magic girl | ナノ
マジカルガール
「ゆやさん、学校はどうですか? コッチは徒歩と電車で通うんですよね? 不便じゃないですか?」
リビングの椅子を逆向きにし、背凭れに両腕を乗せて京四朗が心配そうに尋ねる。
「不便も何もそれが当たり前だから。電車使うだけむしろ便利よ」
「へ〜。でもその電車が来るの待たないといけないんですよね?」
魔界で暮らす京四朗には、見当もつかない、と言いたそうだ。
「待たせてごめんなさい、京!…キャッ!!」
トタタタ、と足早に階段を下りてきた朔夜姉様が、ラスト一段の所で盛大に躓いた。
「朔夜!」
姉様の天然な(どんくさ、否かなりおっとりしている)ところを考慮して、身構えていた京四朗が右手の人差し指をクルリと振る。すると一瞬で優しい風が朔夜姉様を包み、京四朗の前にストンと運んだ。
「お約束過ぎるよ!僕が早く来すぎちゃったんだし、急がなくていいから用心して…!」
「ありがとう」
朔夜姉様は普段から綺麗で可愛いけど、今日は特におめかししてる。
「えっと…どういたしまして」
照れながら笑い合う二人。
「デート、いってらっしゃい」
二人のラブラブっぷりは日常茶飯事で、見ているこっちが恥ずかしくなる。
「「いってきます」」
二人揃ってリビングの大きな姿見に消えていくのを、私は笑顔で見送った。
【Magic Girl】
魔界でも最高クラスの優秀な魔術師の父様は、同じく優秀な魔女である望兄様と朔夜姉様の母様と結婚した。けれど、彼女は元々病気がちで、兄様と姉様が小さい時に亡くなった。
その後、父様は人間の女性と恋に落ちて結婚する。その女性が私の母だ。つまり、私は半分魔女。父様は母様にプロポーズする時、本当に本当に悩んだらしい。だから、母様に言う前に兄様達に相談した。そこで兄様達が背中を押してくれたから、今の私がこの世にいる。
朝は父様と兄様と姉様、三人がリビングの鏡から魔界に出勤していく。母様はそれを見送り、私はこっちで学校に行く。それが私達の日常だった。でも、私が中学の頃…父様と母様が事故で亡くなった。
悲しみに打ちひしがれたけど、ずっと沈んでもいられない。明るく強い二人に叱られないように。兄妹三人で暮らしている。
芯の強さもあって、優しい兄様と姉様。私は二人が大大大好きだ。もちろん、魔界で神官をしている、姉様の恋人の京四朗も。
そろそろ基本的な魔法くらいはマスターしなさい、と兄様に言われていた。
火、水、土、雷…魔法の種類はたくさんあるけれど、私は風と相性が良かった。
魔法の練習も少しくらいなら日常生活に支障はない。特に風の基本形なら、大規模じゃないし何かと便利だ。
でも、兄様も姉様も優秀な魔術師だから、私に掛かる「椎名」の名の期待は大きい。始めてしまったら元に戻れないような気がして……どうしても避けていた。
「やだ!私も遅れちゃう!!」
時計を見ると、待ち合わせの20分前。ここから行く時間も考えて、慌てて玄関から家を飛び出した。
*
「ゆやちゃ〜ん!!」
「みずきさん!ごめんなさい、お待たせしちゃいましたか?」
「ううん、私もさっき来たとこだから!」
待ち合わせ場所に着くのがギリギリになってしまい、みずきさんはもう待っていた。
「真尋ちゃんも来れれば良かったんだけどね」
「バイト、どうしても休めなかったみたいですね」
真尋さんの働く『お好み焼き TOKUGAWA』は私の友達、トラの父親が経営する大手チェーン店で、真尋さんはそこで住込みのアルバイトをしながら高校に通っている。
