そばにいる | ナノ




 肌寒さを感じて目が覚めた。窓が開いているのだろうか?普段の部屋なら感じないような寒さだ。
 布団を掴むが、期待したものより薄っぺらくて頼りない。布団がダメなら、と手の触れる距離にあった温もりに擦り寄る。
 ふわりとあたたかくて、心地よくて。真っ赤な衣と白銀の髪に被われた背中が脳裏に浮かぶ。

「かごめ」
 あどけなさを残す、忘れたことのない声で一気に目が覚めた。
「い、犬夜叉!?」
 思い浮かべた人物が、隣に寝転び頬杖をついている。
「…腹減った」
 気のせいか、仏頂面で訴える彼の頬が少し赤い。
「夢…?」
「あぁ?何寝ぼけてんだ」
 飯にしようぜ、と立ち上がって歩き出す。
 何度もみた夢とは比べ物にならないほど、リアルだ。
 犬夜叉を目で追いながらゆっくり深呼吸してみれば、忘れかけていた…戦国の空気。

(そっか…私……)

 三年ぶりにこの時代に来て。
 犬夜叉にまた会ったんだ。

 募る話もあるでしょうから、ここでは狭いでしょうし…お好きにどうぞ、と弥勒達の家から近い空き家を二人に譲ってくれた。朝餉は用意しておきますので。あ、もちろん摂られないのならば摂られないでも構いません。こちらに気を使わずごゆっくり…と、妙に気を回して貰った。

「ずっと起きてたの?」
「…まぁな」
「なら起こしてくれればよかったのに」
 おめーの寝顔を見てた、なんて言えない。

 あの頃、いつの間にか当たり前になっていたかごめがそばにいるということが…どんなに特別で、どんなに幸せなことなのか、身をもって実感していた。

 最初は、かごめにまた会えたことが嬉しくて。戻ってきてくれたことが嬉しくて。
 今までなにやってたんだ、と口をついて出た。
 少し時間が経つにつれ、かごめの家族や友人のことを考えた。
 この3年間彼女はどんな風に過ごしていたのかと。

 仲間達との再会を笑顔で 喜ぶかごめの少し後ろで、三年間繋がらなかった骨喰いの井戸に意識を向ける。

「……!」
 一瞬、懐かしい匂いがした。
 かごめと似ている。でも桔梗とは違う。
 優しい、匂い。
 その匂いは壁にでも阻まれるように、一瞬でかき消された。

「犬夜叉?」
「……おう」
 呼び掛ける声にゆっくりと歩み寄る。
「どうかした?」
「…なんでもねぇ」
 言って、彼女の髪に顔を寄せる。深く呼吸すると、胸いっぱいに優しい匂いが広がった。

(大切にする)
 物わかりの悪い、おれが。
 かごめを大切に思う誰よりも。何よりも。

 遥か彼方に向けて、そう誓う。

「犬夜叉…子ども達もいるからね」
「気持ちは分からなくもないですが」
 双子に目隠しをしながら、珊瑚と弥勒が諭すように口を開く。
 ふと気付けば、顔と顔が触れ合いそうなほど、かごめとの距離が縮んでいた。
「犬夜叉はかごめに会いたくて会いたくて仕方なかったんじゃ」
 オラには分かっとる、と七宝がしたり顔で言うから気に食わない。
「そんなのこの村の誰もが知ってるよね」
「名物みたいなものでしたからね」
「なっ!てめーら何言ってやがる!」
 仲間の眼差しが生暖かくて居た堪れない。
 拳を握って豪快に怒鳴っていると、衣の裾をクイと小さく引かれた。
「かごめ?」
「ありがとう。待っててくれて」
 真っ直ぐ見つめて、はにかんだように見上げる笑顔。

 ほっとする。
 ひだまりみたいなおれの居場所。

 優しい匂いと温かい笑顔で、淡い切なさは犬夜叉の胸からかき消されていった。





*****
かごめ視点で始めたのに犬夜叉になっちゃった(笑)
かごめが戻ってきた日、犬夜叉はなかなか眠れないと思う。だからもう寝顔ずっとみとけばいいよって思いました。
そんな感じの勢いだけで書いた犬かごです。
犬かご幸せになれー!!





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