キスの日 | ナノ
犬夜叉は朔の日に、いつもより少し甘くなる。
甘いっていうか…スキンシップが多くなる。いつもの彼ならちょっと躊躇いそうな時でも、触れてくる。
やっぱり、弱ってる時は甘えたくなるんだ。結構甘えん坊なんだ。
と、勝手に思っていた。
「んっ…ふぅ……」
頭がボーッとする。多分酸素が足りてない。
息を吸おうと隙間をつくったのに、今度は生暖かい舌が絡みついてきた。
「い…ぬや…ひゃ…」
噛みつくように荒々しいと思ったら、焦らすように舌先で触れたり、ゆっくりと歯列をなぞったり。
どこでこんなの覚えたのってくらい強引な動きに翻弄される。
(あれ…?)
後頭部を掴んで引き寄せる腕は、いつもより力強かった。妖力がなくなってるから、腕力はいつもより弱いはずなのに。
……息が出来ない。思考が停止していく。
真っ赤な衣の胸元を掴み、ただ必死に縋りついた。
「…っ…はぁ」
たっぷり堪能され、目一杯に涙が溜まった頃。やっと満足したのか、ゆっくり解放される。
「…い……」
名前を呼んだつもりだが声にはならなかった。ただ肩で大きく息を吸う。
その肩を少し押され、バランスを崩して後ろへ倒れ込んだ。
「…かごめ」
囁きながら覆い被さり、首筋から胸元へと口付けを落とす。
同時に、袴を器用に脱がしていく。
「っ……犬夜叉…なんか…違う…?」
ツツ、と触れる甘い感覚を堪えながら、やっと出た声でいつもと少し違う彼に問い掛ける。
「違うって何だよ」
不機嫌丸出しだけど、視線を合わせて返事を返してくれた。
「だって…なんかいつもと違う?」
「朔の日だからだろ」
長髪も瞳も漆黒で、耳だって私と同じ位置にある。
「それはそうなんだけど……ぁ…」
「言いたいことあるなら聞いてやる」
と、言いつつ袴を脱がす手は止めなかった。
私より一回り大きな手が、一方は胸元をもう一方は露になった内股を控え目に摩る。
「そんな余裕があったらだけどな」
「や…んっ…」
腕を伸ばせば手首を掴まれ、彼の首周りへと導かれた。そのまま私の胸元に顔を埋め、すうっと音を立てて息を吸う。
「かごめの匂いだ」
ゆっくり吐き出して、安堵したように目を閉じる。
そっか、鼻が効かなくなってるんだ 。
いつもある“匂い”が、薄れてるんだ。
すぐ側にいてもやっぱり不安になるよね。
自分の感覚がいつもと違うと。
「犬夜叉……ひぁ!」
それが先程の違和感だと気付くと同時に、何だか愛しく感じて優しく抱き締めたのに。いきなり弱い所を指が攻めてきて、驚きと刺激で裏返った声が出た。
「まっ…て…」
「待てねぇ。言っただろ、余裕があったらなって」
「ぁ…やっ…」
悪戯っぽく笑う顔が無性に憎たらしい。
弱ってるからとか不安だからって感じには見えなくなってきた。
「なんか…楽しそう…っ」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ。もう既に余裕がなくなってきてる。
「そりゃ……まぁ…」
肯定の返事をしながら、犬夜叉が少し照れたのが空気で伝わってきた。だから私は余計に気になった。
「…っ何で?……っうん!」
ねばるな、と呟いて胸の頂を口に含んだ。舌先で弄ばれる。
「…力加減が分かんねぇから」
「…ひゃぁ…ん!!」
小さな囁きと同時に、彼の指が私の中へ入ってきた。熱くて恥ずかしくて思わず声を上げる。
「やっ!」
「ホントにイヤか?」
スッと抜いて、私の顔面に持ってくる。
「分かるだろ?」
「ちょっ!…見せないでよっ!バカ!!」
濡れた指が光っていて、両手で顔を覆って見ないようにする。
「そっちじゃねぇ」
「そっちって何よ…」
煩わしげに犬夜叉が自分の指を舐める。薄目で這う舌が色っぽい。けどもうやだ。恥ずかしくて身体が熱い。
「『爪』も…牙もねぇ」
「え?」
私の鎖骨に軽く噛みついた。当然、牙がないから痛くはない。
そしてまた中に指を入れる。今度は先程よりも深く、味わうように掻き回す。
「や…ぁ…ん……」
「イイって声出てる」
「だって……ぁ…っ!」
自分じゃないみたいな、鼻にかかった声が出る。
「激しくしても傷つけねぇだろ?」
「なっ…!」
「かごめの『もっと』がどれくらいか分かんねぇから」
色々試せるし、と手を止めて告げた一言が引っ掛かった。
「もっと?」
「いつものおれの腕力とか体力だと、おめーぜってぇバテるし」
「え!? もっとなんて私言った!?」
「時々言ってる」
平然と返ってきた声に、全身の血が沸騰しそうなほど真っ赤になる。そんな自覚なかった。
「手加減せずに出来るから…だから嬉しそうだったんだ…」
「何だよ」
「……えっち」
「どっちが」
見慣れた仏頂面が、開き直ったように言い返してくる。
「……うぅ」
恥ずかしくて泣きそう。
涙を堪える私に気付いて、犬夜叉がギョッって効果音を背負ってる。
「な、泣くな!!」
「アンタのせいよ!バカバカバカバカ」
でもやっぱり、傷付けないように気を使ってくれてたのは嬉しい。大事にされてるんだな、って思える。
「おれは…嬉しかった」
今だって…と何か言いかけて止める。
「今だって…何よ…」
上目遣いで睨むと、頬に手が添えられた。あったかい。そのまま顔を預けたくなる。顔だけじゃない。全部。
一度目を瞑る。
開いた時。
交わった目線が優しくて、心臓が高鳴る。
「かごめ」
降参だ。私の名前を呼ぶ声が好きだ。
こんなにこんなに……大好きだ。
恥ずかしいけど…犬夜叉が嬉しかったなら……いっか。
私も頬に手を伸ばせば、待ち構えていたようにキスされた。
そのまま恥ずかしさも忘れるくらい、甘い世界に誘(いざな)われていく。
一緒なら、どんな世界でも。
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キスの日記念に書きました。
朔の日犬かご。
犬かご可愛すぎて死にそう。
アンタせいで…大人の階段上ってるってことだよね。言った本人気付いてなくても相手が気付いてたら最高だなって思いました。イチャイチャ。