンプンで全然頭に入ってこなかった。



「姉ちゃん、行ってらっしゃい」
「気を付けるんじゃぞ」
 井戸の祠で家族の見送りを受けて、かごめは元気に頷く。

「これ。犬夜叉くんが気に入ったなら、他のお友達のお口にも合うかもしれないから」
 と、かごめの母は白い袋に入ったパピコの箱を手渡す。

「ママ……溶けちゃわない?」
「さっきまでずっと冷凍してたから。きっと大丈夫」
「そう?」
 ママが言うなら大丈夫って思えるから不思議ね、とかごめが小さく呟いたのを犬夜叉は聞き逃さなかった。 

「二人とも行ってらっしゃい」
 母は笑顔でかごめと犬夜叉を見送る。

「いってきまーす!」
 かごめも笑顔で返事をした。犬夜叉は返す言葉が見付からなかったが……かごめが笑顔だったのでつられてつい頬が緩んだ。

「行くぞ」
「うん!」
 二人一緒に井戸へ飛び込む。
 骨喰いの井戸が一瞬光った。

「さて、夜ご飯何にしましょうか?」
「ぼくカレーがいい!」
「いいのう。わしも少し辛いのが食べたい気分じゃ」
 三人はゆっくりと井戸の祠を後にした。



「犬夜叉急いで!」
「わぁってるよ!」
 犬夜叉はかごめを背に乗せ、楓の村まで風を切って走る。
 仲間に渡す前に、『ぱぴこ』が溶けてしまわないように。









*****
七宝ちゃんに食べさせてあげたいと思ったの。(笑)

雷獣兄弟のパピコに影響されました(笑)
日暮家や犬夜叉一行の日常想像すると愛しい。
初期と中期の間くらいのつもりで書きました〜。









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