3年のみずきさんと2年の真尋さんとは、体育祭のダンスの実行委員で知り合った。それぞれ学年代表を任されて、振付を考えたり、衣装を決めたり縫ったり、初めてのことだらけの私は二人にすっごく助けられた。その縁で、体育祭が終わっても学年は違うけど仲が良い。
「今度は三人でランチとかどう?」
「いいですね!私こないだお洒落なカフェ見つけたんです!行ってみたくて…」
アレにコレにと女の子同士の話は話題が尽きない。そのまま中心街で、服やブーツなどの買い物を楽しんだ。
*
「みずき!」
「はい?」
次はどこにする?と話しながら、道を歩いている時だった。後ろから男性に声を掛けられ、ナンパか何かかと少し警戒しながらみずきさんと私は振り向いた。
「…幸村!!」
みずきさんが驚いたように名前を呼ぶ。そこには男の人が二人立っていた。
「わ〜久しぶり!!」
「……」
幸村と呼ばれた人懐っこそうな人がみずきさんに笑いかける。もう一人は…強面で、幸村さんとは対照的だ。
「ホント…直接会うのは幸村が引っ越して以来?」
「かなぁ?みずきは全然変わらず…ううん、さらに綺麗になったね。すれ違った時一瞬分からなかったよ」
「…幸村もその女の子をすぐ口説くところ変わってないのね」
「だって本当のことだから」
あはっと笑う彼はなんとなく人を惹きつける。もぉ、と口をへに曲げながらもみずきさんは嬉しそうだ。
「あ、ごめんね、ゆやちゃん。幸村は幼馴染で…高校入るまで近所に住んでたの。引っ越してからは時々メールや電話するくらいで、全然会ってなかったんだけど…」
親しい知り合いみたいだし、お邪魔かな?どこかで待った方がいいかな…と思った時、みずきさんが私に紹介してくれた。
「ごめんね、狂さん。みずきとは幼馴染で…」
幸村さんも、同じように一緒にいた人に説明しているようだった。
「ゆやさんはみずきのお友達?」
「あ、はい!みずきさんは先輩で…いつもお世話になってます」
「お世話なんて全然!体育祭で知り合ったんだけど、気が合って。真尋ちゃんと三人でよく遊んだりしてるの」
「真尋さん…あぁ、『TOKUGAWA』の!」
「知ってるの?」
「『焼きそば SANADA』とは因縁のライバル同士だから」
「そう…そうだったわね」
みずきさんが頷いて、二人同時に吹き出した。
みずきさんの表情がなんだかいつもと違う。イキイキしてる?それに、さっきから時々ちょっと頬を染めてる。
これは…やっぱり…。
普段その方面に「本当鈍いんだから!」と友達みんなに言われる私が、珍しくピンときた。
「行きましょう!狂さん!」
「あ?」
みずきさんと盛り上がる幸村さんの横に無言で立っていた彼の腕を引いて、歩き出す。
「え?ゆやちゃん!?」
「ちょっと買い忘れを思い出しました!女の子一人じゃ荷物になるものなので、狂さんに手伝って貰いますね〜!」
適当に言い訳をしながら、来た方向に戻って行く。
「あらら……嘘が下手な子だね」
「ゆやちゃん…」
驚いた様子のみずきさんと優しく笑う幸村さんを、私は全然見ていなかった。
*
「で、何処に行くんだ?」
「え…えっと…。ごめんなさい。何も考えてませんでした」
あの二人が折角久しぶりに会えて…いい雰囲気だったので、と謝る。
「…初対面のオレ様と二人きり…だが」
「……」
この人、自分のことオレ様とか言ってる…もしかして性格あんまり…よくない?
「オレ様を道連れにすると高くつくぜ?」
ニヤニヤと笑いながら詰め寄ってくる。え?この人…ちょっと怖い系?
