おめでとうとありがとうの日 | ナノ





桜が散り、たんぽぽも綿毛に変わる頃。

私は一つ大人になる。




【おめでとうとありがとうの日】




「「「お誕生日おめでとう!」」」
「ありがとうございます」
集まった仲間達が声を揃えて祝う。
どうしても今日来ることの出来なかった者達からは、様々なプレゼントが届いている。

「「おめでとうございます」」
「「ありがとうございます」」
お互い、他のメンバーよりも少し大きく切ってあるケーキを手に、アキラとゆやは笑顔で祝い合った。


4月17日。
ゆやの店を貸し切り、ゆやとアキラの誕生日パーティーを行うことになった。
いつもと違う飾り付けをし、料理やプレゼントを持ち寄って盛大に祝う。


「同じ日なんて珍しいよな…」
とりあえずゆやとアキラを祝ってからは、みんなそれぞれ酒を飲んだり、語り合ったり、刀を抜いたり…して騒ぐ中、時人がポソリと呟いた。

「まぁ私の場合、灯が勝手に決めた日ですけどね」
「偶然…か?」
「そうでしょう」
ふーん、とアキラとは視線を合わさずに返す。
ゆやも二人の話を黙って聞いていた。

「てかお前結構童顔だよな」
「貴方に言われたくありません。外見でどれだけ年齢詐称しているんですか?」
「詐称って言うな!!」
「壬生一族全員に言えそうですが………貴女本当はいくつなんですか?」
アキラの直球な質問に、ゆやも気になって耳を澄ませた時。

「ゆ〜やさん!おめでとう♪」
「おめでとう、ゆやちゃん」
酒瓶を片手に、幸村と梵天丸がほろ酔いで肩を叩いてきた。

「ありがとうございます」
祝って貰うのは嬉しいけれど、歳を重ねるごとに…何だかくすぐったい。

「そういえば、肝心の旦那様からは?…特別な何かがあったのかな〜?」
「どうせあの朴念仁は『おめでとう』の一言もないんだろ」
笑顔で尋ねてくる幸村に、梵天丸が呆れたように先回りして返す。

「それが…狂、朝一番に何て言ったと思います?」
「え?何か言ったのか!?」
その場に居た全員が意外そうにゆやに注目する。

「『23になったのか』って」
みんなの視線に苦笑を浮かべながら答えた。

「……」
「そうよって返したら…それで終わりです」
「……」
「…別に『おめでとう』を期待してたわけじゃないんですが…」
一応、誕生日を覚えていることは伝えたかった…のだろうか。

「素直じゃねぇな」
「相変わらず不器用と言うか何というか…」
梵天丸はフゥ〜とため息を漏らし、幸村も肩を竦めてから楽しそうに笑う。

「これから『30になったのか』とか『40になったのか』とか…毎年言われるとしたら…何か複雑だなって思って」
女性に年齢を言うこと・尋ねることは、時に微妙な空気を招く。特に言い方には注意が必要だ。
そんなナイーブな問題を彼が考慮するとは…思えない。

「それで?」
「どうしてそういう言い方するのよ…ってちょっとした喧嘩になりました」
困ったように笑う。

「あ〜…」
梵天丸と幸村も完全に苦笑を浮かべてしまった。

「何歳になったのか、だけじゃそりゃ怒りもするよね」
「何かもう一言くらい欲しかったな〜っていうのが本音です」
少し拗ねたように呟く。

「ゆやちゃんにはオレ達もいるさ。本当におめでとう」
それでも、これから先もずっと一緒に居ること前提で話すゆやを二人は微笑ましく思い、また心から祝福を述べた。







みんなでドンチャンひと騒ぎ祝ってから、そのまま泊まるのかと思っていたが、日が暮れる前にはみんなそれぞれ自分の居場所へと帰って行った。
折角なので夜くらいは家族水入らずにしてやろう、との計らいかもしれない。

「狂のおめでとうがなかった事件」も何人か聞いていたし…。







「あのね、」
結局いつもと変わらない家事をこなし、陽と悠を寝かしつけながら、徐にゆやが口を開いた。

「二人を生んだ時に、産婆さんに言われた忘れられないことがあるの」
「……」
そろそろ自分も褥に入ろうかと煙草を消した狂は、返事はせずともゆやの声に耳を傾ける。

「生み終わってホッとした時、『大変だったでしょ』って言われて…もちろん私『はい』って答えた」
「……」
お産とは、漢には分からない大変さがあるのだと思う。流石の狂でもそれくらいは知っている。

「そしたらね、『貴方のお母さんは同じ大変な思いをして貴方を生んだのよ』って『だから、誕生日は本当はお母さんに感謝する日なのよ』って言われたの」
「……」
彼女の『お母さん』という言葉に少しだけ眉根を寄せた。

「でも私…母様を知らない」
望は神社の境内で生まれて間もないゆやを拾ったと太白が言っていた。
だからゆやの母親は…恐らくゆやを…。

「それでも自分が母親になって、分かったことがあるの」
陽と悠の寝顔を覗き込み、頭を撫でてやる。

「きっとどうしようもない理由があったんだって。あんなに大変な思いをして…何も思わない訳ないって」
「……」
「本当に、生んでくれただけで感謝したいの。それから私は兄様に拾われて倖せに暮らしてた。色々あったけど、今日だってたくさんの人にお祝いして貰って…勿体ないくらい」
だから母様に感謝したいの、と二人に微笑む。

「でもね、私自分の両親を知らないし…狂の誕生日も両親も知らないの」
突然自分の話題になり狂は面食らった。

「…ホントはお祝いしたいのよ。一番に『おめでとう』って言いたいし、美味しいお酒とお刺身を準備して…その日は特別に祝いたい」
ゆやの表情が僅かに曇る。

「どうしようもないから…私の誕生日に私と狂の両親、一緒に感謝することにしたの。会ったことないから全然分かんないけど…」
困ったように少し笑ってから、

「生んでくれて、会わせてくれて、ありがとうございます」
囁くように呟いた。
その声が、やけに静かに部屋中に響く。

その時。

『こちらこそ…ありがとう』
ゆやの言葉に答えるように、狂の傍らに横たえてあった天狼がキラリと輝いた。

「!?」
ゆやは目を見開いて天狼を凝視する。

「……?」
狂が訝しんでゆやを窺うと、

「今、天狼から『ありがとう』って声がした!!頭の中で響くみたいに…!」
驚き焦ったように訴えてきた。

「……」
ソイツは…と口を開きかけて、やはり止める。

「え?何?」
ハッキリ聞こえなかったゆやは、翡翠の瞳を真っ直ぐ向けて聞き返す。


天狼から意識を逸らすように、

「おめでとう」よりも、何よりも伝えたい思いを込めて、


狂はゆやの腕を引く。



生まれてきてくれて、『ありがとう』。







*****
これからも一緒に歳を重ねていきたいと願う日。



「おめでとう」より上の「ありがとう」を伝えたい旦那様。
ちゃんと伝えられるといいんだけど(笑)

灯ちゃんはアキラの誕生日は勝手に決めたけど、その時、狂の誕生日については触れなかったのかな〜?ってちょっと思いました。
四聖天+狂は灯ちゃんがいなかったら誕生日なんて完全スルーでしょうが、乙女な灯ちゃんが居ることによって、ちゃんと祝ってそう…ってイメージです。

本当はアキ時幸村梵ちゃん以外にも色んなキャラがゆやにおめでとうって言うシーンを書くつもりだったんですが…間に合いませんでした(TT)

細かく言うと「初恋にさよなら」の続きで陽と悠が1歳前くらい設定です。多分。←






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