それを恋と呼ぶのです。 | ナノ  二人きりに抵抗がなくなったのはいつからだろう?
 最初は居心地の悪ささえ覚えていたのに。
 傍若無人、自分勝手で肝心なことは何一つ教えてくれない。
 いい印象なんて持てる訳がなかった。



【それを恋と呼ぶのです。】



 眠れない。
 狭い一カ所に集まった仲間達は鼾や寝息をたてながら眠っている。今日の見張りは特に心強いから、みんな安心しているのだろう。
 浅い眠りを繰り返すだけでも、いつまでも起きているよりは体が休まるはずだ。昨晩は自ら見張りの役目を申し出たので、張り詰めた意識の中一睡もしていない。だから体は疲れている。正直すごく眠い。
(私だって見張りくらい出来るんだから…)
 お荷物ばかりじゃいられない。他の皆が熾烈な戦いでを強いられている今、ほんの少しでもゆっくり休んで貰いたかった。
 もう何度目になるか分からない寝返りを打つ。一向に眠りの波はやってこない。 
 半分諦めて天幕から外に出た。

 出てすぐの所に、五尺はある長刀を抱え胡座をかく漢の姿があった。
「隣いい?」
「……」
 後ろから声を掛けても返事はない。
 彼のことだから、気配で誰だか分かってはいるだろう。
 無言は肯定と受け取り、隣に座り込んだ。
「……」
「なんか眠れなくって!」
 笑いながら言う。
 丁度その時、天幕の中から何人かの声が聞こえた。誰の何て言葉かまでは分からなかったが。
「みんなすごい寝言、ぐっすりね!」
 自分の声が、月下の元でやけによく響く。静かな夜だ。いつの間にか賑やかな大所帯になっていたので、彼と二人きりなんて随分と久し振りだった。
 特に敵が出る気配もない。
「狂はよくお昼寝してるから眠くなんかならない?」
 見張り向きね、そのうち昼夜逆転しちゃうかもよ、とあまり意味のない、会話とも言えないような声を掛ける。
 返事はない。相変わらず何を考えているのか分からない。
「……」
「……」
 ゆやが黙れば、二人の間には沈黙が走る。
 ふと何気なく空を見上げると、数え切れない星達が輝いていた。昨夜もこんな星空だっただろうか?ゆや一人だと、夜空を見上げる余裕もなかった。
「綺麗…」
 完全に顔を上げてしまえば、視界は降ってきそうな宝石で埋まる。月だけが一つ大きくて、他の星々も負けじと瞬いている気がした。
「……」
 ゆやの視線と声に釣られたのか、狂も頭上を見上げる。
 同じ夜空を見上げて、彼は何を思っているのだろう。
「…兄様に聞いたことがある。遠くにある星の光は本当は何年も何百年前の光で…もしかしたらもうその星はないのかも知れないって」
 星さん死んじゃうの?の問いに、人と同じだね、と優しく笑った。
「……」
「星にも寿命があって…命を燃やして光ってるから、こんなに美しいんだよって」
「……」
「……」
 もう一つ、兄に教わった星の話がある。
 一際明るく輝く北の星を…「天狼星」と言う。他の星が頭上をゆっくりと動くのに対し、天狼星だけはブレずに命を燃やし続ける。青白い狼の眼のごとく強く輝く天駆ける孤高の星。
「…大丈夫?」
 ふと口をついて出た言葉。
 大丈夫に決まってるじゃないか。狂だ。相手は狂なんだから。と、自分の問い掛けに自分で戸惑う。
『チンクシャのくせに余計なことを』
『下僕が主人に何言ってやがる』
 絶対馬鹿にされると思った。今までずっとそうだったように。
 けれど、返ってきたのは意外なものだった。
「てめぇこそ昨日寝てねぇだろ」
 …そっか。
(私だけじゃないんだ)
「……」
 此処が居心地よくなってしまったのは、きっと、自分だけが変わったからじゃない。
 あの頃は、気にかけてくれるなんて思っていなかったし、気付かなかった。
「……」
 すぐ隣の肩に凭れ掛る。
「……」
 狂は何も言わない。『重い』とも『どうした?』とも。
 初対面の時は、近付いただけで怖くて声が出なかったのに、今は自分の意志で傍にいる。
 もう声が出せないわけじゃない。ただ、言葉は要らない気がした。
 自分でもよく分からなかった一つの想いに気付く。
 今はまだ伝えられない。けれどいつか…いつか伝えたい。
 一気に眠気が押し寄せてくる。
 自分以外が眠れぬ夜を過ごしているなんて露知らず、ゆやは穏やかな眠りに落ちていくのだった。





*****
何か色々書きたかったけど纏まりませんでしたorz
いつかリベンジしたい。

鬼眼さんは絶対皆が思ってるような手はその手前まですら出してなさそうな気がします。セクハラすらしてなさそう。鬼眼さんからは触れてもいなさそう。
イメージ的に29巻の前辺りで書きましたが、上条先生も書いてたように本編のどこらへんってツッコミはなしで(笑)

てか鬼眼さん一回しかしゃべってない…(笑)

ゆやはいつから狂のこと好きになったんだろ?自覚したのはいつ?もしかしてあの29巻の瞬間?もっとずっと前?

灯初登場らへんの「楽しくなって来やがった」。
狂がゆやに自分の気持ちを吐露するってもうそれだけで幸せです。
鬼眼さんなりにすっごい進歩じゃない?すっごい特別じゃない?すっごい信頼してない?




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