「買い物途中だったんだろ?好きにしろ」
「…いいんですか?」
「……」
無言になってしまった。
「…じゃあ…お言葉に甘えて」
初対面の人と買い物するのも奇妙な感じだが、とりあえず時間を潰すのが一番の目的だ。完全に私のペースな買い物に、彼はそのまま付き合ってくれた。
*
買い物をしながら少し話すうちに、彼が遠くから来た人で、今日はたまたま知り合いの幸村さんに誘われて、日中の街へ来たことを知った。
大体、夜の居酒屋くらいしか行かないらしい。
彼は社会人のようだけど、どこから来たのかどんな仕事をしているのかは教えてくれなかった。
そうこうしているうちに何時間か過ぎ、「そろそろみずきさん達に連絡してみましょうか?」と携帯を取り出した時だった。
ウーーーカンカンカン
大きな警報音を鳴らして、消防車が通り過ぎて行く。
「え…あの方向って…」
嫌な予感がした。
魔力で風の声を聞くと、だいたいの位置が分かる。そして、嫌な予感は確信へと変わっていく。
「みずきさん!みずきさんのアパートが家事です!!」
携帯でみずきさんに連絡をいれながら、気が付いたら走り出していた。
*
みずきさんのアパートに着くと、火はもうゴウゴウと燃え上がっていた。一人暮らしのみずきさんに誘われて、時々遊びに来ているので知っていた二階のみずきさんの部屋にも火が及んでいる。野次馬がたくさん来ているが、消防車は先ほどの小さい車両が1台だけのようだ。
「助けて〜!!」
ベランダの窓から子どもの声が聞こえてくる。その声には、聞き覚えがあった。
「…なっちゃん!!」
みずきさんに懐いているお向かいの女の子だ。私も時々会うから知っている。
「すぐに助けに…」
「バカ言え!火の回りを見てみろ。あの部屋まで行く前に燃え死んじまう!」
隣にいた中年の男性が怒鳴るように引き止めた。
「でも…」
見ているだけなんて出来ない。
「梯子車か何か来るのを待つしかねぇ」
男性はそう言うけれど、待っているだけではなっちゃんは…。
「オイ!お嬢ちゃん!!」
端っこに置いてあったバケツで頭から水を被り、風魔法で風向きを変えながらアパートの中へ走り込んだ。
*
自分の進行方向に風を作り、火の回りを緩める。その方法で何とか二階まで辿り着いた。二階は煙も酷く充満している。
「なっちゃーん!なっちゃーん!!」
カラカラの喉から声を振り絞ると、小さく「ゆや…おねぇちゃん?」と返事する声が聞こえた。
声のする方へ急げば、畳の上でなっちゃんが蹲っていた。
「なっちゃん!」
駆け寄って抱きしめる。
「…ゆやおねぇちゃん」
「よかった…!」
私の姿を見ると、涙でグシャグシャの顔を少し緩めた。でも、ホッと一安心したのかそのまま気絶してしまった。
「なっちゃん!」
今来たばかりの私でも大分息が苦しくなっている。急がないと!そう思うのだけど、来た時よりも火が強くなっていて、私の風じゃ少し炎が揺れる程度だった。これじゃ、なっちゃんを抱えて下りるのは難しい。
「何とか…何とかしなきゃ…!!」
天井がバチバチっと音を立て始める。見上げると、焼け焦げた黒い柱。メキメキ音を立てながら、天井から落ちてくる。
(もうダメ…!)
そう覚悟した瞬間。
「燃え散れ」
声と同時に柱が大きな手に触れ、跡形もなく燃えてしまう。
「…え?」
何が起こったか分からず、ただ頭上を見上げると…紅蓮の炎で身を包んだ狂さんが立っていた。
「てめぇ、バカか?バカだろ。バカ決定だな」
「狂…さん?」
「狂でいい。敬語もやめろ」
「え?」
「あの女も幸村のこと呼び捨てだっただろ」
あの女って…みずきさんのことかしら?
