傘 | ナノ





もしも二人が28歳だったら
こっちを読んでから読んで頂けると嬉しいです。(このお話の設定…みたいな)











「何でそんなにビショビショなの?」
傘持ってったのに、とゆやが拭くものを取りに行きながら問い掛ける。

「……」
玄関先には、ボタボタと水滴を滴らせながら、無言の狂が立っていた。

腕には、寝入ってしまった双子を抱いて。




【傘】




目が覚めると、何故かゆやと夫婦になり、しかも双子の子どもがいるという状況になって三日が過ぎた。
最初は驚愕したのだが、意外にもそれなりに生活している。



「はい」
朝食後、ゆやが笑顔で湯呑を渡してきた。

「……」
中には濃くもなく、薄くもない、丁度良い熱さのお茶。
朔夜の阿寒湖特性マリモ茶よりも見た目が良く、味は負けず劣らず。

「今日のお昼ご飯は陽と悠の好きなものにするから…午前中のうちに三人で買い物に行ってきてほしいの」
しっかり母親の表情でゆやが言う。

「……」
「も〜しょうがないわね」
その表情に時々慣れず、何も言わなかった狂を不服と捉えたのか、

「好きなお酒も買ってきていいから」
と小さく耳打ちする。

「あ〜母様、ないしょ、ずるい!ユウも!ユウも!!」
狂によじ登る様にして悠も耳打ちしてくる。

「ユウにコンペイトウ買ってね」
可愛らしい笑顔で言われ、鬼も仄かに口元を綻ばせるのだった。


「あ、雨が降るかもしれないから傘忘れないでね」
家を出る前にゆやが思い出したように言った。

帰りは買った荷物もあるので、傘は少し邪魔になる。
陽と悠は小さいので、二人で一つ差させればいいか、と二本持って家を出た。



しかし、その判断が失敗だった。








「オレが持つ!」
「ユウが持つ!」

どちらが傘を持つかで揉めだしたので、「ジャンケンでもしろ」と提案した。

「「出さんが負けよ、ジャンケン、ポン!!」」

「勝った〜!!」
悠の嬉しそうな声が響く。

「……」
陽は少し不満気だが、しょうがないと分かっているのか無言だった。

「ホラ」
狂に向かって、早く頂戴とでも言いたそうに手を伸ばす悠に、小ぶりの、丁度子ども二人が収まるサイズの傘を渡した。

「「雨雨ふれふれ、もっとふれ〜」」
二人ですっぽりと傘に入り、狂の前を歌いながら歩き始めた。







歩き出してしばらくは良かったのだが…

クルッ
クル
ヒョイ
クルクル

「……」
悠は、傘を差すのが下手だった。

歌に合わせて手を動かしたり、クルクルと回してたり、右へ左へ、上へ下へ。
自由に動かすので、一緒に入っている陽も肩や腕がだんだんと濡れていった。

濡れて帰ると、ゆやが「風邪ひくと大変、洗濯も大変」と言うのが目に見えたので、あまりひどい時は、「ちゃんと持て」と二人が濡れないよう狂が後ろから傘を支える。
その「ちゃんと持て」「ハーイ!」を何度か繰り返した時。

「…オレが持つ」
陽が堪り兼ねたように傘の柄を掴んだ。

「ヨウはすぐ振り回すから、ユウまで濡れちゃう!傘は刀じゃないんだから…っていっつも母様に怒られるでしょ」
「それは閉じてる時だろ!開いてる時はユウみたいに振り回したりしねぇ!」
「ヤダ!!」
ユウが持つ、と傘を握りしめて放さない。

「振り回さねぇから貸せよ!」
絶対ユウよりはマシだ、とムキになる。

「ヤダ!!ジャンケン勝ったもん!」
「ユウが持ってると濡れちまって傘が傘の意味ないだろ!」
言って傘を奪い取ろうとする。

「……」

二人の取り合いをどうしたもんかと見つめていたが、そろそろ止めないと傘が壊れそうだ。

「オイ…」
狂が二人の着物の後ろ首を掴み、引き離したその時。

バキッ
メキメキ

っと盛大に嫌な音を立てて、傘が壊れた。

「わ〜!!ヨウが引っ張るから〜!!」
悠が大粒の涙を零し泣き出す。
「な、何でだよ。ユウが放さないから壊れたんだろ!!」
拳を握って言い返す陽も涙目になっていた。

