誘導尋問? | ナノ
可愛いだけの女の子じゃいられない。
貴方のその声に…
綺麗だ、と言われたい。
【誘導尋問?】
「ねぇ、」
「?」
「狂は私のこと…どう思ってる?」
「あぁ?」
何を今更、という怪訝な表情。
「どう…思ってる?」
今まで改めて訊いたことはなかった。
だから漢も、彼女は分かっていると思っていた。否、今も思っている。
彼女の声は芯があってハッキリしている。
不安な様子はない。
「……」
だから漢は、彼女の後頭部を掴んで口付けようとした。
口にするまでもないと思ったからだ。
しかし。
「ダメ」
顔と顔の間を彼女の手が阻む。
「ねぇ、どう思ってる?」
「……」
漢は嫌な予感がした。
なかなか強情なところのある彼女だ。
これは…長引きそうだ。
「ちゃんと答えてよ…」
訊くのだって勇気がいるのよ、と少し唇を尖らせる。
漢は無言で眉根を寄せた。
訊かれて簡単に応えられるなら、苦労はしない。
彼女への感情が俗に言う想いと一致していることは、疾うに承知している。
自分でも認めざるを得ない。
ただ、素直にそれを告げる自分を想像してみると…反吐が出そうだ。
彼女への感情が嫌なわけではない。それを口にする自分が、どうしても気持ち悪いのだ。
口がダメなら…と、彼女の胸元へ手を滑らせた。
「やっ…バカッ!」
眉を吊り上げ睨む彼女。目が本気だ。
漢は心の中で舌打ちした。
「…てめぇはどうなんだ」
「私?」
キョトンとして確認する。
彼女が動揺すれば…形勢逆転のチャンスだ。
「好きよ」
漢の頬を両の手で挟み、鼻がくっつく距離で告げる。
頬は少し赤いが、見事な笑顔。
初期の紅虎や京四郎だったら、ブハッ…と鼻血を吹いて卒倒しそうな…笑顔。
漢も鼻血は吹かないが、身体の芯が熱くなった。
「……」
いつの間にか彼女は随分と大人になったようだ。
サラッと言えない自分の方が寧ろ成長しない。
「じゃあ…聞き方を変えるわ」
漢をよく知る彼女は、別の方法を思いついた模様。
「二択形式にする」
「二択?」
「うん」
にっこり微笑んだ。
「私のこと…嫌い?」
はいかいいえで応えて、と囁く。
「いや」
「じゃあ、好き…?」
「……あぁ」
「ありがと」
嬉しそうに笑う。
これで終いかと、形勢逆転させるべく彼女に覆い被さった…が。
「じゃあ…可愛いとか…思ってくれてる?」
たまに…でもいいから、と俯き気味だが目は輝かせて訊いてくる。
「……」
やたらと尋ねるその口を、今度こそ塞いでしまおうと頬に手を寄せた。
「ダメ。言うまで絶対ダメ!」
しかし、寸でのところでまた彼女の手が早い。
「……」
流石に漢の眉間に皺が寄ってきた。
元々短気な彼だ。そろそろ限界に近い。
「可愛いだぁ?」
「……そう」
目線を逸らして赤くなる。
「…オレ様が言うと思うか?」
「言わないから…思ってくれてるか知りたいの…!」
ここまで言っても言ってくれないなんて思わなかった、と彼女は余計意固地になる。
「……」
こういう所はやはり餓鬼だ。
先程大人になったようだなんて思ったのは取り消したい。
「もういいわ!バカ!!」
布団を引っ張って、彼女はクルリと寝返りをうつ。
漢は布団から追い出されてしまった。
「……オイ」
春といっても、朝晩はまだ冷え込む。
まして黒の着流しは完全に乱れて、肌が露出している。
当然、寒い。
「…知らない!」
間違いなく機嫌を損ねてしまった。
「返しやがれ」
力任せに布団を引っ張るが…。
「ヤダ…!」
彼女が逆を向いたまま必死にしがみついて離さない。
「…餓鬼」
本当に餓鬼だ。
ハッキリ言わないから拗ねた。
「どうせガキよ」
イジケた。
「………」
夜の空気は、漢の身体にひんやりと染みてくる。特に背中。
けれど、彼は心の底で笑った。
口には出さないが、イジケる彼女は…彼女の求める言葉通りだ。
本人に自覚はないだろうけれど。
「バカ女」
「きゃ…!」
結局、力で漢に勝てる訳などなく。
アッサリ布団の中へ侵入された。
「……」
それでも些細な抵抗か、彼女は漢の方を向かない。
彼に見えるのは白い背中だけ。
だから彼も、彼女に背を向けてくっつけた。
「ひゃっ…冷たっ!」
「てめぇのせいだろ」
漢の広い背中は冷えていた。
逆に彼女の背中はとても温かい。
ぴったりくっつけていると、彼にもだんだん温もりが戻ってくる。
「ねぇ…」
「……」
彼女が何を言いたいかは分かっている。
こうして顔を見なければ…言えるだろうか?
漢が必死に絞り出した言葉は、彼女をはしゃいで舞い上がらせ…そのまま襲われた。
*****
「ウソ!どっちが!私は抱きついただけよ!!」
って真っ赤になりながらゆや子が言うんだと思います。(笑)
「返しやがれ」で思い出したけど、30巻の「その躯と女は渡さねえぞ」→「その女とオレ様の躯を返しやがれ!!」→「その女を返せ!!」…だんだん余裕なくなって、優先順位変わってる鬼眼に愛を感じますv(笑)
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