「それより、あなた平気なの…?」
この火事の炎の中で、彼は火傷一つ負っていない。
「オレ様の炎は地獄の炎。火事の炎なんざ線香の火みてぇなもんだ」
「地獄の…炎?」
この非常事態の中でも、悠々と立っている。余裕綽々だ。
「目には目を、歯には歯を…炎には炎を」
そう言って不敵に笑うと、彼を包んでいた紅い炎が大きくなり、ゆや達をスッポリ包み込む。
「キャ…!あ、熱くない…」
燃えてしまう…と思ったが、狂の炎は暖かかった。苦しかった呼吸も、全然平気だ。
「…フン」
狂はなっちゃんを抱えた私を抱え、瓦礫となった障害物を左手で燃やしながら、活路を導いていった。
*
「ゆやちゃん!!」
「みずきさん…!」
アパートを出ると、目いっぱいに涙を溜めたみずきさんが駆け寄ってくる。そのまま勢いよきしめられた。
「よかった!ゆやちゃんが無事で!なっちゃんも…本当にありがとう…」
喜んでくれる声が掠れていて…心配かけてしまったのを実感した。
「…心配かけちゃってごめんなさい」
「ホントに!」
自分のアパートが火事になり、本当は自分の事で大変なのに…私の事を心配してくれたことは、素直に嬉しかった。
でも、みずきさんはこれからどうするんだろう。
「みずき、管理人さんが今後の事とか話したいって…」
「うん、わかった。…すぐ行く。ちょっと顔洗ってから…」
幸村さんに呼ばれ、みずきさんは硬い表情で私から離れる。
「みずきさん、とりあえず今夜からしばらくうちに来ますか?」
部屋は火事と消火活動で水浸しだ。とても住める状態じゃないし、事情を話せば兄様と姉様のことだからきっとOKしてくれる。
「大丈夫!みずきはうちで預かるよ!」
「「え!?」」
幸村さんの断言に驚いたのは私だけじゃなかった。みずきさん本人もだ。
「うちは大家族だから一人増えたって全然平気だし…あ、家族がいるところで変なことなんてしないよ」
「幸村!変なこととか…そういう問題じゃなくて!いや、でも私一応年頃の女の子だし…」
「小助だっているでしょ?」
「そうだけど…」
「ずっといてくれたっていいんだから」
その後、幸村さんがみずきさんに何か耳打ちしたけれど、私には聞こえなかった。でも、みずきさんの頬が赤く染まったから…聞こえなくて正解だったんだと思う。
なんだか心配なさそうなので、私はフフフと口元が緩むのを堪えられなかった。明日学校へ行ったら真尋さんに報告しちゃおうかしら。今夜電話で…がいいかしら? でもやっぱり、みずきさん本人が話すのを待つべきかもしれないし…ちょっと悩み所。
そんなことを思い、一人でニヤついたり悩んだりしていると、
「忙しい奴だな」
「狂!」
低い声が響いた。
「…怪我は?」
「ちょっと火傷したくらいだから、全然平気よ」
腕に少しだけ負った軽い火傷を見せる。
「これぐらいで済んだのも、なっちゃんが無事だったのも、全部狂のお蔭!本当にありがとう」
処置は済ませていて、一応包帯が巻いてある。それを一瞥して、狂はふぅと小さく息を吐いた。
「いたいた!探したよ!!」
「君達、その格好でさっきの火の中に入ったの!?どうやって無事で…」
「今回は良かったけど…本当に危険だよ!」
一歩間違ったら自分の命も奪われていたかもしれないんだよ、と後から駆け付けた消防士達が話しかけてくる。
「…行くぞ、バカ女」
掴まると面倒くさいとでも言うように、狂が私の腕をひく。「あ、ちょっと待って…」とお説教を始めそうな消防士を振り切って、狂はどんどん歩いて行く。
「アンタまたバカって…私にはちゃんと『椎名ゆや』って名前があるのよ!」
彼に引きずられながら、とりあえず文句を返した。さっきから何度バカって言われたか分からない。
「…椎名?」
狂は一瞬眉を寄せた。
「何?」
「…いや」