「…どっちもどっちだ」

「……」
「……」
狂の低い声に、二人が揃ってビクリと身構える。

「……」
上手い言い回しが見つからない。
怒るべきなのだろうか。しかし二人ともすでに反省しているような気配はある。
子どもの叱り方…躾け方なんて狂には全く分からない。
とりあえず、このまま濡れさせておくわけにはいかないので、ズブ濡れの二人に狂の傘を差し掛けた。

「…父様が濡れちゃうよ」
「……」
申し訳なさそうに、二人が狂を見上げる。

雨に濡れるなんて、狂にとっては別にどうってことないのだが。

「「ごめんなさい」」
二人揃って、小さく告げる。

やはり十分反省しているようだ。
無言で二人の頭をグシャグシャと撫でてやる。

「…しょうがねぇから1本に入って帰るぞ」
言って、二人を腕に抱えると、

「父様、大好き」
「ならオレが傘と荷物は持ってやる」
とそれぞれ嬉しそうな声が返ってきた。

陽には、お前まだ傘持ちたいのか、と思ったが、彼なりの優しさからきた言葉だと分かったので、素直に甘えておいた。
流石に狂も両手で全部は持ちきれなかったから。



調子に乗って好きな酒を5本も買ったのが災いした。

ゆやは「好きな酒を買っていい」と言い、1本だけとは言わなかった。
そんな屁理屈を思いつき、調子に乗ったことを少し後悔する。

子ども二人と買い物の荷物、そして酒5本…は、やはり大変だった。
荷物と傘は陽と悠が持っていても、結局重さは狂にかかってくる。


しかも、買い物と喧嘩に疲れたのか、家まであと少しのところで、双子は寝てしまった。

バランスを崩すと落ちそうになる傘を首で支えながら、どうにか帰ってきたところで、冒頭のゆやの台詞に至る。







「お風呂入ったら?」
びしょ濡れの狂から双子を受け取り、眠そうな二人を無理やり起こして風呂に入れ、布団に寝かしつけてから、ゆやは狂に声を掛けた。

酒が5本あることには、突っ込まれなかった。
普段(16歳)のゆやからいくと、文句や嫌味の一つでも出てくると思っていたが…こっち(28歳)のゆやは狂が何本も買ってくるのは織り込み済み、ということか。

「あ、やっぱりこんなに買って…一片に飲むなら隠すからね」
と思ったら、やはり小言が飛んできた。

ふと、夫婦ということは…、と狂の頭にちょっと大人な行為が浮かぶ。
ならば、一緒に風呂に入ることだって…。

「…行くぞ」
ゆやの手を掴み、さり気なく風呂へと連れて行こうとした。

「ちょっと!陽達が起きたらどうするの…昼間はダメっていつも言ってるでしょ」
顔を赤らめ、恥らいながら言うゆやは、16歳とは違い完全に拒否はしない。
昼がダメということは、夜はOKということか。

一応遠まわしに受け入れている彼女が新鮮で、調子が狂いつつも口角が吊り上るのを止められない。



夜が楽しみだな、と三人目に意欲満々なお父さんでした。






*****
みかるさんに捧げます!(年単位で)大変遅くなってしまいましたが、相互お礼の狂ゆや家族話でございます。
結局、相変わらず自己満な上に最後意味不明な話で申し訳ないです。こんなのですが貰って頂ければ嬉しいです。。

そして、鬼眼さんタイムスリップ(?)ネタを引っ張って申し訳ない。どうも40歳の鬼眼さんは…私には書けなくて。まだ想像出来なくて。
40歳は私なんかには書けない深みのある鬼眼さんになってるだろうと思いまして。(また私の勝手な鬼眼浪漫)

子ども二人の傘を支える鬼眼さん妄想したら、なんか無性に萌えてしまいまして…梅雨の家族話です。
けど鬼眼さん、雨くらいどうってことないだろ、的な心境で濡れてもほっときそうだな〜とも思いました。
そしたらゆやが「風邪ひいたら狂のせいだからね!!」って怒ってるのが浮かんできて…そんなこんなです(どんなだ

未来に来ちゃった28歳鬼眼さんは、ゆやに手を出す寸前で元に戻ります。お約束(笑)










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