両想い | ナノ





好きの限界ってどこなんだろう?

毎日これ以上ないってくらい大好きなのに。

昨日より今日はもっと大好きで。
きっと明日は今日よりもっと好きになる。

先生が私を甘やかすから…私どうなっちゃうんだろう?



【両想い】



食べ終わった二人分の食器を洗おうと、千鶴が椅子を引いて立ち上がった時だった。

「お前が作ったんだから片付けくらいはする」
制止するように、土方が千鶴の分の皿を横から持ち上げた。
思い掛けない申し出に、驚いて返答する。

「いえ!お家にお邪魔させて貰っているのでこれくらいさせて下さい」
それに、と小さく続ける千鶴の表情を土方は黙って見つめていた。

「土方先生お仕事でお疲れですよね。お家に帰られた時くらい休んで下さい」
両手で土方の持つ皿を支えて訴える。

「…千鶴」
「は、はい」
付き合い出してから二人きりの時だけ呼ばれるようになったまだ慣れない響きに、鼓動が少し早まる。
けれど、続いた彼の声は少し硬いものだった。

「お前は俺の何だ?」
「え?」
ガツンと頭を殴られたようだった。
色々あって想いを確認し合った。教師と生徒だけれども、こうして彼の家に来て二人で千鶴の料理を食べるようになった。
けれどもこれは、千鶴の幸せな勘違いだったのだろうか。

「こ、…恋人だと…思っているのですが…」
土方の考えが読めない問い掛けに、不安になりつつ答える。

「そうだ。俺もそう思ってる」
ハッキリとした彼の言葉に小さく息をついて安堵する。

「だからな。家に邪魔する、とかそういった遠慮はいらねぇんだよ。家で休めっていうお前の気遣いは嬉しいが…」
優しく諭すように話しつつ、最後は眉間に皺を寄せる。
折角食事中は穏やかで、笑顔も沢山見せてくれていたのに。
学校での先生モードに入ってしまった。

「もう少しわがまま言ってもいいんじゃねぇか?」
真っ直ぐ千鶴を見つめ、

「年頃の娘なんだし色々あるだろ?学校じゃどうしても普通の恋人同士っぽいことは無理だが、その分プライベートでお前が望むなら何でも叶えてやりたいと思ってる」
口調はお説教モードだが…学校での土方とは明らかに違った。

「何か俺にして欲しいことがあったら遠慮せずに言うんだぞ。…いや、言ってくれ」
最後は屈んで千鶴の顔を覗き込み、頼むように囁いた。

「わがまま…ですか?」
「そうだ」
言っていることが甘々だ。

「それは…私だけですか?」
「ん?」
「先生は…土方先生も言ってくれますか?」
「あ、あぁ。勿論。ってか結構言ってるだろ」
千鶴の返答が予想外だったようで、意外そうに告げる。

「そうですか?」
「あぁ」
「ふふふ」
「何だ?」
怪訝な顔をする土方には悪いと思いつつ、何だか笑いが込み上げてきてしまった。

「お説教、されてしまいました。あんまりないので…何だか嬉しいです」
沖田を筆頭に千鶴以外の者に説教しているところはよく見かけるが、千鶴がされることはあまりない。もしかしたら初めてかもしれない。

「説教のつもりはねぇ」
困ったように視線を逸らす。

「ふふっ」
その仕草が子供っぽく感じ、何だか可愛いと思ってしまう。

「色んな先生が知れて…嬉しいです」
「……」
もっとたくさん知りたい。

「たくさんわがまま言って下さいね」
菫色の瞳を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。

「なら…」
土方も柔らかく微笑み、それから悪戯を思いついたように口角を上げた。

「その先生ってのを止めてくれ」
「え?」
「千鶴。これから学園以外で土方先生は禁止だ」
「えぇ!?」
突然の恋人のわがままに思考がついていかない。

「どうする?」
「どうすると言われましても…」
こちらの台詞だ。
これから土方を呼ぶ時どうすればいいのか。

「俺は歳三でもトシでも何でも構わねぇが…」
「と!?…と…」
千鶴は顔を真っ赤に染め、両手で顔を覆った。

「呼び捨ては難しいか?トシさん?トシ君?…自分で言っといて慣れねぇな」
照れる千鶴を尻目に、考えながら苦笑する。

「………歳三さん……」
恐る恐る手を口元へと動かしながら、消え入りそうな程小さな声で囁いた。

「…千鶴」
少し涙目で見上げるその瞳に吸い寄せられるように、彼女の両手を掴み、顔と顔を近付ける。

「もう一回」
たくさん練習しようぜ、と囁きかける土方は、千鶴が今まで見たことないような満面の笑みを浮かべていた。




結局食器は二人で仲良く洗いました。






*****
甘いSSLにチャレンジしてみました。
付き合い始めの初々しい甘々ひじちづ…になってたら嬉しいですv
土方先生は付き合いだした途端千鶴ちゃんにベタ甘だと思うよ!!

最後の文章は『学園の者が見たら「誰だ、お前」と言われていまいそうな満面の笑みを浮かべていた。』とか『沖田が見たら「死ぬほど気持ち悪い」と言われてしまいそうな満面の笑みを浮かべていた。』とか色々浮かんだんですが使わず仕舞いです(笑)
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