何でもない、といった調子で返される。
ふと気づくと、辺りはもう暗くなっていた。
「わ!帰らないと…兄様達が心配しちゃう!」
「…送る」
ゆや、と初めて名前で呼ばれた。
*
「なんかごめんなさい。何から何までありがとう」
助けてもらった上に送って貰うなんて。
「……」
狂はあまりしゃべらない。家への帰り道もほとんど私が話していた。
それでも一つだけ、彼から尋ねられたことがある。
「風は…修行したのか?」
「…ううん。だからあれで私の精一杯」
送ると言われた時から、聞かれるのは覚悟していた。
「私、半魔女(ハーフ)だから上手にコントロール出来ないの。兄様には基本的なのくらいマスターしなさいって言われてるんだけど…」
修行って言葉が出てきたので、狂の不思議な力もきっと私と一緒なんだと予想する。だからすんなり話せた。
普通の生活をしてても切り離せない……魔法。
私は、今の生活が好きだ。
勉強は時々イヤになることもあるけれど、学校に行って友達と会って、バイトしてコツコツ貯金して、時々こうやって友達と買い物や映画に行って。そういった『この世界』の普通の生活が大切だ。
もちろん恋だって。
私自身はまだだけど…友達の恋を応援している。いつかそのうち、私だってみずきさんや真尋さんみたいに…って思ってる。
みんなと一緒に笑ったり泣いたり怒ったり、その時間は早くて、最近特に大切に思えてきた。
「魔術のことは…友達にも誰にも話せない。もちろん、みずきさんにも」
友達が大切なのに、信じているのに……嘘をつくことも時々ある。
だって私が普通の人間じゃないって知られて、今の関係がなくなるのは嫌だから。
「友達とは一緒にいたい。大事にしたい。でも、今日みたいに困っている人がいたら力になりたい…なれるのに何もしないで見ているなんて出来ない」
友達を失いたくないばかり、渋っているその一瞬で事態が変わってしまうことも多い。
「家族は好き。父様と母様がいなくても、変わらず私を大切にしてくれる兄様と姉様が本当に大好き」
いつもいつも思っていることなのに、改めて口にすると涙がポロポロと零れてきた。
「でも…魔族に生まれたいなんて言ったことないのに」
これを言ったらみんなが悲しむって分かってる。だから今まで誰にも言ったことなかった。
でも…止まらない。
「……」
狂は黙って私の話を聞いていた。
そして。
「半魔女だろうがどちらかだろうが、お前はお前だろう」
迷いのない声に私の涙が止まる。
彼は「王族だろうが人間だろうが…」とボソリと付け加えた。
「話したくなりゃ話せばいい。今話したくないなら、それは話す必要がないんだろ」
お前が信じてないわけじゃねぇ。
そう言って、私の背中をバシンと叩いた。
「イッタ〜!」
「辛気臭ぇ」
「な!?人が本気で悩んでたことを…!」
狂の背中にお返ししてやろうと、両手で挑むがヒョイと避けられてしまった。
悔しくなって何か次の手を考えていると…。
「ゆやさん!よかった!」
聞きなれた声に呼びかけられた。
「京四朗!」
「朔夜を送ってきたらゆやさんがまだ帰ってなくて…何かあったのかなってこの辺探してたんですよ〜。あ、どうも…って…狂!?」
「京四朗…」
狂の存在に気付き、挨拶しようとした京四朗が、驚いて狂を呼ぶ。狂の方も京四朗を知っているようだった。
「まさかこんな所で会うなんて!一人でこっちに来てたの?」
「…幸村と飲みに」
「幸村さんもいたんだ!え〜僕も誘ってくれればよかったのに〜」
しかもかなり親しげで、幸村さんも京四朗と知り合いのようだ。
「知り合い?」
「うん」
「帰る」
「「え?」」
言うが早いか、左手人差し指に炎を燈しフッと吹きかけると…それが大きくなって狂の身体を包んだと同時に消えた。
「早っ!!自由すぎるだろ」
京四朗が居なくなってしまった人物に、思わずツッコミを入れている。
「きゃぁ!!」
「え!?」
「何!?手品!??」
道行く人は少なかったが、それでも狂の瞬間移動を見た数人が騒ぎ出す。
「…急いで帰りましょうか」
「うん…」
騒ぎが大きくなる前に、急いで帰ることにした。
*
「僕の魔術の師匠、村正さんは知ってますよね?」
「えぇ」
帰り道で京四朗が教えてくれた。
「狂は同じ村正さんの弟子で、ずっと一緒に修行してたんです。だから狂も風魔法の達人ですよ。しかも狂は、村正さんに伝授してもらった風魔法以外にも……天賦の才がある」
「それが、地獄の炎?」
「ゆやさん見たの?」
驚いたように私に問い掛ける。
「うん…」
「そっか…へ〜」
「な、何よ…」
「いえ、何でもないです。それとですね。狂は王族……それも次期皇帝の第一候補なんですよ」
「え…? 王……こ、皇帝!?」
魔界のことをよく分かっていない私でも、ビックリするような、思いもよらない高貴な身分だった。
「本人は嫌がってるけどね。自分は自分って。だからか僕たちとだってタメ口だし」
面白いヤツだよ、と京四朗は笑う。
きっと狂だって、王族になりたくて王族に生まれてきたわけじゃないんだ。
『半魔女だろうがどちらかだろうが、お前はお前だろう』
さっきの彼の言葉が頭の中に蘇る。
…アイツは、私が悩んでたことの答えを自分自身でもう見つけてるんだ。
狂の言う通り…私は私。
兄様達みたいな大きな力はないけれど。
自分に出来えることは、やっていきたい。
何かあった時、役に立てるように。
私は半分魔力を持っているんだから。
私が半分魔女っていう事実は変わらないんだから。
兄様に言われた通り、基本的な魔法の練習は始めてみよう。
そう心に決めた。
京四朗と一緒に家に着くと、心配していた朔夜姉様が温かいお茶を準備して迎えてくれた。
*
それから一週間後。
私は放課後と週末、魔女修行をすることになった。
師匠は京四朗が連れてくることになっている。
今日から始まる未知の領域に、私はドキドキワクワクしていた。
最初、村正さんに弟子入りさせて貰おうとしたのだけれど…。
『私が教えられれば良いのですが、残念なことに少し体調が優れなくて。なので、ゆやさんの事は信頼出来る人に任せています』
腕も確かです、とのことだった。
「ゆやさん連れてきたよ〜♪」
とても楽しそうな京四朗の後ろから歩いてくる、長身の人が…私の師匠?
何だかすごく緊張してきた。
修行って厳しいのかしら?マスターするまでだから…かなり長期、よね?
「が、頑張りますのでよろしくお願いします!」
土壇場で不安になった私は、そう言って勢いよくお辞儀した。
その瞬間、クッと吹き出す声が聞こえる。
「?」
不思議に思い顔をあげると。
「しょうがねぇからオレ様が面倒みてやる」
「狂!?」
相手が狂だなんて聞かされていなかった私は、思いがけない再会に衝撃を受けた。
彼は「覚悟しとけよ」と楽しそうに告げる。
…私の魔女修行は前途多難です。
*****
何でも許せる人向けの話ですみませんw
コドブレアニメ化時、コドブレを16巻まで読んでた時点で、私の頭に思いついたKYOの話はこんなのでした。どういう思考回路でこうなったのかは謎です。(笑)
結構KYOキャラ異能じみた能力持ちが多いので、ゆやにもそういう要素あったらどうなんだろうって思ったのが妄想のきっかけだったような。
久々に幸村の番外編読んだ後書きだしたからか、みずきが登場。
印象的にみずき(18)真尋(17)ゆや(16)です。真尋は本来19歳ですが、まぁ気にしない!(笑)
みずきは年齢(結構性格も)分からないので見た目と頼りになりそうなおねぇさんの印象から。